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ファイン・ワインへの道Vol.80

何でしょう? 一番大切なテーブルマナーは?

 ワインのテクニカルな話は今回は一休みです。私には分不相応の極みながら、テーブルマナーのお話です。突然ですが、ディナーやワイン会の間中ずっと、携帯をさわってる人、皆さんの周りにいらっしゃいませんか?  私は先日、二人も同時に目撃しました。しかも8名が一卓に座り、然るべきワインが出た席で、です・・・・・・(泣)。
  一番大切なテーブルマナーは何でしょう? それは当然、ナイフ、フォークの使い方などなどといったことは5の次、6の次です。
 文豪、開高健は常々あちこちに「ひとつだけでもいいから、何か面白い、または興味深い話を持参して、テーブルで話すこと」と書いております。
 なんでもいいから話すこと。

開高健。『ロマネ・コンティ・一九三五年』の著者。大阪市天王寺区出身。

 それが一番大切なテーブルマナーだ、という訳です。先日は、その話を真に受けている私は、もう時代遅れの古代人なのかとさえ思わされました。
「食卓こそは、人がその初めから決して退屈しない唯一の場所である」と言ったブリア=サヴァランも、もう私と同様に古代人かもです。
「人が何を食べているかより、誰と食べているかを見よ」と言ったエピクロス(ギリシャの哲学者)からすると、そんな人と食べている私がダメ人間ということなのでしょうね・・・・・・。痛恨の極みであります。
(お一人はある程度お年のお医者様、もう一人は有名な出版社にお勤めの方だったのですが)
 ちなみに開高健は、ワインラヴァ―には、あの『ロマネ・コンティ・一九三五年』の著者として有名ですが、元サントリー宣伝部でトリスウイスキーのコピーなどにも、名作を遺しております。

 ともあれ。食事の間ずっと携帯をさわってる人のために、ではないですが、
 最近ちょっとまとまってワインに関する名言・箴言を発見したので 、何かの話題のきっかけになればと思い、いくつかご紹介しますね。

「ワインは、私たちの人生をより豊かにし、私たちの心をより高める」 マルセル・プルースト
「ワインは、友情と愛情を深める力強い薬である」 ベンジャミン・フランクリン
「ワインは、私たちが最も重要な喜びと共に飲むものだ」 アルベール・カミュ
「ワインは、人々の間に平和と調和を生むものだ」 ヴィクトル・ユーゴー
「ワインは、心の中に明るい火を灯してくれる」 ダンテ
「ワインは、あなたの考え方を変える」 ウィリアム・ブレイク
 いやはや。さすがの鋭さ、詩情、そして格調高さであります。

 そして私が最も身につまされたのは
「ワインは、物語を書くのに最も良いインクだ」(ガブリエル・ハーヴェイ/17世紀イギリスの文学者)
 ワインにはそんな”功徳”があるというのに、毎回本当に粗相な文しか書けない私は、ワインの選び方を間違えているのか飲み方を間違えているのか、その両方なのか。
 いずれにせよ、さらにもっとワインを飲む必要がありそうです。
 ともあれ。ディナーの席で携帯を見たくなったら、上記のようなフレーズでも持ち出して「皆さんにとっては、ワインってどんな存在ですかねぇ?」てな話題でも、携帯見るよりマシな気がしますが、いかがでしょう?
 え、私にとっては、ですか?
「太陽よりも大切なもの」でしょうかねぇ。少なくとも。

追伸:
 携帯電話は見てなくても触ってなくても、ワイングラスの近くに置くとワインの味や香りを萎縮させるケースが多いです。おそらく携帯電話が集めている電磁波の影響ではないかと推測されています。このコラムをお読みの方々にはもう常識かもしれませんが。一度実験されると面白いですよ。
 私はワイナリー訪問時よく生産者とともに、ワイングラスの近くに携帯をおいて試飲する実験をするのですが、 多くの生産者は表情がひきつったり、顔面蒼白になったりするほどワインが閉じるケースが多いです。
 本当に不思議な液体です。ワインってやつは。

 

今月の、ワインが美味しくなる音楽:

ブラジル版クール・クライメット・サウンド。
澄んだ春の空気のようなスロー・フォーク。

Leonardo MarquesImperfeita Extidão

 ブラジル、ミナス・ジェライス州の音楽といえば、 沿岸部のボサノヴァなどよりもさらに涼しげで透明感がある響きで知られています。州の大半が高原と山岳地帯。それゆえの冷涼な空気感と、朝の霧のような浮遊感のある音で、ミナス・サウンドという一大ジャンルを形成しています。 このアーティストも2010年代以降のミナスを牽引する気鋭の一人。アコースティック・ギターとヴォーカル を軸に 、ゆったりとスローに展開する、 心地よすぎる弛緩感がある音は、まさに今の季節とマリアージュぴったり。山の奥で誰にも見られずに咲く桜の花の様子を音にしたような雰囲気も、周りに誰もいない場所でのお花見などにフィットしそうです。
 今回のトラックを含む2022年のアルバム「Flea Market Music」は、 アルバム全体、ハズレ曲ゼロ。 LPレコードを買っても家宝になりそうです。

https://www.youtube.com/watch?v=sIuV7VMijNQ

 

今月の言葉:

「私たちがみんなで、小さな礼儀作法に気をつけたなら、人生はもっと暮らしやすくなる」
  ―チャールズ・チャップリンー

 

寺下光彦
ワイン/フード・ジャーナリスト
「(旧)ヴィノテーク」、「BRUTUS」、「MEETS REGIONAL」等に長年ワイン関連記
事を寄稿。アカデミー・デュ・ヴァン 大阪校」、自然派ワイン、および40年以上熟
成イタリア・ワイン、各クラス講師。イタリア、ヴィニタリーのワイン品評会・審査
員の経歴も。音楽関連記事も「MUSIC MAGAZINE」に約20年、連載した。

 
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