ファイン・ワインへの道Vol.78
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寺下 光彦の連載コラム, ライブラリー, 新・連載エッセイ ネッビオーロ, ガッティナーラ, 北ピエモンテ, アカデミー・デュ・ヴァン, パオロ・デ・マルキ, イタリアワイン価格高騰, ゲンメ
飲んでますか? 北ピエモンテのネッビオーロ。
目次:
1:いよいよ(悲しい)現実に。イタリアワイン価格高騰。
2:トスカーナの巨星も、北ピエモンテに進出。
3:熟成で出現。ネッビオーロのミステリーと魔性。
1:いよいよ(悲しい)現実に。イタリアワイン価格高騰。
嘆かわしいニュースと嬉しいニュース=9:1。 それがワインの世界なのでしょうか・・・・・・。イタリアのトップワインの価格が次々に。ボルドーの一級シャトーの値段超え。それが昨年末のイタリア取材で実際に目で見た光景でした。
ミラノなど都心部だけでなく、アルバやバローロのワインショップでも。モンフォルティーノに続いて、 ジャコーザの赤ラベル、ガヤの単一畑、ジュゼッペ・リナルディ、アッコマッソ、などの価格が一級シャトーに迫るか、一部は超えかねない勢い。それに続いてフラヴィオ・ロッドロ、ジョヴァンニ・カノニカなど、知る人ぞ知る職人肌生産者のワインも、この3年間で2~3倍の値段になった感があります。
ボルドー、ブルゴーニュの価格高騰に続いて、次に来るのはイタリア、との話はこのコラムでも何年か前から繰り返し予言しましたが、これほど急激な上昇幅になるとは。現地見聞のトドメは、巨大なストックで知られるラ・モッラ村の有名ワインショップ「ヴィチーノ・ディ・ヴィーノ」 店主の嘆きでした。「仕入価格が1800ユーロ! ロアーニャのクリケット・パイエだよ。もうどうしていいのかわからない!!」との嘆きでした。
ご存知の通り、上記ワインの多くは、おそらく今日本の正規輸入元価格が世界最安値の可能性はあります。
2:トスカーナの巨星も、北ピエモンテに進出。
そんなご時世ゆえ、というわけではありませんが、実は今回お話ししたかったのは、北ピエモンテのネッビオーロのお話です。年末年始、色々とガッティナーラ、ゲンメなど熟成した北ピエモンテ・ネッビオーロを開けるにつけ、 再度その優美さに感服。 日本の一般的レストランで、このエリアのワインをリストに見ることがほとんどない、日陰者というか無視され続ける存在が、 何とも不憫に思えてきたのです。
ミラノ、マルペンサ空港から車でわずか1時間前後で着く北ピエモンテのワイン産地。その一部、ボーカなどはアルプス山麓のスタート地点とも重なり、 標高600m超えの地も少なくありません。
近年の話題は、何といってもジャコモ・コンテルノが、ガッティナーラ屈指の歴史的名門、ネルヴィを 買収したことでした。しかし個人的には、トスカーナ・サンジョヴェーゼ界のダライ・ラマ、イゾレ・エ・オレーナの創業者、パオロ・デ・マルキのへの進出でした。
コロナ直前、毎年フィレンツェで行われるキアンティ・クラッシコの巨大試飲会で、デ・マルキと直接話した際、彼が最も熱く語ったのが、自らのサンジョヴェーゼの話ではなく、この北ピエモンテ、レッソーナ産ネッビオーロの魅力と卓越性でした。
その翌月、ドイツのプロヴァインで、実際にデ・マルキのネッビオーロ、DOCレッソーナ2012プロプリエタ・スペリーノを試飲すると・・・・・・、バローロ、バルバレスコよりもストラクチャーはスリムながら、花の香りの純度の高さと、果実とミネラルの純粋さ、クリーン度が、大いに印象的でした。
3:熟成で出現。ネッビオーロのミステリーと魔性。
そんなストラクチャーのスリムさゆえ、よく熟成ポテンシャルを心配する声を聞くのですが、そこがまさにネッビオーロのミステリーにして魔界。
年末に開けたガッティナーラ1964年 ネルヴィ、 ゲンメ1961年 ベルテレッティとも。 ネッビオーロの醍醐味そのもののバラとスミレのドライフラワーの甘い香りが壮麗に花開きつつ、純粋でピュアに澄み切った果実味、つまりこの地方のネッビオーロの抗しがたい魅力が、ますます鮮明に花開いていました。
まさに繊細にして天上の優美さ。エレガントという言葉は本当に使い古された言葉ですが、熟成後の舌触りのきめ細かさとエレガンス、そして官能性は、北ピエモンテ・ネッビオーロは、時折バローロ、バルバレスコに勝るのかも、とさえ思えました。
ちなみに私が講師を務めさせているアカデミー・デュ・ヴァン青山校、および大阪校で、1960年代~70年代のバローロ、バルバレスコ、ガッティナーラなどを同時にブラインドでお出しすると、最も印象的なワインとしてガッティナーラに挙手される生徒さんが毎回必ず一定数、いらっしゃいます。それほど、の産地なのですよ。北ピエモンテ。
そんな、アルプス山麓のネッビオーロ、今のところまだ投機対象・値段暴騰の気配は少なく・・・、 もちろん高標高ゆえ地球気候危機(ヨーロッパの夏のアフリカ化)の時代にも僅かな希望が持てるという面でも。今年のワイン選びの選択肢から外すことは損失かもしれないとさえ思えるのですが・・・・・・いかがでしょうか。
もちろん、論より証拠の方々。話よりも実物を、 との方々には、 昨年の東京・青山校に続いて、アカデミー・デュ・ヴァン大阪校で。1960年代のガッティナーラ、ゲンメ、バローロ、バルバレスコのブラインド試飲を行います。もしお越し頂ければきっと、あなたの次回買いたいワインランキング・リストで、北ピエモンテ・ネッビオーロの順位がグ~ッと急上昇するかもしれません。
おそらく。きっと。
今月の、ワインが美味しくなる音楽:
春が近づく日の、優しい日差しのような、
ブラジルのアコースティック・フォーク。
Rodrigo Moreira 『Songs from the Lochsa River』
少しずつ春が近づいているなぁ、という感じが、昼の光に感じられるようになってきましたね。まさに、そんな陽光と、 春を待ちわびる気持ちをそのまま音に写したようなメロウ・アコースティック・サウンドです。
パッと聞くと70年代アメリカン・フォークのようなのですが、この作はブラジルの高原地帯、ミナス州で2022年のリリース。音にはボサノバなど、典型的ブラジリアンリズムはほぼないのですが・・・・音の奥の奥に香る、ミナスならではの優しく温かな透明感と浮遊感に、なんとも心が洗われます。
ロワールの飾らない白やガメイ、またはポルトガルの素朴なワインなどと、音の温和なタッチも綺麗に共鳴。一緒に味わうと、まるで一足先に部屋に春が来るようです。
https://www.youtube.com/watch?v=S0wi9vjiq70&list=OLAK5uy_livWiF1HjRBDO916ZMDalY_5CSF0SZNvg
今月のワインの言葉:
「酒の何かが君をとらえたが、それは叡智の本能でしか感得できないものだ」
アブー・ヌワース(8世紀、ペルシャの詩人)
寺下光彦
ワイン/フード・ジャーナリスト
「(旧)ヴィノテーク」、「BRUTUS」、「MEETS REGIONAL」等に長年ワイン関連記
事を寄稿。アカデミー・デュ・ヴァン 大阪校」、自然派ワイン、および40年以上熟
成イタリア・ワイン、各クラス講師。イタリア、ヴィニタリーのワイン品評会・審査
員の経歴も。音楽関連記事も「MUSIC MAGAZINE」に約20年、連載した。
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