『ラシーヌ便り』no. 104
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最終更新日:2014/12/26
定番エッセイ, 合田 泰子のラシーヌ便り, ライブラリー
no. 104
メインリー・オン・ジョージア
5月中旬にフランスに向けて発ち、20日からパリ発でジョージアへ。目的は、本年11月末に予定されている、ジョージアの造り手たちの来日についての打ち合わせと、クヴェヴリワインのさらなる理解のためです。西部グリア地方をスタートに、中央部のイメレティへ。21日にゴギタ・マカリゼを訪問しました。30歳のゴギタと31歳の兄イラークリ兄弟のマラーニ(醸造所)が目当てです。二人とも、じつはポリフォニーの名手として有名です。2012年までは、家庭用のワインを作っていただけで、2013年から本格的にワインを造り始めました。昨年彼らを訪ねた時に、栽培の素晴らしさ、ワインの素晴らしさ、人柄のすべてに驚きました。2013年ヴィンテッジから本格的にスタートすると聞き、その場で2014年分のリリースからの取り引きをお願いしました。より冷涼な環境での醸造をするために、クヴェヴリ(素焼きの甕)を深く埋めているのには驚きました。マラーニはまだ完成していませんが、感覚の良さがひしめいているワインです。
さて翌日は、イメレティ地方にあるクタイシの街から、45km北の山間部の村レクフミへ。45kmといっても、道が悪い山路なので、途中川の手前でジープに乗り換え、3時間近くかかって到着しました。ラマズの母方のおじさんが住んでおられる村で、ラマズも幼い頃何度も夏休みにはこの村で過ごしたそうです。ワインの購入は見送ったのですが、下界と隔絶された、秘境に足を踏み入れたと感じました。標高の高い、昔ながらの栽培法で、一株仕立てで大切に栽培されているツォリコウリは本当に美しく、おおらかな印象でした。花崗岩質の土壌から生まれるブドウは、独特の風味があり、ミネラルの高いブドウです。効率、収穫量などの考えとは無縁のゆっくりとした時の流れの中で栽培されるブドウに魅せられ、静かな時間を感じながら、畑を歩きました。ラマズに「あなたが造ったら、どれほど素敵なワインができるかしら」と言ったら、本当に嬉しそうな笑顔で、「ここのワインを飲んで、自分もワインを造ろうと思ったんだ」と話してくれました。
24日は、ジョージア全土からのワインをほぼ一堂に集めた、一大ワイン・フェスティヴァル。大企業のワイナリーが集まるエリアと、小さなワイナリーのエリアがあり、クヴェヴリ協会のメンバーは小さな方にブースを共同で出していました。素敵だったのは、ファミリー・ワインのコーナーがあり、それぞれご自慢の「私のワイン」を披露していました。とても良いものが幾つかあり、ラマズさんに通訳してもらって、質問したら、10リットルしか生産量がないとか、5haの畑を持ってるが、ブドウを売っているので、作っているワインは、家族用の一つの甕だけとか。当たり前のことですが、いいものもあれば、厳しいものもあり、でもそれぞれがその家の味。5リットルのペットボトルに入れて持って来たり、と様々です。自慢のおつまみもあって、やあ、みんな本当に楽しそう。ラシーヌで、もう少しお手頃で販売できるワインを真剣に探した後は、私も楽しみました。
今回の2000kmを超える造り手を訪ねるジョージアの旅は、ラマズの骨身を惜しまない人柄に支えられて実現しました。車中いろいろ話をしたのですが、印象に残っているのはやはりクヴェヴリ協会の発足当時の苦労でした。
ラマズ談: ソリコと活動を始めた頃、みんなに、「クヴェヴリ醸造を遺す活動だって? 近代醸造の時代に何を言ってるんだ? そんなワイン造ったって、誰も振り向いてくれないよ。」と言われ続けた。でも、世界文化遺産に認められ、イタリア、フランス、スペイン、ドイツの優れた造り手がクヴェヴリ醸造を始めた。ファッションでなく、その魅力を知った人たちの輪が広がってきている。そうなった今、20000トンもの生産量のワインをクヴェヴリワインとして売り出そうとする動きがある。そんなこと、できるわけないだろう? だから、私たちは、より真剣に真のクヴェヴリ醸造の仲間とともに、この伝統を守っていかないといけない。マーケットに私たちの独自性を、発信して行くんだ。
写真:ファミリー・ワインコーナーにて
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