ファイン・ワインへの道Vol.72
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最終更新日:2022/08/01
寺下 光彦の連載コラム, ライブラリー, 新・連載エッセイ ブルゴーニュ, ピノ・ノワール, 気候変動のワイン産地への影響, 熱波, 1990年, 1985年
1985年、90年と比較する、熱波と森林火災の年のブルゴーニュ。
目次:
1. 殺人熱波の年、2022年。7月までの概況をミニ・まとめ。
2. 85年、90年のブルゴーニュ、気温推移と比較して。
3. それでも、人類は見て見ぬふり(?)
1. 殺人熱波の年、2022年。7月までの概況をミニ・まとめ。
気づいた時にはもう手遅れだった? かもです。すべて、今まで何年間も楽観視し続け、問題を先送りにし、呑気に無意味に大排気量4 WD車などを運転していた私(たち)の責任でしょう。
今年の熱波で、すでにブルゴーニュのコート・ドールの作付面積をはるかに超える面積の森林が、スペインで焼失。森林火災はスペイン、ポルトガル、南西フランス(ボルドーでおなじみ、ジロンド県を含む)、だけでなくアドリア海沿岸のクロアチアでも発生。ギリシャではアテネのすぐ近郊で発生した森林火災が住宅街を吞み込みました。イタリアでは、森林火災だけでなく、ピエモンテからヴェネトまでを貫く最大河川のポー川が所々干上がるという干ばつも発生しています。
ロンドンが史上初の40℃を記録し、ここでも市内の複数個所で火災発生。ボルドーも6月から40℃近く。 ブルゴーニュも6月から35℃を超える日が多発しています。モンタルチーノも連日38℃。ポルトガルでは46℃を記録、とのこと。
スペインの火災は6月、南部アンダルシア地方などで始まりましたが、その後、北西部の偉大な白ワイン産地、ガリシアなどでも広がっています。
ヨーロッパ全体で35,000人が暑さで死亡した2003年には、死者数ではまだ及んでいませんが、森林火災及びブドウ栽培へのダメージでは、2003年をさらに超えるかもという危惧さえ現実味を帯びています。
しかも、この原稿を書いている時点で、8月はまだ来ていません。
2. 85年、90年のブルゴーニュ、気温推移と比較して。
連日のニュース(悲報)に接し、個人的には死刑宣告を受けたようにさえ感じているのが、愛するブルゴーニュの出来です。長年「ブルゴーニュは冷涼だから、いいピノ・ノワールができる。葡萄のハングタイムが長く、ゆっくり時間をかけて成熟するブドウから、香り高いワインが生まれる。新世界の暑い産地などでは、いいピノ・ノワールはできないでしょう?」と彼らは自賛してきたわけです。
ところが。この気候。
そもそもブルゴーニュと日本では、暑い夏、という基準さえ全く違うのです。日本で暑い夏と言うと最高気温が33~34℃を超えたくらいから、でしょうか。しかしブルゴーニュでは最高気温が28℃あたりを超える日が増えると十分、暑かった年なのです。今までは。
ところが。2015年、18年、19年、20年、そして今年。いずれも35℃をはるかに超える日が続いているわけです。そして15年、19年など。過剰な暑さの傷とダメージで、フィネスが消え去った、シラーのようなピノ・ノワールには、皆様すでに何度か当たられていると思います。
そんな中、私は顔面蒼白になりつつ、今一度、1985年、1990年、1999年といった、過去のブルゴーニュの、暑くて葡萄がよく成熟した年、の気温推移を調べてみました。
するとやはり、素晴らしく天候に恵まれたとされるこの三つのヴィンテッジでも、7月と8月の間に気温が30℃を超える日はそう多くなく、35℃に達した日は1990年に一日ほど、の模様。あの偉大な1985年は、7月・8月の間で最高気温32~33℃の日が2日、30℃の日も3日前後、その他は7月・8月でもやはり最高気温が22~27℃前後という日がほとんどなのです。
逆に、冷涼(本来のブルゴーニュらしい)とされた年、例えば2001年などは、7月・8月でも最高気温が25℃どころか20℃にも達しない日が、かなり散見されるのです。この年の赤の現在の素晴らしさは、このコラムで何度か書かせていただいている通りです。
そんなもの「だった」のですよブルゴーニュの夏は。
この天候推移は、グラフをここにペーストできれば良かったのですが、しっかりと著作権があるようで、お時間ある際は下記ウェブサイトで色々なヴィンテッジの天候推移を比較されると・・・・・より事態の深刻度が真に迫ると思います。
https://www.weatheronline.co.uk/weather/maps/city
そんな中、ブルゴーニュ評論の大家、ジャスパー・モリスM.W.が、その最新の著作で、同一ヴィンテッジに異なる基準と尺度で2種類の評点をつけるという大胆至極な大技を産んだのも、話題になりました。
同一ヴィンテッジに、
A:ガッシリしていて果実味主体のジューシーな赤として。
B:ブルゴーニュの優美な側面、香りとエレガンスを求める人用。
という、全く異なる尺度から、同じ年に2種類の点数をつけているのです。
ご想像通り、特に2018、19 年の、A点とB点の評点のギャップは、ある面でコメディとさえ思えるほどです。どちらの年で、どちらの評点が高いか低いかは、おそらくあなたの想像が当たっています。
3. それでも、人類は見て見ぬふり(?)
しかし、そんなことよりも。
地球気候崩壊、地球気候危機、真っ只中で殺人熱波が頻発する中、のんきにヴィンテッジ・チャートを見ることよりも、はるかに大切なのは、まさに今日から毎日私たち一人一人にできることは何か、ではないでしょうか。
既にフランスでは近距離航空路線が順次廃止されているとのこと。よりCO2排出量が少ない電車を使おう、というわけです。同様に私たちも自家用車ではなく公共交通機関を利用することが、地球のためになるわけです。
さらに、電気自動車に乗ることと同等、フードロスを減らすこと、ひいては肉を食べる回数を減らすことも、環境保全に貢献するとのこと。畜産という産業が環境に与える負荷は巨大なものなのです。
ちなみに日本の気候変動政策の国際評価は、対象60ヶ国中45位。中国(37位)、インド(10位)よりもはるかに下の、見事な環境政策劣等国です。
「いやー、でもそんな話、僕には関係ないよ」、と思いますか。
では最後にこの話を(これが本稿の主題です)。
多くの人は今回のような熱波は一時的なもので一過性のもの、と思われていますよね。喉元過ぎれば熱さ忘れる、ですか。
ところが。
どうやら。今回のような熱波が5年前後、連続で来る確率が世界で最も高い地域の一つが、地中海沿岸地方、つまりあなたが大好きなワインを産する地域、との研究報告が出ているのです。つまり、2026年まで、毎年この暑さ……(?)。それでもまだ、 続けますか? 今まで通りの生活を。
今月の、ワインが美味しくなる音楽:
Ken Professor Philmore 『Emotion』
天使が奏でるハープの音?
カリブの至宝楽器の音色で納涼。
世界一、甘い音色の楽器と言われたり。天使が奏でるハープの音とも言われたり。カリブ海南端、トリニダード・トバゴで生まれ、 “20世紀に生まれた、最も偉大なアコースティック楽器” とも称賛されるスティールパン。その、なんとも涼しげな音色はまさに今の季節のもの。中でもこのアーティストは、スティールパン版ビル・エヴァンスとも呼ばれる大御所。カーニバルの国で、この楽器をファンキーに弾くミュージシャンが多い中、この曲が収録された2014年のアルバム「CRUIZIN」は全編、ゆったりなごめるメロウ・トラック中心なのも貴重です。
どうにもスイートな音色は・・・・・、カチッと冷やした白やロゼ、ペティアンなど夏ワインとは相性万能。プレイするだけで、部屋と心の除湿効果もたっぷりで・・・・・夏のエシカル・チョイスとしても、手放せませんよ。毎年、きっと。
https://www.youtube.com/watch?v=WNOBouKaawQ&list=OLAK5uy_llrDqO6YEjpqWsB-O8-7ILwFga5KFl5UA&index=2
今月の言葉:
「共生以外の唯一の道は、共に破滅することである」
ジャワハルラール・ネルー(インドの初代首相)
寺下光彦
ワイン/フード・ジャーナリスト
「(旧)ヴィノテーク」、「BRUTUS」、「MEETS REGIONAL」等に長年ワイン関連記
事を寄稿。アカデミー・デュ・ヴァン 大阪校」、自然派ワイン、および40年以上熟
成イタリア・ワイン、各クラス講師。イタリア、ヴィニタリーのワイン品評会・審査
員の経歴も。音楽関連記事も「MUSIC MAGAZINE」に約20年、連載した。
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