合田玲英の フィールド・ノートVol.112 《 ミーニョのアルヴァリーニョ 》
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9月8日、ラシーヌのポルトガルの新規4生産者のワインの出荷が開始します。5年前から徐々に増えた既存のポルトガル5生産者のワインも出荷開始となりますが、ポルトガル生産者のワインが一斉に出そろったのは2年ぶりのこととなりました。この間、生産地での様々な資材の入手が困難な状況なようで、さらにポルトガルワインの入荷量増加に当たり、現地の輸送環境の理解と安全な輸送体制の確保などのために入荷タイミングが遅くなってしまいました。コンテナ組のための一時保管の倉庫で冷蔵設備が装備されているものが無いため、寒い間の輸送が不可欠で、更なる安全確保のためにラシーヌの輸入部チームで可能性を模索しているところです。
ラシーヌではフランス、イタリアに加えて9か国から各国1~5生産者ほど生産者をご紹介していますが、地域全体、国全体でファインワイン生産の機運が高まっています。ラシーヌ代表の合田、塚原によれば「90年代後半にフランス全土で優良なヴァン・ナチュールの造り手が、そしてシャンパーニュのRMの造り手たちが、次々と生まれた時のような感覚を覚える」とのことです。
さて、今回のポルトガルの新規4生産者についてですが、内3生産者はポルトガル本土からは遠く(1600km)離れたピコ島のワインです。詳しくは「合田泰子のラシーヌ便りno. 195(http://racines.co.jp/?p=18633)」と、ラシーヌの各生産者紹介ページをご覧ください。
【エントレ・ペドラシュ】:http://racines.co.jp/?winemaker=entre-pedras
【ティトズ・アデガ】:http://racines.co.jp/?winemaker=titos-adega
【アデガ・ド・ヴルカォン】:http://racines.co.jp/?winemaker=adega-do-vulcao
僻地のワインには、特異なテロワールから生まれる個性の魅力がありますが、それに加えピコ島の3生産者のワインにはグラン・ヴァンたる資質が備わっています。
そして4人目の生産者はミーニョ地方の【アデガ・エドムン・ド・ヴァル】。ヴィーニョ・ヴェルデの生産される地方で、2015年以降何度か足を運んだ地域ですが、スペイン国境沿い海側の彼らのエリアは、サブリージョンの無いエリアでワイナリーの数自体も少なく、ワイン生産は2008年が初VTですが2023年2月になってようやく出会えた造り手です。
微発泡で酸が高く、アルコール度数の低いごくごくワインという何年も更新されていなかった僕のヴィーョ・ヴェルデのイメージをガラッと変えてくれた、適度の密度の果実味と柔らかなテクスチャーのアルヴァリーニョです。彼らのワインは呼称制度の枠から外れており、ヴィーニョ・ヴェルデではないのですが詳細は下記参照。瓶詰後10年近くたってからリリースされるリゼルヴァも興味深いです。加えて兄のパブロが好きだという、こだわりのジン。個人的には最近ハイボールにはまっているのですが、香りと飲み心地のとても良いジンです。パブロはプレミアム・トニックで割るのが好きだそうですが、炭酸水で割ったり少し水を入れたりするのも彼らのジンの香りと伸びやかさが活きます。
Adega Edmun do Val
アデガ・エドムン・ド・ヴァル
造り手: Olalla & Pablo Ruibal オラーラ&パブロ・ルイバル
国・地域:Minho ポルトガル / ミーニョ
Instagram:https://www.instagram.com/edmundoval1790/
ラシーヌ生産者ページ:http://racines.co.jp/?winemaker=adega-edmun-do-val
【ワイナリーと造り手について】
エドムン・ド・ヴァルはオラーラとパブロ・ルイバルの兄妹が営む家族経営のワイナリー。彼らの父ラファエル・エドムンド・ルイバルは、ワイナリーのあるサン・フリアン(ポルトガル)から国境となっているミーニョ川を挟み車で5分の町、トゥイ(スペイン)の出身で、物理学者でありながら実業家として、スペインで活動していた。その一方でワインメーカーになるという夢を常に持っていたので、ポルトガル出身の母親のいとこが農園を売り出す聞いたとき、すぐに購入をすることに決めた。全オーナーによればフィロキセラ禍前は広大なブドウ畑が広がっていたそうだが、一度全ての畑が無くなってからは、再度のブドウ畑は盛んには行われなかった地域だそうだ。
農園には1790年に建てられたという石造りの家もついており、そこを醸造所とするべく改装をすると同時に、周辺12haのうち6.7haにアルヴァリーニョを植樹した。1999~2000年のことだった。しかしその後10年近くブドウの樹齢が若いことを理由にワインの醸造は行わず、その間に父の情熱を受け継いだ娘のオラーラが醸造学を学び、息子のパブロと共にワイン造りの体制を整え、満を持して2007年から醸造を始める。
畑から醸造まで一貫して職人気質の品質にこだわったワイン造りを目的としており、ビオロジック栽培のブドウは全てワイナリー周辺にあり、ブドウは自社畑のもののみを使用し、醸造や販売時期も十分に時間を取って行われている。リゼルヴァに至っては10年の歳月をかけてからリリースされる。
◆出会い
初のワイナリー訪問は2023年2月。ピコ島からポルトガル本土へ戻ってきた日の午後だった。ピコ島出立前に、とある生産者がエドムン・ド・ヴァルの名前を教えてくれた。ポルトの空港からは往復6時間の距離だったが、何度も足を運んだエリアであるにもかかわらず、取引生産者がいなかったこともあり、無理をしていくことにした。突然の訪問依頼にもかかわらず、パブロ・ルイバルはワイナリー訪問を受け入れてくれた。果たしてようやく一軒目のミーニョ(ヴィーニョ・ヴェルデ)地方の生産者となった。
【畑と栽培について】
畑はミーニョ地方を取り囲みスペイン国境ともなっているミーニョ川のすぐ南、サン・ジュリアオンの谷の北側にある。6.7haの畑は標高150mの日当たりの良い丘に、1100本/ha、コルドン仕立てで植えられている。3m×3mというのは広いようだが、アルヴァリーニョの植樹率としては最適だと彼らは考えており、畑の向きは北から南へと様々。土壌は花崗岩土壌。
ビオロジック栽培(認証:IOBC、Certis)で管理しており、敷地面積の約半分はブドウ畑ではなく、林として残しており周辺地域の生態系を維持し、長期的に土壌を肥沃に保つことを目指す。
【セラーと醸造について】
斜面に建てられたセラーは1790年に建てられたという石造りの農家で、地下室もついていたので醸造所としては十分に機能する。エドムン・ド・ヴァルのアルヴァリーニョとヴィーニョ・ヴェルデ地域の典型的なアルヴァリーニョとの違いは、すべてのワインが瓶詰めされる前に長期間澱の下で熟成され、市場に出荷されるまでに最低でも1年以上待つこと。
冷やしてのむ微発泡性の白ワインではなく、熟成能力も備えたワインを造り出すことを目標としている。というのもスペイン出身の彼らの父が当初目指していたのはリアス・バイシャスの修道士たちが造っていた、昔のシュール・リースタイルのアルヴァリーニョだったのだ。またヴィーニョ・ヴェルデ全体でも、安い微発泡の白ワインというイメージから脱却すべく、高品質な白ワインな市場を目指す造り手も2010年代以降確実に増えている。
収穫したブドウは除梗破砕後、スターターとともに醗酵を開始し、発酵温度帯は15~16度。ステンレスタンクでの熟成中は、定期的にバトナ―ジュを行い、味わいに厚みを持たせる。翌年夏にタンジェンシャル・フィルターをかけてビン詰め。エントリーレベルのソブレ・リアスでさえも瓶詰から約1年間落ち着かせてからリリースする。
◆原産地呼称について、“ヴィーニョ・ヴェルデ”か“ミーニョ”か(2023年7月聞き取り)
エドムン・ド・ヴァルがワイナリーを構える地域は、地域のワイナリーが数件しかないことから、サブリージョンが指定されていない。また、東に隣接するモンサン・サブリージョン以外では2020年VT以前のアルヴァリーニョ100%のワインをヴィーニョ・ヴェルデで呼ぶことは認可されていない。
2020年VT以降、ヴィーニョ・ヴェルデと名付けるのかどうか。早飲み微発泡のヴィーニョ・ヴェルデの持つイメージとは違うワインを造っている彼らにとっては、ヴィーニョ・リージョナル・ミーニョでも十分に確立されたブランドがあると信じており、いまのところ呼称変更は考えていない。
また以前は彼らも、ロウレイロやトレイシャドゥーラなどの地品種を栽培しブレンドしていたが(リゼルヴァは常にアルヴァリーニョ100%だった)、2013年以降はソブレ・リアスでもアルヴァリーニョ100%へと切り替えた。2015年にはヴィーニョ・ヴェルデ全体でもヴァライエタル・ワインとしてアルヴァリーニョと表記するには、アルヴァリーニョ100%での醸造が義務付けられた。
~プロフィール~
合田 玲英(ごうだ れい) 1986年生まれ。東京都出身。
2009 年~2012 年:ドメーヌ・レオン・バラル(フランス/ラングドック) で研修
2012 年~2013 年:ドメーヌ・スクラヴォス(ギリシャ/ケファロニア島) で研修
2013 年~2016 年:イタリア/トリノ在住
2017 年~:日本在住
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