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ファイン・ワインへの道Vol.74

ボジョレよりも、“量が第一”。シャンパーニュ法定収量の奇怪。

目次:
1.2022年、またもゆるまったシャンパーニュの法定収量上限。
2.消費者を煙にまくための? 怪奇な表記法。
3.怒る、真摯なグロワー・シャンパーニュメゾン。 

1. 2022年、またもゆるまったシャンパーニュの法定収量上限。
 植木等の”無責任一代男”や、高田純次の”テキトー回答”の世界なんですかねぇ? シャンパーニュの法律。
 シャンパーニュのブドウ収穫量・法定上限が 、ボジョレのそれよりも高い(ゆるい)、なんて言っても、多分誰も信じませんよね。でも。残念ながら。本当です。
 ワインの品質の上下を分ける、最重要要因の一つである、ヘクタール当たりの収穫量。2022年にシャンパーニュ委員会は、いとも簡単に引き上げました。 その数値、ヘクタール当たり12トン。76.5hl/ha。 

 はい。ボジョレの60hl/ha、クリュ・ボジョレであるブルイィ、ムーラン・ナ・ヴァンなどの54hl/ha、さらにはブルゴーニュ・アリゴテの72hl/haよりも(!)、さらに高く、寛大至極な量です。  

 例えばジャンシス・ロビンソンは、過大な高収穫量を認める産地、ソアーヴェなどについて「105hl/haもの公認の高収量は、品質の破壊である」と、その著書に明記しています。
 ソアーヴェのブドウは多産でも比較的安定していると言われるガルガーネガですが、シャンパーニュ、中でも低収穫が重要なピノ・ノワールとシャルドネにこれほどまでの高収穫が認められれば・・・・品質の破壊度もひときわだと想像しても、過度の悲観主義ではないはずです。

 そもそもヴィンテッジによってホイホイと、法定収穫量を緩めるシャンパーニュの法制は、なんとも奇々怪々です。シャンベルタンの法定収穫量が、「今年は暑くて豊作だったから上げよう。今年は世界が不景気で、ワインがあまり売れないから下げよう」などという風にコロコロ上下したら、消費者はどう思われますか?
 それが恒常的に行われているのがシャンパーニュです。通常の法定上限は、ヘクタール当たり10.4トン(66.3hl/ha)。しかし、好景気でシャンパーニュが品薄となった2008年は12.4トン、けして天候に恵まれたとは言えない2011年にも、加熱する需要増にあっさり応えて12.5トンに引き上げられました。 

 ワインは土地の養分とミネラル(シャンパーニの場合は石灰土壌の味?ですか)を映す液体、と言われますね。ヘクタール当たりの収穫量が倍、ということは、一個の ティーバックから紅茶を一杯だけ入れるか、もしくは2杯入れるか、 という話にも近いように思います。
 1ヘクタールの土地に含まれている養分もミネラルも一定です。 そこから35hlしかとらないか、76hl取るか。液体に含まれるうまみ量は、同じとはいかないはずです。 

1haからグラス何杯分収穫するか。それが問題なのです。

2. 消費者を煙にまくための? 怪奇な表記法。
 もう一つ、シャンパーニュの法律の”奇々怪々”があります。それはまさに迷宮状の収穫量の表示法です。フランスの大半の産地はボルドーでもブルゴーニュでも、明快瞭然、ストレートに(素直に?)、「hl/ha」で表示しています。ところがシャンパーニュは 「 4 トンのブドウから、2,050Lのテット・ド・キュヴェ(一番搾り)、と500Lのプルミエ・タイユ(二番絞り)を搾汁」という表記です。まるで消費者をどうしても煙に巻きたいかのような・・・・戦法(姑息な陰謀?)とさえ思えませんか? これを換算すると、搾汁率は63.75%(テット・ド・キュヴェのみ使用のメゾンは51.25%)。つまり、2022年の場合、76.5hl/ha。テット・ド・キュヴェ(一番絞り)のみしか使わないとしてさえ 、61.5hl/haが容認されて・・・・それでもなおボジョレよりゆるく寛大な収量、なのです。

 そんな、ワインのヘクタール当たりの収穫量の話になると、思い出されるのは、かのラルー・ビーズ・ルロワと私が、直接お話しさせて頂いた時の事です。
 ルネサンス・デ・ザペラシオン、初の日本試飲会の時のことでした(2005年でしたか)。 その際、会場開門と同時にダッシュで向かったルロワさんのブースで、「ものすごく低収穫だと想像しますが実際はいかほどですか?」と尋ねると「ヴィラージュでも17~18hl/ha 」とおっしゃいました。それを聞いて「すごいですね。例外的ですね」と驚く私に対し、マダム・ルロワは淡々と、しかし何度も。
「これが普通です。これが品質を考えた場合の本来のピノ・ノワールの適正収穫量です。昔はみなこの程度でした。これが本来の普通なんです」と、語られました。諭すように。静かに。
(※ブルゴーニュ、コート・ド・ニュイ地方、赤の村名格ワインの収量上限は、ジュヴレ・シャンベルタン58hl/ha。グラン・クリュは35hl/haだが、クロ・ド・べーズ以外のジュヴレの特級は37hl/ha)

 マダム・ルロワ基準では、ブルゴーニュよりさらに寒冷なシャンパーニュで、同じ1haからマダム基準の4倍のピノ・ノワールが収穫容認されているわけです。 ティーバック一個から紅茶1杯ではなく、紅茶4杯・・・なのですね。

 おそらくこのあたりのことが、普通のカフェや普通のレストランでグラスで出てくるシャンパーニュの、その高邁なブランドイメージに反した絶望的な不味さの要因の一つではないかと推測されます。

3. 怒る、真摯なグロワー・シャンパーニュメゾン。
 もちろん、この記事を読まれている皆様が普段選ばれている、職人肌のグロワー・シャンパーニュは、法定上限の半分ほどの収量でワインを造っています。加えて、生産者側からの「シャンパーニュの法定収量上限はあまりにも高すぎる。甘すぎる!!」とお怒りのコメントも、私は度々、直接聞きました。

 ともあれ。通常でさえ 66.3hl/ha。猛暑の2022年は76.5hl/haもの高収穫が法律で保証されたシャンパーニュ。この産地は「生産量優先のために、品質の犠牲が法律で保証された産地」、とさえ思えないでしょうか?
 何度も言いますが、皆様が日々、愛飲されている職人肌グロワー・シャンパーニュは、今回の話とは全く無関係です。
 でも周囲に、とにかく一律に「クレマン・ド・ブルゴーニュやクレマン・ダルザスは安物。シャンパーニュだけが高級品!!」、と叫ばれてる人々がいらしたら・・・・・。
 1個のティー・ バックから紅茶4杯、の話は、してあげてもいいかもしれませんね。 

追伸:
冒頭にあげた昭和の名作コメディ曲、植木等「無責任一代男」は面白い歌ですよ。 YouTube などでも見られますので、お時間があれば是非。 
https://www.youtube.com/watch?v=njFPRjFP23I

※参考文献「フランスAOCワイン事典」三省堂 (2009年・第一版) 

 

今月の、ワインが美味しくなる音楽:

ささやく女性ヴォーカル・ダウンビートで
ワインと、秋の月が美しく。

MOONCHILD 『Too Much To Ask』

 秋は月が綺麗ですね。で、ムーンチャイルド。 アメリカ西海岸のチル・アウト、ネオ・ソウル、ダウンビート・ユニットなのですが・・・・・ゆったりした曲調と、フワリと浮遊感ある女性ヴォーカルの、ささやくような歌い方が本当に心地いいメロウ・トラックです。
 すでに5枚のフル・アルバムを出していますが、最新作よりもその一作前で、この曲を収録したアルバム「Little Ghost」が、特に晩夏から秋向けのなごみ感・大。 スパークリング、スティルを問わず、プレイするだけでワインが美味しくなるだけでなく。秋の月も、綺麗に見えます。
https://www.youtube.com/watch?v=G94JCbgAtRI 

 

今月の言葉:
「イメージアップなんかしなくていい。大切なのはイメージより、実力のアップなんだ」 
                  永六輔

 

寺下光彦
ワイン/フード・ジャーナリスト
「(旧)ヴィノテーク」、「BRUTUS」、「MEETS REGIONAL」等に長年ワイン関連記
事を寄稿。アカデミー・デュ・ヴァン 大阪校」、自然派ワイン、および40年以上熟
成イタリア・ワイン、各クラス講師。イタリア、ヴィニタリーのワイン品評会・審査
員の経歴も。音楽関連記事も「MUSIC MAGAZINE」に約20年、連載した。

 
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