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ファイン・ワインへの道Vol.66

トスカーナ・ファイン・ワインの死角に、嬉しい新法制

目次
1:ヴィーノ・ノビレ・ディ・モンテプルチアーノに上位クリュ、制定。
2:快挙です。最低樹齢法制。
3:イタリアで飲むより、日本で飲むべき? 

1:ヴィーノ・ノビレ・ディ・モンテプルチアーノに上位クリュ、制定。
 DRCが亜硫酸無添加醸造を開始した。ボルドー格付けシャトーが、亜硫酸無添加ワインを製造した、などなど。ニュースの多い今、話題性としては格段に地味なトスカーナの僻地ワイン(?)の話で恐縮なのですが……、

 トスカーナのような大メジャー産地に、掘り出し物なんてあるのだろうか? と問われれば、「あります」とお答えしたいのです。
 「ヴィーノ・ノビレ・ディ・モンテプルチアーノには、モンテプルチアーノ品種は入っていない」と聞いて驚かれるなら、なおさらです。 

 はい。トスカーナで最も長い歴史を誇る生産地、モンテプルチアーノが生む、ヴィーノ・ノビレ・ディ・モンテプルチアーノには、アブルッツォの品種、モンテプルチアーノは一切無縁。70%以上のサンジョヴェーゼが義務付けられています。
(それにしても、 多くのソムリエさんに、「ヴィーノ・ノビレの品種は?」と尋ねると、「モンテプルチアーノでしょ」との答えが返ってくることのなんと多いことか。)
 ともあれ、すぐ西隣で 経済的繁栄を謳歌するモンタルチーノから、わずか25km、赤ワイン造りでは約900年も古い歴史を誇る地所とはとても思えない、日陰の存在。そんなモンテプルチアーノのワインこそ、現代のトスカーナ屈指の掘り出し物では? との話は、 このコラムでも過去何度か触れさせて頂いたかと思います。

 そんな愛される(べき)モンテプルチアーノに、法制上のちょっと嬉しい前進が起きており、今回はそのお話です。
 その前進とは 、「ピエーヴェ(Pieve)」と呼ばれる歴史的に尊重された12の区画、いわばクリュを制定し、その位階をリゼルヴァの上に置く、という法制です。ヴィーノ・ノビレ・ディ・モンテプルチアーノ・ワイン協会の発表によると、ピエーヴェとは1700年代にすでにあった旧教会に割り当てられた領地であり、1765年の土地記録の時点で、モンテプルチアーノに12ヶ所あったとのこと。
 トスカーナでリゼルヴァの上位階と聞くと、キアンティ・クラッシコの、あまりにも世に浸透しない新位階、グラン・セレッツィオーネを想起させますが・・・・・。 

モンテプルチアーノの歴史地区。赤ワイン生産地としての歴史はモンタルチーノよりはるかに長い。

 

2:快挙です。最低樹齢法制。
 今回の法制は、グラン・セレッツィオーネ以上の快挙があります。
 それは、最低樹齢の制定。
 最低樹齢、15年以上がピエーヴェの条件なのです。ご存知の通り、樹齢こそがワインのフィネスを左右する最重要要素の一つ。そして原産地呼称に関する法制で、 最低樹齢を定めた法律は世界的にも極めて稀なものです。
 もちろん15年という樹齢はグランヴァンを産むにはやや不足です。しかし樹齢5年、7年といった若樹のワインが法外な高額で売られる世では、大変に真摯で誠実な志ではないでしょうか。

 もう一点、こちらは少し遅ればせながら、サンジョヴェーゼの最低比率が70%から85%に引き上げられ、残りは伝統品種のみとの規定も、有意義でしょう。実質的に、今日のモンテプルチアーノで30%もサンジョヴェーゼ以外の品種をブレンドしている生産者は、ほぼいません。しかし残りの品種を伝統品種のみ、つまりカベルネとメルローを禁じたという点では、また大きな進歩かと思われます。 

3:イタリアで飲むより、日本で飲むべき?
 そんなモンテプルチアーノの魅力を知るには、まずどのワインを? とお尋ねになるなら、手前味噌ながら旧ヴィノテーク誌に私が繰り返し「スモール・ソルデーラ的フィネス」 と賞賛させていただいた文言が、最近何軒かの日本のワインショップの PR 文に引用された(嬉しい)、【イル・マッキオーネ】、でしょうか(ボルゲリの、レ・マッキオーレとは何の関連もなし)。
 近年、その日本輸出ヴァージョンは、瓶詰め時・酸化防止剤添加ゼロ(醸造/熟成中の添加はあり)となったようで、ますますアロマと果実味の鮮明さ、焦点の鋭さ、ピュアさ、清新さがアップしている様子。
 このヴァージョンは日本限定、つまり、この生産者のワインはイタリアで飲むより日本で飲むほうが美味しい、という有難すぎる逆転現象も嬉しい限りです。 

 

イル・マッキオーネの畑からは、アンモナイトなど、古代の貝類の化石が無数に出土する。

 加えておすすめなのは、カンティーナ・トレ・ローゼと、アヴィニョネージでしょうか。
 長年のワインファンには、アヴィニョネージ の名を聞いた瞬間、身の毛がよだちますか? (私もそうでした) 1990年代および2000年代半ばまで、「最もパーカー化された、セメントのようなワイン」を作っていた会社の一つでしたよね。
 ところが2009年、ベルギー人の辣腕(ややスピリチュアル)女性、ヴェルジニー・サヴェリスがオーナーとなって以来、180度方向転換。まさに豹変。約180haの自社畑全てをビオディナミに転換し、サンジョヴェーゼならではのフィネスを 美しく清明に発揮したワインを生み続けています。

 そんな、何社かの優良生産者のワインは、活力あるミネラル、果実味、タンニンと、その多層性ある統合感が、なんとも深遠。
 トスカーナのその他の地のサンジョヴェーゼ・ワインとは明瞭に異なるキャラクターがあり、モンテプルチアーノの地の卓越した個性及び、それを見過ごすことの勿体なささえ、感じさせてくれると思います。

 ともあれ、モンテプルチアーノの新位階、「ピエーヴェ」。その呼称は2021年6月にトスカーナ州議会を通過。現在ローマで農務省の審査下にあり、その後ブリュッセルで EU の審査となります。協会では2024年リリースのワインが、この呼称のデビューとなることを期待しているそう。

 この呼称によって、トスカーナ・ファイン・ワイン最大の死角の一つであり、盲点だと思える、ヴィーノ・ノビレ・ディ・モンテプルチアーノに、一気に注目が集まる、
 ということは……絶対にないと思いますが、まぁ少しずつでもこの地のワインの良さが広まるといいなぁ、と衷心より祈念いたします。 

偉大な映画監督、フェデリコ・フェリーニの別荘と、彼が通ったカフェ「ポリツィアーノ」があることでも、モンテプルチアーノは有名。映画ファンへのギフトにも、好適?

 

 

今月の、ワインが美味しくなる音楽:

ドラン・ジョーンズ&ジ・インディケーションズ
『プライヴェート・スペース』 

 雪の舞う夜は、70年代ソウル。2020年代の解釈が新鮮。

 寒い冬にはやはり、70’sソウル、 R & B などのハート・ウォーミングな音がいいですね。もちろんその王道、マーヴィン・ゲイやカーティス・メイフィールドなどは最高です。ところが最近、2020年代の若手アーティストが、「70年代ソウルが好きすぎる!!」感を全開にして作る新作の、音の温かみが素晴らしいのです。
 その筆頭格がインディアナ州のこのグループ。 生音とヒューマンなメロディで描く世界は、 偉大なマーヴィン・ゲイの黄金時代を彷彿とさせるほど。 冷たい北風で冷えた体を、ほっこりと温めてくれる効果は、 ホット・オレンジワイン、もしくは豊かな太陽を感じさせるローヌのグルナッシュのようなぬくもりを、リビングと心にもたらしてくれます。  
https://www.youtube.com/watch?v=WfgMfCzjCRI

 

今月の言葉:
 「教育もまた、教育を必要としていないだろうか」
                  カール・マルクス

 

寺下光彦
ワイン/フード・ジャーナリスト
「(旧)ヴィノテーク」、「BRUTUS」、「MEETS REGIONAL」等に長年ワイン関連記
事を寄稿。アカデミー・デュ・ヴァン 大阪校」、自然派ワイン、および40年以上熟
成イタリア・ワイン、各クラス講師。イタリア、ヴィニタリーのワイン品評会・審査
員の経歴も。音楽関連記事も「MUSIC MAGAZINE」に約20年、連載した。

 
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