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ファイン・ワインへの道Vol.70

待望認定。アルザス赤、グラン・クリュの奇々怪々。

目次:
1.   アルザス、ピノ・ノワール・グラン・クリュ認定は2つの畑のみ。
2.   ヘングスト、とは?
3.   キルシュべルグ・ド・バールとは? 
4.   ラベル刻印と、リリース時期などは?  

 

1. アルザス、ピノ・ノワール・グラン・クリュ認定は2つの畑のみ。
 忘れた頃にやってくる・・・・・のは、 天災だけじゃなく、AOPの法改正もしかり。アルザスの赤、すなわちピノ・ノワールがグラン・クリュに認定されるという噂を聞き始めて10年近く。とっくに忘れられた(どうでもよくなった?)話題かもしれませんが・・・・・ 、今年5月、やっと正式にピノ・ノワールのグラン・クリュが認定されました。
 しかしながら。
 たった二つの畑だけ。
 ヘングストと、キルシュベルク・ド・バール 、だけとは・・・・ やはり(常に?)この種の法制定は奇々怪々、であります。

ヘングストの畑

ヘングストの畑

 

2. ヘングスト、とは?
 ヘングストは、コルマール駅の西南西、わずか約5km。【ジェラール・シュレール・エ・フィス】が誇るグラン・クリュ、フェルシックベルグのすぐ北にあるクリュです。
 コルマール市街から最も近いグラン・クリュの一つであり、このヘングストの南隣に、ゆるやかな谷一つ隔ててグラン・クリュの シュタイングリュブラー、さらに緩やかな丘陵をひとつ隔てた南隣が、フェルシックベルグとなります。
 ちなみにこのフェルシックベルグ、シュレールのピノ・ノワールのル・シャン・デ・ゾワゾーは全てこの区画に。ノーマルのピノ・ノワールの畑の約半分も、このグラン・クリュ内。
 さらにそのすぐ南に隣接するグラン・クリュ、アイヒベルグには、ピノ・ノワール ゼロ・ドゥーズの 畑の80%以上が含まれていますが……、その二つの偉大なグラン・クリュは、今回、ピノ・ノワールのグラン・クリュとしては見事に落選、であります。ワインの世界と”不条理”は、常に表裏一体、ですね。 

 ともあれ、ヘングスト(アルザス方言で雄馬という意味)。 面積は 53.02ha。うち、ピノ・ノワール栽培はわずか10%。最大はゲヴユルツトラミネールの48%。 標高270~360 m、南向きおよび南東向き斜面。泥灰土、砂岩、石灰岩が入り混じります。
 畑の所有者は…… アルベール・マン、 ツィント・フンブレヒト、バルメ・ブシェール、 ジョスメイヤーなど。ビオディナミ生産者は多いですが・・…、ナチュラルワインの基準に達している生産者は、おそらくはないようです。
 うち、ピノ・ノワールに特に注力しているのはアルベール・マン、ですね。

キルシュべルグ・ド・バールの畑

キルシュべルグ・ド・バールの畑

 

3. キルシュべルグ・ド・バールとは? 
 もうひとつのピノのグラン・クリュ、キルシュベルグ・ド・バールは、アルザス中北部、ストラスブール寄りの 40.63ha。南東向き、標高220~350 mの斜面は、 粘土強めの泥灰土と石灰岩主体。こちらもゲヴユルツトラミネールが最メジャーで、栽培の53% 。アルザスワイン委員会(CIVA)の資料を参照すると、このクリュでのピノ・ノワール栽培面積は全体の1%にも満たないようです。
 ところが、このクリュでのトピックスは、その石灰岩がジュラ紀バジョシアン階のもの、との話。 
 この年代記の石灰岩こそブルゴーニュ・フリークの血を滾らせる地層。コート・ド・ニュイの栄光のグラン・クリュの数々を産む地層ですね。
 アルザス中北部のこの周辺は、コルマール周辺ほどはグラン・クリュ密度はなく、ご近所グラン・クリュはかなり飛び地状。  
 少し南には、ジュリアン・メイエーが誇る、ミュンヒベルグ が威光を放っているのですが……、ピノ・ノワールのグラン・クリュに、お上から認定されたのは、へリングやストフラーという名のドメーヌが所有する、キルシュべルグ・ド・バール、でした。
 ちなみに、キルシュベルグというグラン・クリュはもう一つ、コルマール近くに キルシュベルグ・ド・リボヴィレという畑があり、こちらはより砂岩が多く、リースリング向きとされる、全く別の畑です。

 

4. ラベル刻印と、リリース時期などは?
  今回の新法制は2022年ヴィンテージから有効。グラン・クリュは少なくとも収穫翌年の10月1日までの 熟成が義務付けられるので、 リリースは早くとも2023年末です。最低収穫量も引き下げられて 40hl/haが上限です。 

  と、ここまで読まれて、賢明なる読者の皆さんは、「グラン・クリュねぇ~? ドメーヌ・ルロワの村名ワインは、ほとんどの生産者のグラン・クリュよりも断然、華麗で壮麗な美味しさだけどねぇ」、と冷めた目でこの記事を読まれてることと思います。(かくいう筆者も、同じ気持ちです)。

 「生産者の優劣は、クリュの優劣に、時に先立つ」。この、ワイン界の第一定理が、アルザスでも該当するかどうか。ピノ・ノワールのグラン・クリュが日本に到着したら、トップ生産者のノーマル・ピノと、ブラインドで比較してもいいかも、ですね。一度くらいは。

(photo: CIVA)https://www.vinsalsace.com/jp/

 

 

今月の、ワインが美味しくなる音楽:

古謝美佐子 『天架ける橋』

人間ストラディヴァリウス?
沖縄発、奇跡の美声で心を除湿。

 沖縄伝統音楽のチル・アウト力、なごみ力は、多くの音楽ラヴァ―にとっても最大の盲点ではないかと思うのですが・・・・。そんな話さえ、悠然と超越するような美声。 スロー&メロウな曲を、さらっと歌うだけでも、この人は声自体に心地よすぎる倍音が あり、ヒーリング力は、とほうもない域です。
 梅雨のこの季節、アルバム一枚通して聞くだけで、部屋と心の除湿効果さえ感じるほど。
 もちろん、キリッと冷やして、ソルティなミネラルの美しさが際立った、ギリシャの島々や、ポルトガル・カナリア諸島の白ワインなどとは、最高の相性。島風情つながりも、ペアリングの心地よさを後押ししてくれます。
 沖縄本土復帰50周年、で選んだわけでもないですが……、 他にも金武良仁や、古堅盛保など。沖縄古典音楽・大御所の歌声のチル・アウト力、是非この夏こそ、活用されてはいかがでしょう。

https://www.uta-net.com/movie/302922/xu67z_c81WQ/

 

今月の言葉:
「官僚政治は、あらゆる努力と業績を台無しにしてしまう」
               アルベルト・アインシュタイン 

 

寺下光彦
ワイン/フード・ジャーナリスト
「(旧)ヴィノテーク」、「BRUTUS」、「MEETS REGIONAL」等に長年ワイン関連記
事を寄稿。アカデミー・デュ・ヴァン 大阪校」、自然派ワイン、および40年以上熟
成イタリア・ワイン、各クラス講師。イタリア、ヴィニタリーのワイン品評会・審査
員の経歴も。音楽関連記事も「MUSIC MAGAZINE」に約20年、連載した。

 
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