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ファイン・ワインへの道Vol.83

地球の、巨大ワイン試飲会(プロヴァインなど)の”歩き方”。

 いよいよ来年4月10日~12日、東京ビッグサイトで「プロヴァイン東京」(ProWein Tokyo)の開催が決まりました。毎年3月ドイツ、デュッセルドルフで開催される世界最大規模のワイン試飲会の一つ「プロヴァイン(ProWein)」の縮小版です。
 これは、待ち遠しいですね。 この巨大試飲会は本国ドイツを離れた各地(シンガポール、上海などなど)での過去開催例を見ると、さすがに本国同様5,000~6,000生産者が参加とはいかず、規模はその1/6~1/8程度になるようです(コロナ前、2019年の上海で、37ケ国から820社が参加)。しかし仮に、約800のワイナリーが参加したとしても・・・・・、十分に膨大、かついくら頑張っても試飲ワイン全ては飲みきれない規模です。
 筆者はコロナ直前、上海でのプロヴァインにも参加しましたが、ドイツ本国のものと比べ、フランスやイタリアのビッグネームの参加者はかなり少なかったとはいえ、しかし例えばブルネッロの雄、クパーノが2005年から2015年までの主要ヴィンテッジをヴァーティカルで供したり、ラングドック・ルシオンの未知の優良生産者に出会えたりと、十分に有意義な発見に満ちた試飲会でした。 

 そんな中、今回プロヴァインなどなど、地球各地で行われる試飲会で、より効率的に、かつ抜け目なく、偉大な発見をつかみ取るためのコツ、すなわち巨大試飲会の”歩き方”を、おせっかい至極ながら何点か、お伝えできればと思います。

 最重要ポイントは下記、3点です。 

 ポイント1: 注目国の出展者リストは完全に目を通すこと(どんなに時間と忍耐が必要でも)。
 基本中の基本で、最重要です。ドイツ本国のプロヴァインの場合、出展者約6,000社。フランスだけで947社、イタリア1,471社が試飲ブースを出します。行き当たりばったりで歩いて試飲すると、めぼしいワインに全く出会えない、という結果になるはずです。 
 ほぼ全ての巨大試飲会で、出展者リストは事前にネット公開されますので、そのリストを文字通りモニター画面に穴が開くほど入念にチェックし、めぼしいワイナリーをリストアップし、その出展ブースを書き出し たものをプリントアウトして、会場で自分の地図代わりに持ち歩くことが重要です。 
 私は2023年のプロヴァインでも、フランス947社、イタリア1,471社のリスト全てを入念に時間をかけ、精読に精読を重ねました。 
 フランスをチェックするだけで2時間以上かかったかと記憶します。イタリアは、それ以上でした。しかしその努力と忍耐(涙ぐましい?)によって、ジュゼッペ・クインタレッリ、ブルーノ・ジャコーザ、ヴィエッティ、エリオ・アルターレなどなどのトップキュヴェ、トップクリュの最新ヴィンテージの出来栄えが、優良なのかイマイチなのか、様々なブルゴーニュのグランクリュの出来栄えの上下などなども非常に効率的に、最短の移動時間で実際に自分の舌で体感・確認することができました(勿体なくも、大量にスピットしながら・・・・)。
 ともあれ、出国前の事前の出展者リストチェックと、マイ・リスト化により、普通に歩いていると出会える確率900分の1、1,400分の1のブースに、正しく たどり着けたわけです。 

 プロヴァイン以外にも出店者のリスト化と詳細な情報開示は、多くの大型試飲会で行われています。少し前にお伝えした通り、ナチュラルワイン専門のロウ・ワイン・フェア(RAW WINE FAIR)では、出品されるほぼ全てのワインに関して、亜硫酸トータル量まで明記されています。 
 絶対に飲みきれない、回りきれないことが最初から確実な試飲会では、そのようなデータを事前に可能な限り詳細にチェックして、訪問ワイナリーの優先順位を決めることが、大感動・新発見への鍵です。 

このパビリオンでさえ、全体のわずか1/17。 しかも、この写真の通路は、そのパビリオンの主要通路の わずか1/5をとらえたのみ。 それくらい、巨大すぎる会場なのです。 

 

 ポイント2:マスタークラスやセミナーに積極参加すること。
 プロヴァインの大きな魅力の一つが、無数のマスター・オブ・ワインや、各国のワインメディアの編集長クラスのエキスパートが、それぞれの得意分野や各エリアの依頼を受け、自らセレクトしたワインと共にセミナーを行うことです。本国のプロヴァインでは3日間で、セミナーは合計303回!
 このセミナーで出されるワインは、やはりMWやトップ・ワインエキスパートが選ぶだけあり、上質で、サプライズのあるクオリティのものが非常に多いのです。 
 当然、セミナーも事前に内容と日時がウェブに公開されます。それを精読し、予約が必要なものは確実に申し込むことが、偉大な発見への近道になります。
 内容は、例えばこんな風です。
https://www.prowein.de/vis/v1/en/search?oid=29556&lang=1&_query=&f_type=activity

ドイツ、バーデンで特に火山性土壌が強い、カイザーシュトゥールのブルゴーニュ系品種に特化したセミナー、なども。 

 実際、 私も得意分野ではないドイツワインに関しては、ファルツ地方やバーデン地方に特化したセミナーや、デメテールが主催したドイツのビオディナミ・ワイン・オンリーのセミナーに参加し、そこで選ばれたワインの中から、傑出し卓越した品質のワインを発見。セミナー後にすぐ、その生産者のブースに直行し、さらに深く幅広くその生産者のワインを把握する、という作業を繰り返しました。
  特に、ドイツのワイン流通専門誌「ヴァインヴィルトシャフト(WEINWIRTSCHAFT)誌編集長、クレメンス・ゲルケ氏が、バーデンの中でも特に火山性土壌が強い地区、カイザーシュトゥールのブルゴーニュ系品種に特化して行ったセミナーなどは、現地の専門誌編集長ならではの見識の深さで、有益な発見につながりました。
 また、ブラジルのメトード・クラッシコ・スパークリング・ワインの信じられないほどの素晴らしさを発見することができたのも、そのマスタークラスに参加したからこそ、でした。
  とにかく、巨大試飲会のマスタークラス、セミナー、およびスタンド・アクティビティは、ワインの未知の新・金鉱を発見するための非常に効率的な近道の一つです。こちらも事前告知をチェックするには時間も労力もかかりますが、それをかければかけるほど、貴方は報われるはずです。

デメテール主催、ドイツの優良ビオディナミ生産者のセミナー。新進気鋭の若手生産者もフォローされていた。 

 ポイント3: 試飲を中断する勇気(と冷酷さ?)を持つ。
「この生産者のワイン、ダメだな」と確信することも、巨大試飲会場では多々(不幸にも)起こります。いかに入念に下調べしていても、です。
 しかしながら、一度生産者のブースで試飲を始めると、イマイチなシャンパーニュの生産者や、イマイチのブルゴーニュ、ピエモンテの生産者さえ「はい次はコレ。はいその次はコレ」という風に10種類、時には 15種類ほどのワインが、楽し気に”当然、飲むよね”という風に、次々に(時にわんこそば状態で)サーヴされます。すでに試飲3番目くらいで、「あ、このワイナリー全然イケてない」、と判断できたにも関わらずです。
  日本人の大いなる美徳である礼儀正しさ(時に、気弱さ)は、会場で頻発するこのような場面では、とてもネガティヴに働きます。
  すなわち「あ~、ここで試飲ストップして、ブースを立ち去ると申し訳ないなあ、生産者がかわいそうだなぁ」と気を回し、イケてないワインを最後まで、試飲してあげるはめになることです。 
 この気遣いは、全く持って時間の無駄になります。生産者をイマイチと判断した場合、日々の自分の信条に反してでも、冷酷なほど冷静にブースを立ち去ることが、有意義な試飲の密度を高めます。そしてそれが、最少時間で最大発見への道、となります。私も、そのことに気付くまで、かなりの時間ロスをしたものです、今思うと。
 では皆さん、少し気が早いですが、一社でも多い上質生産者の参加を願いつつ、来年のプロヴァイン東京で、お目にかかりましょう。

 

今月の、ワインが美味しくなる音楽: 

ナチュール・キューバ?
カタルーニャ発、美声女子アコ音。

Rita Payes 『Algo Contigo

 キューバの古き良きメロウ音楽を愛するブラジル人女性ユニットのアコースティック 作・・・・・・と、てっきり思ったのですが、意外にもスペイン、カタルーニャの母娘のコラボ作、でした。
 それにしても。高名なブラジルとキューバの大御所の作を彷彿とさせる、母のギターのタイム感と、音の“間”の完璧な心地よさ、そして録音当時19歳だったという娘の、まるで酸化防止剤無添加の素朴なシュナン・ブランのような、飾り気のなさの中に素朴なツヤがある歌声。どうにも、瞬時に記憶に残る心地よさ、なのです。 
 まだ少々続きそうな長雨の季節の暑気払いにも。初夏の黄昏時に飲むワインも。それぞれの時間の幸せを、この曲はきっと高めてくれるでしょう。きっと。

https://www.youtube.com/watch?v=ctb9uuxJVHQ

 

今月の言葉:
「野球は八割が事前の備えで決まる」
                 野村克也 

 

寺下光彦
ワイン/フード・ジャーナリスト
「(旧)ヴィノテーク」、「BRUTUS」、「MEETS REGIONAL」等に長年ワイン関連記
事を寄稿。アカデミー・デュ・ヴァン 大阪校」、自然派ワイン、および40年以上熟
成イタリア・ワイン、各クラス講師。イタリア、ヴィニタリーのワイン品評会・審査
員の経歴も。音楽関連記事も「MUSIC MAGAZINE」に約20年、連載した。

 
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