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ファイン・ワインへの道Vol.64

猛暑年で、ワインがウイスキー化? その対策は?

 ワインショップで手を伸ばした昔から飲み慣れたワインが、ある年いきなり、アルコール度数が普段の20%アップ!、15%、15.5%にも(普段は12.5%ぐらいなのに)なっていたら、それは十分な恐怖体験、ではないですか?
 そして既に皆様、そんな恐怖を味わわれていませんか?
 私もまたその一人です。

 地球温暖化、なんて言い口がすでに滑稽千万なほど的外れ。実際は気候危機、気候崩壊、地中海沿岸ヨーロッパのアフリカ化とも思える現象が連続して起こった2018、2019(おそらく2020年も)。そして、2015、2017年もそれに準じる暑さ。手頃な1000円代前半のローヌの優良生産者の赤がアルコール15%、はまだしも、アルザスのピノ・グリが15%、シルヴァネールが15.5%、そしてとうとう、アルコール度数13.5%の有名生産者シャンパーニュなどというワインに次々 遭遇するにつれ・・・・、気候崩壊によるワインの高アルコール化(ウイスキー化??)に、涙も枯れる、と申しますか、冷や汗も枯れるほどの気持ちであります。
 戦後の各10年を振り返って、例えばブルゴーニュでは50年代、60年代、70年代、2年連続の暑い年、という現象さえほぼ皆無でした(ギリギリ、71年・72年がその範囲)。80年代末の88、89、90の3年連続暑い年は、時のメディアや生産者に大いに驚かれたものです。ところが2010年代後半・・・・2016年をのぞき、ほぼ全ての年が、暑すぎた。

 その恐怖に比べれば、長年「ブルゴーニュは冷涼産地だから良いピノノワールができる」と言い続けたワインメディアやワインショップが 、彼の地がアフリカ化したとさえ思える2018年に「温暖で偉大なヴィンテージ!」 と大合唱する二枚舌ぶりなどは、同じく恐怖だとしても、取るに足りない規模かもしれません。

 上の図は、なかりラフな手描きですが、2019年に筆者がオーストリア、ノイジードラーゼの生産者【クリスティアン・チダ】を訪問取材した際、チダが特に激しく力説し書した図です。
「アルコールが増えれば増えるほど、アロマとフィネスは減る。だから今、生産者は、いかにワインのアルコールを抑えてブドウのハングタイムを長くし、アロマの前駆体成分を生成させるかということが大切なのだ」と、彼はこの図を書きつつ情熱的に語りました。

 実際、畑では畝ごとにほぼブドウの高さほどもあるライ麦を植え、太陽光の一部を遮り、麦が植えられてない畝には20cmほどに切った干し草を地表に大量に撒き保湿する徹底ぶりでした。地表からの熱の影響を避けるため、仕立てを高くする作業も、チダに限らず各地で見られているようです。
 また、シャンパーニュ、ヴェット・エ・ソルベのベルトラン・ゴトローは、剪定の際に木の株ごとの樹液の流れを入念に見極めて、樹液が行くべき枝にしっかりと回るように剪定することが非常に大切だ、と、緻密至極な観察眼を披露していました。それにより熱波の被害を「100%解決するとは無理でも、抑制することはできる」と語っています。(※1)

 同様の徹底した栽培努力で2018、2019の猛暑年に、フレッシュさを残す、熱の傷跡のないワイン作りに成功した生産者も、存在します。(つまりワイン選びは、ますます難しくなっている……わけです)。

 蛇足ながら「暑い年=グレート・ヴィンテージでしょう」、とおっしゃる方々に。つい最近も、同時に開けて検証したクロード・デュガの2001年、2005年ジュヴレ・シャンベルタンについて。
 2005年は、まるでタンニンの質感も果実味も、黒く焦げた焼肉のようなニュアンスと、ざらつく粗さ。2001年は これぞブルゴーニュと思える、華麗なアロマが開き、酸と果実味が妖艶に縦糸と横糸に美しく編み込まれた、官能的余韻に陶然とさせられました。
 最近の猛暑年が、2005年の二の舞にならないことを祈るばかりです。
 ともあれ。猛暑ヴィンテージは、ワインを買う前にまずアルコール度数をチェックするだけでも、手がかりとなることは少なくないはずです。

 そしてもう一つ、再度実感されたのは、地球気候崩壊に対して一人一人ができることを、今日から実行することの大切さです。
 すでにフランスはパリ‐ボルドー間など近距離フライトを二酸化炭素削減のために廃止し、夜行列車を復活させたと言います。
 日本のレストランさんやワインショップさんには、「電気自動車に乗っている人割引き」なんてのも、あってもいいかもしれません。(無駄に大きな4 WDにいつも一人乗っている人:割増料金なども・・・)。

 さらに、温室効果ガス削減の有効度ランキングでは、電気自動車よりも、家畜肥育を削減するが上位にあり、肉を食べる回数を減らすというのも、有効な気候崩壊対策とのこと。地球に現在、牛 10億匹、豚 15億匹が出すゲップなどのメタンガスは、フェラーリが出す排気ガスよりさらに温暖化促進力が高いのです。
 私も肉を食べる回数を減らす所存です……。

 ともあれ。どんな年のワインだって売るのが商売、の立場にある人には(あまりに消費者サイドからの意見で)、誠に申し訳ない原稿でありました。
 ”こんなことを物申す者が、人様に記事を書いていることが一番の恐怖だ” とおっしゃる方々のご指摘は、甘んじて受けるべきだと考えています。 
 でも、事態を放置してこのまま、フランスやイタリアのワイン産地が破滅への道(?)を進み続け、将来美味しいブルゴーニュが飲めなくなると悲しい……のは、皆さん同じじゃないですか?

 

今月の、ワインが美味しくなる音楽:
Club del Rio
『Es Natural』

「自然に」との曲名どおり。
気取りない浮遊感で、労を流す。

 飄々と軽やかで、浮遊感あるコーラスが何とも心地よい、スペインのヴォーカル・ユニットです。グループ名がリオでもブラジルじゃなく。でもブラジル音楽の影響は、確実に受けているりらくシンな曲調。
 本当に大変すぎた今年の1年の労に一区切りつけて、来年こそは良い年にというような雰囲気も漂う、気負いすぎないポジティブ感も素晴らしいです。「自然に」という曲名もまた、あらゆる自然派ワインの美しい余韻と綺麗に響きあって、知らない間にリピート、してしまう一曲です。

https://www.youtube.com/watch?v=63y61VlsCig

 

今月のワインの名言:

「ブドウ栽培家は、楽譜のない音楽会の指揮者である」(※2)
     ベルトラン・ゴトロー (ヴェット・エ・ソルベ)

 

(※1、※2 :ドキュメンタリー映画「Le Champagne a rendez-vous avec la Lune」より引用)

 

寺下光彦
ワイン/フード・ジャーナリスト
「(旧)ヴィノテーク」、「BRUTUS」、「MEETS REGIONAL」等に長年ワイン関連記
事を寄稿。アカデミー・デュ・ヴァン 大阪校」、自然派ワイン、および40年以上熟
成イタリア・ワイン、各クラス講師。イタリア、ヴィニタリーのワイン品評会・審査
員の経歴も。音楽関連記事も「MUSIC MAGAZINE」に約20年、連載した。

 
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