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『ラシーヌ便り』no. 197 「ドメーヌ・ラロク・ダンタン:リディア&クロード・ブルギニョン夫妻が始めたワイン造り」

ドメーヌ・ラロク・ダンタン:リディア&クロード・ブルギニョン夫妻が始めたワイン造り】

 2019年秋、アンセルム・セロスから、メールが届きました。「何の連絡だろう?」と、どきどきしながらメールを開きました。
 「友人のリディアとクロードのブルギニョン夫妻がワインを造ったので、ラシーヌが取引をすることが望ましいと思いましたのでメールを書きました。リディアに連絡をとってください」
 土壌微生物学の世界的権威であるブルギニョン夫妻のことは2013年の来日の際、弊社主催の講演会で「ワイン造りにおける土壌と栽培家の役割」について、お話しいただいたことを覚えておられる方も多いと思います。土壌内の生物学的多様性を復元することを目的とした土壌分析専門研究所( https://lams-21.com/ )を立ち上げ、ロマネ・コンティ、ジャック・セロス、シャトー・オーゾンヌといったフランスの重要なドメーヌのコンサルタントをしてきました。シャンパーニュやブルゴーニュの多くの偉大な造り手たちと仕事を通して知り合ううちに、 “恐れ多くも” と謙遜して彼らは言いますが、次第に自分たちの手で畑を耕し、ワインを造りたいという欲求が生じたそうです。
 そして研究の集大成として、夫妻は畑を選び、ブドウを植え、ワイン造りを始めたのです。2010年頃から「いつか、カオールでワインを造るつもりだから、その時はぜひ試飲しに来てほしい」と、会うたびに話してくれていました。

 2019年の秋、初リリース(2017年ヴィンテッジ)を前に、このカオールワインのオファーをいただきました。2020年2月、コロナ禍による移動が制限される直前に、ボーヌでお二人からワインを預かり、テイスティングしましたが、正直なところ、ふだん私たちが親しんでいる味わいと大きく異なり、タニックで樽が強く、いつほぐれるのかわからない、得体のしれない味わい。ジャコモ・コンテルノのモンフォルティーノも若いうち(たとえばヴィンテッジから20年未満)は理解をこえた難しい味わいなのだからと、とりあえず到着したワインは、1年以上封印することにしました。
 しかし、1年後2018のサンプルが届いたときに、2017と一緒に試飲をし、堂々とした風格を備えた味わいの片鱗がみえ始め、2018年には格調とともにしなやかな伸びやかさがあらわれ出ており、続けて仕入れることにしました。私たちに機会をいただいたブルギニョン夫妻に感謝しました。 

【ドメーヌの創立】
 そもそも彼らが目を付けたのは、ワイン造りの長い歴史がありながらも忘れ去られていた、カオールの土地でした。カオールの、特に彼らが畑を購入したコート・デュ・ロットの丘のテロワールについては、ジュール・ギュイヨ(ギュイヨ仕立ての普及をはじめ、ブドウ栽培分野での業績で知られる19世紀の農学者)も、その際立った特別な存在であると文献に記しています。
 2005年のことですが夫妻が、ラロク・デ・ザルク村付近を探索していたところ、イバラやコナラの雑木林の広がる日当たりのよい丘を見つけました。そこは、140年間は放置されていたよしで、生物の多様性が手つかずのままだったそうです。キンメリジャン石灰岩の石ころだらけの丘陵地帯で、ほとんど森に覆われることなく、1870年代のフィロキセラの被害で放棄されたようです。化学物質の影響を受けておらず、東向きの割れ目だらけの石灰岩の一画で失われたテロワールを、かつてのブドウ畑に蘇らせる貴重な機会であること、そして、低価格で購入ができること、すっかりこの土地に学者としての興味をかきたてられ、翌年この小さな土地を購入しました。
 2006年、息子のエマニュエルも加わり、一家は森の伐採を始めました。何世紀も前の土地登記簿が見つかり、この地域が、昔ボルドーの人々が「オー・ペイ」と呼んでいた、繁栄した地域の一部であることが確認されました。
 2012年から2019年にかけて、家族総出で接ぎ木を行いました。生け垣や大きな樹木を残して開墾した結果、かつての高貴なテロワールの骨格を取り戻しました。

【畑と栽培について】
 穀物や豆類を植えて、土壌の生物多様性を活性化させることから始めました。クロードによれば、「通常のブドウ畑であれば土壌の再生に10年はかかるが、ここは農薬を一切使用していなかったため、わずか2年で再生できた」
 畑を開墾し整地した後は、土壌分析を行い、白ブドウ品種と赤ブドウ品種の区画に分けました。畑の上部は浅い石灰岩で、傾斜は35%まで上がり、傾斜が下がると粘土が多くなるため、白と赤の両方のテロワールがあります。2009年にキンメリジャンの土壌に1haあたり9,000本以上の密植度で、台木を植えました。台木はかつてよく用いられていたとされる、リュペストリ・デュ・ロ( Rupestris du Lot )を使用。複数の品種を混植しており、畑の管理は開墾時からビオロジック栽培、2021年からビオディナミ栽培を導入しています。
 品種はこのエリア固有の地品種を選び、挿し木は以下の通り、友人である名だたる造り手から譲り受け、セレクション・マサルで挿し木をしました。
 冬には、畝間を穀物やマメ科の被覆作物で保護します。ミツバチ、生け垣、果樹、野草が、この土地の生物多様性を示しています。

◆【IGP コート・デュ・ロット ネフェール・ブラン 2017】
 ブルギニョン夫妻は「太陽の光を浴びた結晶のような石灰岩」の味わいと表現しています。
白品種(2ha): 
ソーヴィニヨン・ブラン : ドメーヌ・フランソワ・コタ、ダグノー
ソーヴィニヨン・グリ : ドメーヌ・エリアン・ダ・ロス、シャトー・ド・ベルヴュ
モーザック・ローズ・エ・ヴェール : ドメーヌ・ロベール・プラジョル
ヴェルダネル: ドメーヌ・ロベール・プラジョル

◆【IGPコート・デュ・ロット ニグリヌ・ルージュ】
赤品種(4ha): 
マルベック :ドメーヌ・コルバン・ミショット
カベルネ・フラン :ドメーヌ・ル・クロ・ルジャール
プリュヌラール : ドメーヌ・ロベール・プラジョル
コ・ア・ピエ・ルージュ :ドメーヌ・ラ・グランジ・ティフェーヌ
ネグレット : シャトー・プレザンス

 
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