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ファイン・ワインへの道Vol.87

土壌の表示マーク? まず火山性土壌から、スタート予定。

 生成AI、Chat GPT に「1万円以下で卓越した品質のブルゴーニュの赤を教えて」と聞くと、ルイ・ジャド、 ルイ・ラトゥール、ビショーなどのAOCブルゴーニュを熱く推されて・・・・・・AI が人にとって替わる日は近いのか、まだまだ遠いのかと頭が混乱したり。
 フランスおよび各国で報道される若者のアルコール離れを尻目に、アメリカで人気で、若い世代に新しいワインファン層を広げているというヒップホップ・アーティストでワインマニア、ジャーメイン・ストーン(Jermaine Stone) のYouTube「STREET SOMM」を見ると、登場するワインはなんともスポンサー・コンシャスなものばかりだったり・・・・・・。と、相変わらずワインを巡るニュースは悲喜交々、ですね。
 このヒップホッパー、ジャーメイン・ストーンのホームページ、その名も、「The Original WINE and HIPHOP」内では、アメリカ各地のストリートフードと、ワインのペアリング提案のところは、少しだけ興味深かったですが。(例えば、ジャマイカン・ビーフ・パティとドイツのピノ・ノワールの組み合わせ、など)。

 

フランス、オーヴェルニュは、火山性土壌の宝庫。

 そんな交々の中、最近比較的興味深かったのは、「ワインが生まれた土壌を保証する認証マークが誕生する」というニュースです。
 先陣はフランス中央山塊、オーヴェルニュ地方の、火山性土壌ワイン。この地域内の火山性土壌で生まれたワインに、「VOLCANIC ORIGIN」(火山起源)の認証マークをつけることが、INPI(フランス産業財産庁)に認可されたのです。 

 フランスで火山性土壌とは、 あまり一般的イメージではないかもですが、実はオーヴェルニュ地方は“火山の国”とも呼ばれるエリア。約80もの休火山が 南北約50km、幅4kmに渡って帯状に並ぶ、シェーヌ・デ・ピュイ火山郡を擁し、その景観はユネスコ世界遺産にも登録されています。

 その火山郡の最高峰ピュイ・ド・ドームは標高1465m で・・・・・・、もしその頂上付近に畑が開かれれば、 シチリア、エトナ山のブドウ栽培標高上限とされる1,100m付近を越える可能性も、内包していますね。

 ともあれ。
 今回、オーヴェルニュ(AOCコート・ドーヴェルニュ)の火山性土壌認証マーク「VOLCANIC ORIGIN」の実現に尽力したのは、ドメーヌ・ド・ラ・クロワ・アルパンのオーナー、ピエール・ゴワグー、ドメーヌ・ミオランヌのジャン・バティスト・ドゥロッシュらが中心となるチーム「VINORA」。 研究は2019年以来、火山学者、地質学者、フランスワイン研究所と共同で入念に進められ、「ワインに自然な新鮮さと、素晴らしいミネラル感を与えることが火山性土壌の素晴らしい美点である」とVINORA中核メンバー、ピエール・デプラは語ります。認証には火山岩(玄武岩、安山岩、流紋岩などを含む)、および火山性堆積岩土壌(火山泥を含む)が表示対象となります。

 

「VOLCANIC ORIGIN」は、この認証マークに。

 もちろんオーヴェルニュといえば、ヴァン・ナチュールの鬼才 ピエール・ボージェ、ヴァンサン・トリコ、ラ・ボエムなどを擁するエリア。しかしながら栽培面積はわずか350haほどの小さな地区で・・・・・・この認証マークを機に、オーヴェルニュにさらなる脚光が当たってもいいかもしれません。もちろん、その際には火山性土壌の美点を大いに隠蔽するもの(=ありきたりな培養酵母や、多量の酸化防止剤添加)とは無縁の生産者を選ぶことが、我々消費者としては第一に(認証マークよりも)大切ですが。

 

今後はフランス各地~世界にも拡大?

 実は筆者は、約10年前のイタリア取材でも、ほぼ同じコンセプトでイタリアの火山性土壌ワインに特定のマークをつけるというアイデアを、生産者から聞いたことがあるのですが、そちらの方は、イタリア的時間感覚と協議感覚(?)で、まだ実現には至っていない様子です。
 イタリアは、おなじみのエトナ山だけではなく、バジリカータのヴルトゥレ山、モンタルチーノから見えるアミアータ山、ヴェネトのガンベッラーラ周辺などまで。半島の南北、大変に火山性土壌に恵まれた国でもあります。特にガルガーネガと火山性土壌の相性の良さは・・・・・・皆さんご存じ、ですよね。

 今回の認証マークは、将来的にはオーヴェルニュにとどまらず、フランス各地、および世界に点在する火山性土壌の地での適応も視野に入れているとのこと。
 まずはフランスで、アルデッシュ、ラングドック・ペゼナ(Pézenas)などに加え、コート・ド・ブルイィや、アルザスの一部も対象エリアとするヴィジョンもある、とのことです。

 さらに将来的に、より細かく、土壌を保証する認証マークが生まれるのならば・・・・・、 個人的にはクォーツ(石英)が豊富な区画、という表示が実現すれば、夢のようですね。
「うちの家が持っている畑の中で、畑の石にクォーツが豊富な区画から、どうやら一番いいワインができるようだ」との言葉は、なんとも奇遇なことに2人の偉大な生産者から、偶然の一致にしては出来すぎのように実際に私が聞いた言葉です。2人の偉大な生産者とは、【ブルーノ・シュレール】と、【クリスティアン・チダ】です、と言えば説得力100倍増、でしょうか?
 実際は、彼らが持つ元々大きくはない所有地の中でも、クォーツが豊富な区画はごく一部で・・・・・・、「Quartz Origin」のラベルは、やはり夢物語で終わりそうではありますが。

 そんな交々の中、火山性土壌起源(Volanic Origin)の認証マークは、来年2024年2月にパリで開かれる見本市「Wine Paris & Vinexpo Paris 2024」でお披露目される予定。最初は静かで小さな噴火、だとしても、その“平和的火の手”のゆくえは、見守ってみたいものですね。

 

今月の、ワインが美味しくなる音楽:
師走の忙しさをほぐす・・・・慈愛の美声。

Nana Caymmi 『Clube Da Esquina 2』

 多忙な年末、なんとか少し心に平安が欲しいよね、という時期にはこの美声が本当に助かります。
 声自体に慈愛、(慈悲?)さえ感じさせる、澄んで温かな女性ヴォーカル。 ブラジルの大御所シンガーなのですが、ジャズ、ソウル、R & Bファンなどなど。 ジャンルを超え、幅広い音楽ファンの胸をきっと打つ、ミディアム・テンポで深い歌声なのです。
 忙しさでギザギザしがちな神経をスゥ~っと穏やかにしてくれるだけでなく。 この人、ナナ・カイミの声のタッチには、熟成した偉大なワインと共通する深みと滋味がある気さえするのですが・・・・・・、この時期つい開けたくなる熟成ボトルと共に、ご確認いただくのも、きっと一興かと思います。
https://www.youtube.com/watch?v=7hj5622jSJw

 

今月のワインの言葉:

「ワインの世界では、あまりにも多くのプレーヤーがワインのイメージを傷つけています。人々は騙され、騙されることが許されている」
 ジャック・ピュイゼ (醸造学者、「フランス味覚研究所」創設者)

 

寺下光彦
ワイン/フード・ジャーナリスト
「(旧)ヴィノテーク」、「BRUTUS」、「MEETS REGIONAL」等に長年ワイン関連記
事を寄稿。アカデミー・デュ・ヴァン 大阪校」、自然派ワイン、および40年以上熟
成イタリア・ワイン、各クラス講師。イタリア、ヴィニタリーのワイン品評会・審査
員の経歴も。音楽関連記事も「MUSIC MAGAZINE」に約20年、連載した。

 
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