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社員リレー・エッセイ 碇 笑美子 (輸入部)

「人生の熟成と、とある一日の話」

 はじめまして、輸入部の碇です。イタリアとのあれこれを担当しています。わたしは2019年の11月下旬に入社したので、自分のことを、「ラシーヌ・コロナ・ほぼネイティブ世代」と呼んでいます。入社してまだ3, 4ヶ月のころにコロナ禍に突入したため、それ以前のラシーヌを知りません。なかなか気軽に外食するのも憚られる時期がほとんどでしたが、幸い、お酒を扱う会社なので、(業務上)みんなで盃を交わすことは、多々あります。個性豊かでおもしろい先輩と後輩に囲まれ、日々仕事をしています。

 このウイルスの影響で、入社してから二度のVinitalyの開催が見送られてきましたが、今年ついに、この2年間ずっと対面することが叶わなかった生産者に直接ご挨拶することができ、感無量でした。

 出張中とくに印象に残っているのは、初日に訪問した、ヴァルポリチェッラ、【モンテ・デイ・ラーニ】当主のゼーノが言っていた言葉です。「なんでもそうだけれど、stagionato(熟成)したときに、それが本当に美味しいものかわかるんだ。それが若い時は、砂糖や塩で本来の味が隠されてしまってわからない。」彼は自分で造ったチーズを食べながらこの話をしていたけれど、人間も同じだよね、と言われているようで、ハッとしました。

自分で育てた家畜で、自家用にサラミやチーズを造っているゼノ。

▲自分で育てた家畜で、自家用にサラミやチーズを造っているゼノ。春の若草をたべた牛のチーズと、乾草をたべた牛のチーズとの違いを味わいで教えてくれました。

 さて、輸入部のエッセイは久しぶりですので、普段の業務について書きたいと思います。輸入部は、コンテナが日本に到着すると、必ず「デバンニング」に立ち合います。デバンニングとは、荷下ろし、つまりコンテナを開封してパレットを下す一連の作業のことです。倉庫までは、ラシーヌのオフィスから電車とバスを乗り継いで1時間半ほどかかりますが、当日は朝から倉庫へ向かいます。破損はないか、アイテムはオーダーどおりか、ヴィンテッジはインヴォイスと相違がないか、積載量は適切だったか、パレットが安定しているか。そしてなによりも、ワインが無事に指定された範囲内の温度で到着したか。場合によっては1年以上前からオーダーしていたワインが、はるばると、数ヶ月もかけて、やっとここまで到着したのだ、という感激と安堵。一方で、無事に本来の魅力を発揮できる状態で管理・輸送されていたのか、という不安とが入り混じる、ほかには体験できないであろう感情に飲み込まれます。コンテナの封を開けるときは、毎回、この独特の緊張感とともに、胸がいっぱいになります。良く来たね、と、心から思います。人間だって、10時間以上かかるフライトのあとは、とても疲れるのです。ましてや、2ヶ月近く海を揺られてきた彼らが、どれだけ疲れているのかを、いつも想像します。一通り14℃の定温倉庫で立ち合い作業をしたあとは、わたしたちもぐったりと疲れます。帰りのバスは、爆睡です。

 それでも、ワインの到着はなによりも嬉しいです。遅めのお昼ごはんにお決まりの天ぷらうどんをすすりながら、帰社後に「無事に到着したよ、ありがとう」と、生産者に連絡するのが楽しみです。そして、みなさまにもそれをお届けできる未来を想像して、胸が弾みます。輸入部のとある1日の話にすぎませんが、わたしたちの仕事が、生産者から預かっている大切なワインの味わいの一助として、皆さまに届いていたら良いな、といつも思っています。

 次は、わたしに輸入部のことを手取り足取り教えてくれた、いまは営業部で活躍している深川さんへ、バトンを繋ぎます。とっても頼りになる、優しい先輩です。

 
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