『ラシーヌ便り』no. 108
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最終更新日:2014/12/26
定番エッセイ, 合田 泰子のラシーヌ便り, ライブラリー
no. 108
9月の訪問記録
ピエモンテ・プリンチピアーノへ
9月12日早朝、パリ経由でトリノに着き、バローロのプリンチピアーノを訪問しました。 早速プリンチピアーノの最上キュヴェ、ボスカレートの畑に駆けつけ、収穫前の様子を見せていただきました。8月は雨がちでしたが、当日は久しぶりに晴天に恵まれ、これからは晴れると、フェルディナンドの顔も晴れやか。バローロの南端に位置するセッラルンガ村のボスカレートの畑は、他のクリュの畑よりも標高が高く、急峻で320m~400m。ジャコモ・コンテルノ家のモンフォルティーノは同じ斜面の一番上に位置し、その下方に同家のカッシーナ・フランチャが続き、プリンチピアーノ家のボスカレートはカッシーナ・フランチャの真下にあります。石灰質に富み、南西向きの斜面で素晴らしい日照に恵まれます。幹線道路から農道に入り、細い道を5分ほど進んだ奥まった場所にあり、まわりには森が残り、鹿や猪など動物が生息し、車の音も聞こえません。急斜面にある畑の手入れは仕事が行き届き、草に覆われた土壌からは地霊が感じられ、実勢は上部の畑に勝るとも劣らないと見うけたのは、ひいき目かしら。「ブドウ畑の環境は生物の多様性が大切なのに、バローロはどこもすべての丘がブドウ畑に覆われている。」とフェルディナンド。そういえばどこのワイン産地でもとかくモノカルチャー(単一農産物栽培)がまかりとおり、畑の構成にあまり余裕や遊びがないようです。
収穫が始まるころには、霧がたちこめる一帯は、その日は360度視界が見渡せ、ブドウ畑に覆われたいくつもの丘陵が続き、はるか向こうにアルプス山脈の雄大な景色が見渡せました。
セラーで、2013年をテイスティングしましたが、いずれのキュヴェも澄んで魅力にあふれ、しなやかで上品な果実味と、エネルギーの詰まった温かさがありました。タニックで鋭い酸が持ち味のフレイザ種でさえ、フェルディナンドの手にかかればエレガントで優しく、本当に驚きました。今後数十年、フェルディナンドは新たな伝統の表現者となるに違いないと、あらためて確信を深めました。
《ニコラ・ルナールの本気》
トリノからパリ、続いてロワールへ。ニコラ・ルナールの新たな出発を確認のため訪問。思えば長いつきあいとなるニコラは、他に真似できない飛びぬけたワインを造る点にかけては、疑いなく天才です。が、天才には気まぐれがつきもの。いつも内心、ワインが商品となって出てくるまで、ハラハラしどうしです。なのに、このたびは大きな嬉しい驚きでした。なんと、理想的な洞窟のカーヴを入手していたらしいのです。
今年の1月、「ワインを造ったので、よかったら会いにきてください」と、たった一行のSMSメールを受け取り、すぐさまニコラのもとに飛んでいったことはご存知の通り。2014年からアンボワーズで、シュナン・ブラン、シャルドネ、ソーヴィニョンを造ることになっており、畑の旧持ち主からセラーの一部を借りると聞いていました。
がニコラは、実際に作業をするにつれて不便を感じ、自分のセラーを持とうと思い立ち、つい最近インターネットで探し始めたところ、なんとアンボワーズの駅から10分ほどの川沿いにある、洞窟つきの廃業したネゴシアンの小さなカーヴが売りに出ていました。洞窟は一つ、奥行きは10mほどでしょうか。そうこうするうちに、隣人の洞窟も購入することになりましたが、何と奥行きは100mもあり、中で元の洞窟とつながっていました。「私も50歳、最後にいい仕事をしたいからね」とのこと。値段を聞いて高くないのに驚きましたが、幸運な物件に出会えてニコラはとても満足げ。これで長期エルヴァージュ計画も、準備は万端。
昨年、一樽だけ造ったロワール・シェールのシュナン・ブランは、さらに一年間樽で熟成するという。「やっぱり、私のドライなシュナンの原点は、ニコラにあった!」と叫ばずにいられない、素晴らしいシュナン・ブランでした。八月は好天に恵まれ、このまま行けば、2014年は良いとしになりそうです。
2011年からニコラが3ヴィンテッジ造ったサン・ペルレは、2012年と13年はまだ樽に入っています。この春リリースされた2011年は、ビン詰めから一年間たって味わいが落ちつき、美しいまとまりが出てきていました。骨格・奥行きとも姿を現し、大変おいしくなっています。今後、サン・ペルレがどうなるかわかりませんが、ラシーヌとしてはロワールに専念してもらいたいと願っています。
数年間過ごしたアルデッシュでのワイン作りも、ひとまず一段落。これからはアンボワーズの理想的な洞窟カーヴで、思い切り醸造できるようになったわけです。ニコラの前途明るい再出発を、心から喜んでおります。
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