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合田玲英の フィールド・ノートVol.108 《 マネンティ:チェラスオーロ・ディ・ヴィットーリア 》

 

 シチリアはヴィットーリアから、今月も新規生産者の紹介です…!! ボトルの肩のマークから分かる通り、栽培家グループのイ・ヴィニェーリによる栽培・醸造指導を2006年から受けていました。
 たまたまレストランで【マネンティ】のワインを見かけたので、サルヴォに尋ねて確認したのですが、それまでサルヴォの口からワイナリー【マネンティ】の名前が出てきたことはありませんでした。
 でもそれは【マネンティ】のオーナー、グリエルモ・マネンティの「イ・ヴィニェーリの栽培チームとサルヴォには、ゼロからワイン造りを教えてもらい、本当に感謝している。だからこそ、販売先まで頼りっきりになるつもりはない」との考えがあったからでした。 

 物事の進め方が実直で着実、メールのやり取りや上の植樹年を記した写真からも、その几帳面な性格がうかがえます。
 丁寧な造りを感じさせるグリエルモのワインですが、垂直的な緊張感よりも、南のエリアのワインらしい大らかさが特徴です。 イ・ヴィニェーリのコンサルタントを受けているとはいえ、最終的なワイナリーの方向性と、ワインの味筋を決めるのはやはりオーナー自身なのだと、グリエルモのワインを飲むと思います。

 生産量は極々少量で、日本への出荷量はワイン全4種を合わせても1パレット(=600本)もないほど。今年グリエルモは定年を迎えるので、ワイン造りひと筋に注力できる、と言います。が、かといって畑の購入を考えている様子がないので、生産量は増えなさそうです。さらに悪いことに害虫の被害にもあったよしで、以下の残念な知らせが届きました。

「2022VTは、2006VT以降はじめてネーロ・ダーヴォラが収穫できず、チェラスオーロも生産されない年となります。8月、近隣地区のすべての生産者が、葉を壊死させてしまう虫(Jacobiasca lybica=ヨコバイ科。見た目はバッタのような虫)の被害を受けました。8月中旬以降のことです。
 それは、ちょうどブドウの色づきの時期であり、それまで美しく成長していたブドウの成熟を遅らせることになりました。さらにネーロ・ダーヴォラは、フラッパートよりも深刻な被害を受け、9月末の時点でブドウの糖度はかなり低く、潜在アルコール度数は10%前後でした。
 有機殺虫剤として、はじめて除虫菊を使用したものの、あまりにも虫が密集していて効果はなく、ほかの生産者からブドウを購入することも考えました。じっさい入手もできたのですが、たとえビオ認証を取得していたところで、実際に畑がどのように管理されていたのかはわからないので、その考えも捨てました」
 生真面目な人柄が、伝わってくる文面です。

【ヴィットーリアについて】
 フラッパートとネーロ・ダーヴォラの赤2品種がヴィットーリアのあるラグーザ地方では最重要品種となっている。紀元前3世紀からのブドウ栽培を物語る品が発掘される地域ではあるものの、1970年代までは生産者の元で瓶詰めされることは少なく、多くのシチリアのブドウ栽培地域同様、北部のワイン産地への糖度の高い果汁の提供がブドウ果汁の主な用途だった。1980年代以降、若手を中心に元詰めを行う栽培・醸造家が増え始める。大学の同級生3人が集ってワイン造りを始めたC.O.Sなどはその良い例だろう。2005年にはチェラスオーロ・ディ・ヴィットーリアはシチリア唯一のDOCGに認定された。チェラスオーロ・ディ・ヴィットーリアには、イタリアのDOCG赤ワインからイメージされるような色や抽出物の濃さはなく、チェラスオーロ(=サクランボのような)と名付けられているように、赤い軽やかな果実が香り、色合いはロゼではなく薄い赤色。

【ワイナリーと造り手について】
 シチリアの農家に生まれたグリエルモ・マネンティ。父は野菜農家で、航空技師を夢見たグリエルモは、大学を卒業しその道に進んだ。ブドウ栽培やワインへの関りはその後、多くはなかったが40歳を過ぎた頃に、C.O.Sのチェラスオーロ・ディ・ヴィットーリアを飲んだことで、今まで味わったことのない飲み口に驚き、ワイン造りの道を模索し始める。とはいえ彼にとってブドウの栽培、ワインの醸造は未知の世界であったので、醸造学校へと通いながら、ワイン造りに精通した人物を探していた。そして2005年46歳の時にサルヴォ・フォーティに出会い、彼のワイン造りと哲学に共感したグリエルモは、サルヴォに正式にコンサルタントを依頼。以降サルヴォの助言を受けながら以前の仕事も続けつつ、兼業でワイン造りを始めた。
 5haの土地をヴィットーリアエリア内のバストナカ地区に畑を購入し、ワイナリーとして2006年に登録した。このVTが彼にとっての最初の収穫であり、チェラスオーロ・ディ・ヴィットーリアDOCGを初ボトリング。その後土着品種であるネーロ・ダーヴォラやフラッパートを植樹し、そのほかのキュヴェも造り始める。 ワイナリーの建設は急がず、費用も掛かるため、年産3,000本でスタートしたワイン造りを最終的に何本まで生産したいか、など綿密に考えサルヴォとも相談しながら設計。2023年夏にようやく完成。それまでは、同じくサルヴォがコンサルタントをしている、キアラモンテ・グルフィのセラー(畑からは20kmほど)に間借りをさせてもらいながら、ワインを造ってきた。
 2023年、グリエルモは航空技師としての仕事は定年を迎えワイン造りに更に専念できると、64歳にしてさらにやる気に満ちている。

 

【畑・栽培について】

 栽培はサルヴォ・フォーティ率いるイ・ヴィニェーリの栽培家集団と協力しながら行っている。グリエルモはワイナリー開設時に多くのブドウ畑を買ったわけではないので、現在5ha所有する畑のほとんどを自分で植樹する必要があった。
 畑の場所はシチリア南東部のラグーザ県、チェラスオーロ・ディ・ヴィットーリアDOCGの中心の生産地区でもある、バストナカ地区で、フラッパート、ネーロ・ダーヴォラ、実験的に植えたカッリカンテを栽培。
 石灰粘土質で鉄分を多く含む土壌と、霧がなく昼夜の寒暖差の大きい気候によって、この地のワインは特徴付けられる。近年イタリア全土で猛暑が報告されているが、フラッパートは土着品種ゆえか、土地・気候に順応し2021年にラグーザ一帯の8月の外気温が43℃前後にまで上昇した際も、葉が枯れることもなく、問題なく成熟したという。

【セラー・醸造について】
 初醸造の2006年VTから2022VTまでは、サルヴォ・フォーティがコンサルタントを行う、キアラモンテ・グルフィ村のグルフィ醸造所のセラーを間借りして、ワイン造りを行ってきた。自身のセラーは畑の真横にあり、2023年夏に完成予定。グルフィ醸造所は醸造設備は整っているが畑から20kmほどの距離にあるので、長らく不便な環境でのワイン造りだった。「セラーの完成が待ち遠しいよ」と、グリエルモ。

 

~プロフィール~

合田 玲英(ごうだ れい) 1986年生まれ。東京都出身。
2009 年~2012 年:ドメーヌ・レオン・バラル(フランス/ラングドック) で研修
2012 年~2013 年:ドメーヌ・スクラヴォス(ギリシャ/ケファロニア島) で研修
2013 年~2016 年:イタリア/トリノ在住
2017 年~:日本在住

 
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