ファイン・ワインへの道Vol.75
公開日:
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最終更新日:2022/11/02
寺下 光彦の連載コラム, ライブラリー, 新・連載エッセイ イタリア・ソムリエ財団, FIS, ブルネッロ, 宇宙とワイン, ワインの熟成, フランコ・マリア・リッチ, バロール, タウラージ, イタリア宇宙機構, ASI
宇宙の無重力空間 が、ワインに与える影響は?
ご心配なく。今月は、とてもソフトな話題です。
この何ヶ月か、あまりに後味が悪い(?)、話が続いたので、今回はお口直しのグラニテのような、たわいもない話です。
それにしてもイタリア人というのは本当に面白い人々ですね。この夏、「宇宙ロケット、および宇宙ステーションにワインとブドウ樹を載せ、無重力空間が与えるワイン熟成への影響と、ブドウ樹の成長への影響を再度調査する」とのプロジェクトが発表されました。
選ばれたワインは
アンジェロ・ガヤ/バローロ・スペルス 1988年、2017年
ビオンディ・サンティ(今やフランス人がオーナーとなってしまった)/ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ・リゼルヴァ2006年、2015年
フェウディ・ディ・サン・グレゴリオ/タウラージ・リゼルヴァ・ピアーノ・ディ・モンテヴェルジネ2012年、2015年です。
宇宙開発機関が、イタリア北部・中部・南部、えらくバランスの取れたワインをセレクトしているなぁ、イタリアの宇宙工学者にもワイン・マニアが? と思えるほどのセレクトですが・・・・、なんとこのプロジェクトの発案は、イタリア・ソムリエ財団(FIS)会長、フランコ・マリア・リッチ氏なのです。なんて柔らか頭なソムリエ財団会長なのでしょう。
素晴らしいですね、イタリア。
ゆえ、ワインの熟成に関しては、無重力空間が与えた影響から、宇宙空間までの往復の振動による悪影響を、十分正確に差し引いてジャッジしてもらえるであろうことも、このプロジェクトの吉報ですね。
さらに、今回のプロジェクトでは、ワインの熟成以上にワイン生産者が関心を寄せているとの研究課題があります。それは、無重力空間がブドウ樹に与えるかもしれないと期待されている、特殊な能力です。
実は、2020年に先行した、低重力空間での植物成長に関する研究では、低重力空間で栽培された植物は、寄生虫の侵入、病害および気候変動にまで、より耐性があるとの結果が出ているのです。
今回、ブドウの樹、およびワインは少なくとも2年、宇宙空間で過ごすとのこと。
もしブドウ樹に、今回も同じ結果が出れば・・・・ スター・ウォーズのスター・デストロイヤーなみの巨大宇宙船で、せっせとブドウ樹を宇宙空間に運ぶ時代の到来さえ・・・・祈念したくなりますね。
ちなみにこの計画、イタリア宇宙機関(ASI)と、先述したイタリア・ソムリエ財団の共同プロジェクトなのですが、 将来的にはボルドー大学など、他国の研究機関も参画に大いに前向きとのことです。
ともあれ。秋の夜空を見上げながら、そろそろガヤのワインは宇宙に届いたかな? と想像しながら飲むネッビオーロ の味わい。なかなかに新鮮な、風趣があることでしょう。
今月の、ワインが美味しくなる音楽:
Yo Soy Matt&Polocorp『La Niña del Volcán (Polocorp Remix)』
宇宙空間のワインの気持ちになれる?
浮遊感・メロウ・エレクトロニカ。
宇宙空間で熟成を重ねるアンジェロ・ガヤのワインボトルの気持ちを、音にするとこんな感じ?
フランスのちょっとつむじ曲がりのエレクトロニカ・クリエイターかと思いきや、このアーティストはメキシコ生まれメキシコ育ち。アステカ文明のミステリアス感を隠し味にしたかのような、 怪しい脱力感と浮遊感ある音は、秋が深まるこの季節にも不思議にフィットする雰囲気です。
ワインが美味しく(妖しく?)なるだけでなく、夜空の月が美しく見えるような効果さえ、感じられませんか?
https://www.youtube.com/watch?v=ZxNzi0knBSk
今月の言葉:
「十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない」
アーサー ・C・ クラーク
寺下光彦
ワイン/フード・ジャーナリスト
「(旧)ヴィノテーク」、「BRUTUS」、「MEETS REGIONAL」等に長年ワイン関連記
事を寄稿。アカデミー・デュ・ヴァン 大阪校」、自然派ワイン、および40年以上熟
成イタリア・ワイン、各クラス講師。イタリア、ヴィニタリーのワイン品評会・審査
員の経歴も。音楽関連記事も「MUSIC MAGAZINE」に約20年、連載した。
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