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『ラシーヌ便り』no. 211 「4月フランス出張」

1) 4月フランス出張

 4月9日より、フランスに出張しました。主にシャンパーニュの造り手を訪ね、5日間にわたって行われるシャンパーニュ地方の試飲会「Le Printemps des Champagnes」に参加しました。
 Vinitalyの期間と重なったので、イタリアのたくさんの方々から 「Yasukoは来ないの?」 と言っていただいたと、あとで聞きました。

 最近、ずっとそうですが、近年のワインを味わって「ワインが重い、甘い、ストラクチュアがない・・・」 と感じてきました。今回の出張でも、そのことを強く確認しました。気候変動は、地球が悲鳴を上げているのだから仕方ないですが、私も、それぞれ皆がその原因の一人なのです。
 また、高額ワインの生産地では、ボトル差や微かなオフフレーバー、輸送保管で多発する問題を恐れるあまり、手をかけすぎる結果、単調でエモーションのかけらもないような味わいになってきています。

 今年も2月が暖かくて、芽吹きが早く、そして4月に入って最低気温は2-3度。日中も本当に寒かったです。どこに行っても遅霜の心配と被害を防ぐために夜中中火を燃やして、電力を使って水を噴霧し、対策をするという話題となり、「全くすごい費用はかかるし、エコじゃない」と何度も聞きました。氷点下にならないように祈る日々です。

 ネットでは、栽培環境の危機についての記事が毎日のように見られます。でも、それでも感動するようなワインに出会いました。この味わいが生まれるのに、この人はどのような工夫、努力を尽くし、感覚を研ぎすまして、そして楽しくワインを造っているのだろうか、と思いました。このような出会いがあるから、まだまだ出張は続きそうです。身体を鍛えねば! 皆さまありがとうございました♪

 

2)パスカリン・ルペルティエ 【混乱するワインの世界に登場したヒーロー】

 1月末にニューヨークからパスカリン・ルペルティエさんが来日されました。KURA MASTER(フランスで2017年から開催されている日本酒のコンクール(品評会))の招待で、九州と兵庫の酒蔵を訪問されました。帰国前日、羽田に着いたのが20時。夕食をご一緒し、翌日羽田に行く前に、パスカリンたっての希望で、千葉県の寺田本家を訪問しました。

 最終日の2日間、短い時間でしたが、大切な時間をすごしました。これまでも、サロンの場や、造り手の訪問でご一緒することはありましたが、パスカリンの言葉からたくさんの大切なことを感じた瞬間でした。

 最近私は、「昨今のワインの高騰、ワイン産地の変化、気候変動に流されて、ワインそのものが変わってきている。それでも輝きで感動させてくれるワインを造る人は生まれてきている。そのようなワインに出会い、ひろめていくにはどうすればいいか」と、さまざまな困難に疲れていました。そのような時に、パスカリンの言葉から、私自身の在り方が根底から覆され、叩き直されたように感じています。素顔の彼女は、ワインとサービスへの敬意と情熱、仕事に対する誇りにあふれ、そして明るく誰に対しても垣根のない人柄です。

 ロワールで生まれ、大学では哲学を学び、24歳で学問からワインの世界に方向転換をしました。2008年に活動の場をニューヨークに移しましたが、きっと、ニューヨークという多様な才能を持つ人々にあふれ、経済的にも、巨大なエネルギー空間である街が、彼女の純粋で、はてしないワインへの献身とプロジェクトを可能にしているのでしょう。

 今の彼女の活動はまさに、混乱するワインの世界に登場した「ワインとは何かを根底から考え直すきっかけを作るヒーロー、女神」だと思いました。

 2022年からマンハッタンでレストラン「チェンバーズ」をワイン・ショップのチェンバーズ・ストリート・ワインズ(元「ニューヨーク・ラシーヌ」の経営者の一人)と共同で経営しています。ワインリストは彼女の頭の中を映し出しているようです。「レストランの基本は、暮らし、季節、気分を調和させることです。店のコンセプトは、毎日のあなたの近所の完璧なレストランになること。ワインリストは、押し付けがましいですが、私が出会ってほしいと思う、ワインの世界で起こっている、これから現れる未来のワインを紹介しようとしています。」「世界中には、出会うべき、これまで以上に並外れた品質のワインがあるのです」「若い人たちにも、適正な価格でワインを楽しむ機会を提供したい。そして新しい視点を提供し、異なる考え方を試みる場所でありたい」。

 ミシュランでは、「チェンバーズのワインリストは冒険的かつバックヴィンテッジで埋められ、驚くほど手頃な価格で構成されている。」と評されています。

「目標は、おいしい食べ物を食べて、おいしいワインを適正な価格で飲める、そんなご近所の親しみやすいお店。もちろん、私たちはマンハッタンに住んでおり、そこでは運営コストが桁違いに高くなりますが、繰り返しになりますが、私たちは他とは違うものになりたいと考えています。高騰したワインを名前で飲むお金持ちに付き合わない」と彼女は言います。 

 私も、日本のマーケットに「未来を造っていく作り手たちのワイン」を紹介できるよう努めたいと思います。

 

〈パスカリン・ルペルティエ経歴〉
 フランスのロワール地方出身。
 2014年マスター・ソムリエ
 2018年フランスのソムリエコンクール優勝、Meilleur Ouvrier de France。
 2023年世界ソムリエコンクールのフランス代表
 そのほか
 Wine & Spirits 2011で5人のベストソムリエの1人に選出
 Time Out NY で New Wine Prophets (新しいワインの預言者)
 Food & Wine で Natural Wine Evangelist (ナチュラルワインの伝道者) 
 Wine Scholar Guildで教鞭をとり、栽培とワインについてMille Vignes, Penser Le Vin de Demainを出版

 
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