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ファイン・ワインへの道Vol.91

弟分じゃない(はず)。バルバレスコで愛でたいクリュ。

 ビオワインの大がかりな詐欺がイタリア南部で摘発されるという香ばしいニュースも伝わってきた3月でありましたが・・・・・・。 このコラムで2号連続、バローロのクリュについて書かせていただいた手前、バルバレスコについても触れないのはあまりに落ち着かず(罪悪感さえあり)、偉大な(バローロと同等に)バルバレスコのクリュについても今月は少し触れさせていただければと思います。
 ちなみに、イタリアのビオワイン詐欺ワイナリーとは、EU から支給される有機栽培転換助成金を不正受給したワイナリー。助成金を受けながら畑から禁止化学成分が検出され、巨額の罰金が科せられたとのこと。 なぜか具体的ワイナリー名は公表されておらず、 南イタリア、カンパーニア州のワイナリーということだけが発表されています。
 同類の所業は、広いヨーロッパでこのワイナリー 1社だけであることを祈るばかりです。

 ともあれ、バルバレスコについて。タイムリーな話題は、いよいよここでも北向き斜面でのバルバレスコ用ネッビオーロ植栽を地域の委員会が検討し始めたというトピックスでしょう。バローロ 同様バルバレスコでも、長らく北向き斜面にこのDOCGを名乗るネッビオーロを植えることは禁止されていました(少なくとも名目上は)。
 しかしご想像通り。 現在の地球沸騰化気候の下、少しでも日照がソフトな北側斜面でのネッビオーロ栽培が検討されることは(少し遅い気もしますが)理にかなっていますね。認可されれば是非、同一生産者・同一年で 北向き斜面のものと南向き斜面のクリュを比較してみたいものです。やや、先にはなりそうですが。

 その北向き斜面案件ほどタイムリーな話題ではありませんが、先月お伝えしたバローロ同様、参考までにお伝えしたかったのは、バルバレスコ、計66クリュの格付けのお話。大御所イタリア人ジャーナリスト、アレッサンドロ・マスナゲッティによる私的な格付けです(「I Cru di Enogea, Barolo & Barbaresco Classification」電子書籍のみ)。
 バルバレスコは星ゼロから5つ星まで、全部で6段階格付け。そのうち最上位になる5つ星のクリュは5つ。
 アジリ。マルティネンガ。モンテフィーコ。ラバヤ。ロンカリエッテ、です。ここはまず順当なセレクト、でしょう。(一部の生産者の手腕が、クリュの真価を最大限に発揮できていないような気がするとはいえ)

↑バルバレスコの、いわばグラン・クリュ街道、アジリ(水色の部分)、マルティネンガ、ラバヤは隣り合わせに。

 

 ↑リオソルドからの風景。小さな谷を挟んで西から東にアジリ,マルティネンガ,ラバヤが並ぶ. ラバヤの斜面が西向きに周り込んでいるのも分かる 。

 そしてここでも、バローロの格付けの場合のように、別格視されるカンヌービが3ツ星の低位だったようなサプライズがあります。それは、 アジリのすぐ隣の丘となるパイエが3ツ星評価なこと。 かのクリケット・パイエもここで生まれるのですが、マスナゲッティ本人に理由を訪ねると「極わずかに標高が低く、寒暖差に欠ける」とのこと。パイエの標高は210~260m。5ツ星のアジリは200~290mで、さほど変わらないようにも思うのですが・・・・・・。 それがマスナゲッティ氏の個人的見解のようです。いつも霧の中ですね・・・・・・、イタリアの謎は。

 と、なんとも混迷多いクリュ選びですが、私として手がかりにすることが一つ。それは“その時代時代で突出して勢いある生産者が新たに入手するクリュは、注目に値する”、というセオリーです。
 それぞれの時代で突出して勢いがある(ゆえ大変に潤沢な資金力を持つ)生産者といえば、例えば近年ではロアーニャでしょう。彼らが 2010年代に新たに生産を開始したバルバレスコのクリュ、アルベザーニ、ガッリーナ、ファセットは、いずれも香り、味わいとも傑出した深遠さと奥行きが響き渡る、記憶し探し求めるに値するグランクリュ、そのものです。 ラベルでもバルバレスコの文言よりも、クリュ名を一段と大きく太い文字で、さも誇らしげに表示しているのも、 長年目をつけ念願かなった格別の区画という思い入れが現れているようにも・・・・・・見えませんか?
 そんな、“各時代で勢いある生産者の新取得クリュは要追跡”セオリーは、バローロにも当てはまります。古くはモダン・バローロ時代に勃興した(一山あてた)ドメニコ・クレリコが取得したジネストラ、パオロ・スカヴィーノが取得したロッケ・デッラヌンチアータ、モンヴィリエ―ロ、プラポ、なども、十分な資金力を振り分ける先として厳選された特別な畑だけある 優位性と潜在力がある畑でしょう(それを、一時は醸造法介入しすぎた感も否めませんが)。
 そしてさらに時代を遡れば、 オッデーロが所有するランゲの宝石のようなグランクリュの数々(ロッケ・ディ・カスティリオーネ、ヴィッレーロ、ヴィーニャ リオンダなどなど)も、 19世紀以来の歴史を誇り20世紀半ば以来隆盛した名家が目をつけただけあるクリュ、そのものです。

 ともあれバルバレスコ。 長年バローロの弟分、などとさえ言われ、一段下に見られた感も否めませんでしたが・・・・・・、 先述したマスナゲッティ氏は堂々「僕はバローロよりもバルバレスコが好き」と語ってくれました。 実は私も、長年両者を飲み比べるうちに、 特に20年ほど熟成させた後に現れるバルバレスコの温かみのある果実味と明るい妖艶さは、年を経ても厳格で時には冷たさを感じるバローロの酸とタンニンの質感よりも、個人的には好きになって参りました。
 バルバレスコはバローロの弟分なのか?  それとも、それぞれに特徴がある異なる個性として愛でてあげるのが良いのか。 いろんなクリュを長い目で、飲み比べてあげると・・・・・・、開けると思いますよ。きっと。新たなネッビオーロ選びの視点が。

 

今月の、ワインが美味しくなる音楽:

咲く花を、スローモーションで見るような、
ベルギーの“農家のフォーク”。

Catbug 『Vervliegt』

 待ち望んだ春に、つぼみから少しづつ開いてゆく花々の様子を、ゆっくりとしたスローモーション・フィルムで見るような・・・・・・アコースティック・サウンドなのです。ギターとトイ・ピアノ、穏やかな女性ヴォーカルのみで聞かせる、ほっこりと平和で素朴、牧歌的な音は、まるでロワールやアルザスの上質の白のナチュラル・ワインが舌にふれた時のような、澄んだトーンと幸せを、スッと心に運んでくれます。
 作者の女性アーティストは、ベルギーで実際に小さな農場を営みながら音楽活動を続けているそう。そんな彼女の日々の、土と植物への慈しみまで、音の間から優しく伝わる気がしますね。
https://www.youtube.com/watch?v=XKodqtjh1P0

 

今月の言葉:
 常識を捨て、根本に立ち返ることは、大変勇気のいることで、非常に難しい。しかし、このことの大切さは、あらゆることに通じる。
        柳宗理(デザイナー)

 

寺下光彦
ワイン/フード・ジャーナリスト
「(旧)ヴィノテーク」、「BRUTUS」、「MEETS REGIONAL」等に長年ワイン関連記
事を寄稿。アカデミー・デュ・ヴァン 大阪校」、自然派ワイン、および40年以上熟
成イタリア・ワイン、各クラス講師。イタリア、ヴィニタリーのワイン品評会・審査
員の経歴も。音楽関連記事も「MUSIC MAGAZINE」に約20年、連載した。

 
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