ファイン・ワインへの道Vol.79
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最終更新日:2023/03/01
寺下 光彦の連載コラム, ライブラリー, 新・連載エッセイ ル・クロ・デュ・チュ=ブッフ, ロワール, ガメイ, カリニャン, 緊急救済処置, 2021, 収量激減
ガメイ&カリニャン・ブレンド@ロワールの感動。
目次:
1:上品でほがらかな酸と果実味の、心温まるバランス感。
2:ボルドーも将来、カリニャンをブレンド?
3:意外に魅力大。フランス、南北品種ブレンド・マリアージュ。
1:上品でほがらかな酸と果実味の、心温まるバランス感。
ロワールで、ガメイとカリニャンのブレンドワイン。それが今年2月の、私のサプライズワイン・ランク1位でした。
出会った瞬間、ボルドーに先がけて、ロワールで暑さに強いカリニャンをブレンドし、ワインに筋の通った酸を残すという、先進的かつ先駆的試みが断行されたか! とも思いましたが・・・・・・、ヴィンテッジは2021年。寒さと遅霜でブドウが甚大な被害を受けた年でした。ゆえ、アルザスの2012年などなどの不作年でも行われたサバイバル策かとも思い早速、造り手の【ル・クロ・デュ・チュ=ブッフ】さんに質問メールを送ってみました。
するとやはり。「2021 ヴァン・ルージュ」は収量激減ヴィンテッジの緊急救済措置だったそう。ガメイはシュヴェルニー南部、シェール渓谷の栽培家フィリップ・サレより、そして カリニャンはルシヨンのドメーヌ・ギゼからの買い葡萄でした。ブレンド比率は6対4。
それにしてもこのワイン。緊急措置とはとても思えない、凛々しく気品ある果実味と、キリッと筋が通りつつも過剰な主張のない奥ゆかしい酸、そしてどこか心温まる上品でほがらかなタンニンが心をゆらす、めざましく印象的なワインだったのです。
6:4というブレンド比率も、ルシヨンの中でも傑出したエリアで、かのジャン・フランソワ・ニックも本拠に選んだ、モンテスキュー・ダルヴェールのドメーヌを選んだのも、ピュズラ氏のさすがの慧眼、とも感じられました。
私はこのブレンドワインの将来の継続生産を大いに期待したのですが、「あくまで例外的な困難年のみ。南仏からロワールにブドウを運ぶ労力と手続きは本当に大変なので」とルイーズ・ピュズラさんの回答でした。
2:ボルドーも将来、カリニャンをブレンド?
それにしてもこのカリニャンというブドウ、酷暑と干ばつに強い、暑くても酸を失いにくいという品種特性上、今や地球気候危機下のワイン造りのちょっとしたスター扱いですよね。
なにせアルジェリアがフランス領だった時代の、アルジェリアでのブドウ栽培の最重要品種だったそう。1962年のアルジェリア独立時、国内には14万ha、すなわちボルドーを越える面積のカリニャンの畑があったとのこと。普通に栽培すると1ha あたり200hl! も収穫できるという、とてつもなく多産型の特性も、量が第一だった時代に重宝されたようです。
それゆえか、少し前までは、例えばジャンシス・ロビンソンM.W.などには「質的にはかなり失望する。フレーヴァーという魅力には欠ける」などなど、真正面からディスられているのですが・・・・、 良し悪しは別として スペイン最高額ワインの一つであるレルミタなど、プリオラートの多くの高額ワインには不可欠の品種でもあるところが、ワインの不思議なところです。
そして最初にも述べた通り、このカリニャンの酷暑下でも酸を失わないという品種特性を利用しようとする動きは、歴史と伝統を(過剰に)誇るボルドーでさえも、真剣に検討されています。 ボルドーのブレンド認可品種に、カリニャンを加えようという論議は、前向きかつ現実的な検討が進んでいるようです。
3:意外に魅力大。フランス、南北品種ブレンド・マリアージュ。
しかし(所詮)カベルネ・ソーヴィニヨンやメルローなどとブレンドするよりも、筆者としては期待したいのは、ガメイや、いっそカベルネ・フランなど 、今まであまりなかった 比較的冷涼産地の品種とのブレンドです。それはサルデーニャやスペインなど伝統的カリニャン産地ではなかったアイデア。かつ、このブドウの魅力のあまり知られていなかった新たな側面に光を当てるアイデアのようにさえ思えました。
その典型的な成功例と思えた、ル・クロ・デュ・チュ=ブッフ2021年ヴァン・ルージュ、買い逃した人は、【ピエール=オリヴィエ・ボノム】もガメイに南仏品種をブレンドしたヴァン・ド・フランスをロワールで生産しています。
お試しいただけばきっと。
ガメイと南仏品種のブレンドがみせる未知のパレットの新鮮さに、心ときめくことでしょう。
今月の、ワインが美味しくなる音楽:
春の木漏れ日のような、
シンプル・フォーク、北欧より。
My Bubba & Elisa 『Veronika』
アイスランド人とスウェーデン人、二人の女性ヴォーカリストがストックホルムで結成したネオフォーク・ユニットです。アコースティック・ギターと、ゆる~いヴォーカルのみの本当にシンプルで、素朴に音の隙間を聞かせる曲調は、北欧から見る古き良き US カントリーのような面影も、絶妙のチル・アウト感ある隠し味。
少しずつ春が近づきつつ、山に残る雪も多い今の時期の空気感を、そのまま音にしたようなアルバム「My Bubba & Elisa Sjunger Visor // Sing Swedish Songs」は、ロワールの淡いガメイやフランなど、昔ながらの風情ある田舎ワインと合わせて聞くと、早まってくる気さえするのです。春の訪れが。
https://www.youtube.com/watch?v=tLBELtOyE4s
今月の言葉:
「特別な状況を待って事をなそうとするな。普通の状況で試みよ」
ジャン・パウル(18~19世紀初頭のドイツの文学者)
寺下光彦
ワイン/フード・ジャーナリスト
「(旧)ヴィノテーク」、「BRUTUS」、「MEETS REGIONAL」等に長年ワイン関連記
事を寄稿。アカデミー・デュ・ヴァン 大阪校」、自然派ワイン、および40年以上熟
成イタリア・ワイン、各クラス講師。イタリア、ヴィニタリーのワイン品評会・審査
員の経歴も。音楽関連記事も「MUSIC MAGAZINE」に約20年、連載した。
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