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合田玲英の フィールド・ノートVol.103 《 鮮やかな転身ぶり:演奏活動と自転車競技から、ワイン造りへ~トマ・ピュエシャヴィとアクセル・ドモン~ 》

 フランスの新規取り扱い生産者を2名、ご案内します。ブドウ栽培とワイン造りの両面と、農家にルーツを持たないという点でも共通する二人ですが、以前にそれぞれが捧げていた情熱の対象を、ワインへと方向転換した造り手でもあります。
 トマはコンサートのツアーで、アクセルはロードレースの大会で各地を回り、その先々で美味しい食事とワインを楽しみながら、それぞれの人生の分岐点となるタイミングで、ワイン造りの道を進むことを決めました。両者のワインとも、いわゆるフランス的ナチュラルワイン風の装いながら、醸造経験の短さを感じさせず、独自のスタイルをはっきり感じさせる醸造で、これからがとても楽しみです。なお、両者とも出荷開始予定は本年8月です。

【トマ・ピュエシャヴィ】

 15年間 “Moriarty ”という名で人気を博した演奏活動をしたのち、2019年からシュナン・ブランの聖地ヴーヴレでワインを造りはじめましたが、フジロックにも出た経歴の持ち主です。
 トマが最終的なワイン造りの地としてロワールを選んだのは、彼の父がロワールワイン好きで、子供のころから食卓に並んでいたことが機縁となったからだとか。バニュルスのLes 9 cavesの面々と仲が良く、音楽活動の傍ら休暇中にはワイナリーの仕事を手伝っていました。詳細は、合田泰子のエッセイをご覧ください。→ http://racines.co.jp/?p=18112 

生産者紹介ページ:http://racines.co.jp/?winemaker=thomas-puechavy

【アクセル・ドモン】

 自転車競技のプロフェッショナルとして、12年間活動をしたのち、アクセルが所属していたチームの活動拠点でもあった、サヴォワでワイン造りを始めます。アクセルもまた2020年がファースト・ヴィンテッジと、ワインをリリースしたばかりです。
 アクセルは2019年の競技中の事故での骨折による入院を機に引退を決め、病院でオンラインでの栽培・醸造の授業を受け、ワイン造りの勉強をした、という何とも今時な歩み方です。退院後はシャンベリー近くのドメーヌ・デ・コート・ルースで研修を行い、現在も平日は同ワイナリーで働きながら自身のネゴシアンを立ち上げ、ワイン造りをしています。

【ワイナリー・造り手について】
 アクセルは青年期の大半の情熱を自転車に注ぎ、12年間の本格的な競技人生を送ってきました。そのうちの7年間は、ワールド・ツアーチームに所属しプロとして活動し、ツール・ド・フランス、ジロ・デ・イタリア、ブエルタ・ア・エスパーニャといったグランツールに何度も出場しました。と同時に彼の人生で常に重要な位置をしめていたのは、美食と良質なワインでした。2020年に自転車競技人生から引退した折にネゴシアンを立ち上げ、ブドウ栽培とワイン醸造へと向かったのは、彼にとってごく自然な成り行きでした。
 ワイン造りへと本格的に意識が向かっていったのは、2019年のこと。レース中に大きな転倒事故に遭い、長い入院生活を余儀なくされていたことがきっかけで、入院中にブドウ栽培と醸造の通信授業を受けます。アクセルの生まれはヴァランスですが、競技チームはサヴォワが本拠地だったことから、サヴォワはアクセルにとっても旧知の土地でした。退院後、サヴォワのドメーヌ・ド・コート・ルース(デメテール認証)で研修します。オーナーのニコラとマリエル夫妻とは研修終了後も良い友人関係にあり、現在も彼らのブドウ畑で従業員として働きながら、自身のワイン造りを進めています。
 2021年夏、ようやくサヴォワ地方のレ・マレシュ村に移り住み、セラーも購入することが出来ました。2022年現在、購入する畑を探していますが、サヴォワでは1ha当り5万ユーロが相場だそうで、決して安くありません。0.25haのジャケールの畑を購入し、0.18haの畑を友人から借りることが出来ましたが、今後も畑探しは続けていきます。セラーから近くて、できればビオロジック栽培されていた畑を探しています。いずれにしても、サヴォワは細くて曲がりくねった山道が多く、畑への直線距離は近くても毎日通うには遠いとか。 

 

【畑・栽培について】 

特徴的なデザインのエチケットはリヨンに住む友人の作で、一筆書きでとお願いしたもの

「僕にとってワイン造りは、可能な限り純粋なブドウ果汁を得ることであり、その果汁こそがブドウが育ったテロワールやミレジムを反映する」と、アクセル。この理念を実現に近づけるため、購入するブドウの栽培はビオロジックやビオディナミ農法に限り、自身で収穫を行っています。
 2022年に2区画を取得することが出来ましたが、ドメーヌ・ド・コート・ルースでの畑仕事を優先させるので、自分の畑への時間が多く取れません。焦らず少しずつできることを増やしていく、とアクセルは話します。 

 

【セラー・醸造について】 

 初VTの2020年は、ドメーヌ・ド・コート・ルースの片隅を借りて醸造。その年は周囲の3軒の栽培家からブドウを購入し、フィルターを通さず、瓶詰め時の亜硫酸添加はしましたが、それ以外の介入を控えるワイン造りを目指しています。2021年VTからは入手したセラーで醸造を始めましたが、5年間使われていなかったため、セラーは掃除や改装が必要な状態です。
 アクセル本人は白ワイン好きで、赤ワインも軽やかなスタイルを目指しますが、色は薄くても味がしっかり整っていなければならない、と考えています。気負いのないアクセルの性格を映し出すワインは、滑るような飲み心地で、2020年VTのアルコール度数は白赤とも11%前後と、近年のワインとしては非常に低い。といっても、青みや未熟感が強いわけではなく、不思議なテクスチャーが持ち味です。

生産者紹介ページ:http://racines.co.jp/?winemaker=axel-domont

 

~プロフィール~

合田 玲英(ごうだ れい) 1986年生まれ。東京都出身。
2009 年~2012 年:ドメーヌ・レオン・バラル(フランス/ラングドック) で研修
2012 年~2013 年:ドメーヌ・スクラヴォス(ギリシャ/ケファロニア島) で研修
2013 年~2016 年:イタリア/トリノ在住
2017 年~:日本在住


 
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