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合田玲英の フィールド・ノートVol.97 《 メメント:赤ワイン醸造 》

 海外出張がようやく解禁となり、今年8月には僕が先駆けでイタリアに行きました。10月から約1か月、代表2人がフランスをまわり、無事に帰国できてほっとしました。また、生産者の近況についても、特にクルトワ一家など、ふだんSNS上で顔の見えない造り手たちの様子や写真は、うれしいものでした。
 ふと、造り手たちのセラーによくかかっている、ジュール・ショヴェが1960年9月にまとめた、赤ワイン醸造についてのポスターを思い出しました。以下の写真は、ヴィニ・ヴィティ・ヴィンチのセラーにかかっているものですが、造り手の元だけではなく、フランス国内の飲食店でもよく見かけます。
 そういえば、以前からちゃんと訳してみたかったことを思い出しつつ、拙訳を今月の便りとさせていただきます。
 ショヴェは、今から60年も前の醸造家。必ずしも現代の栽培・醸造環境に沿ったものではないのでしょうが、シンプルであり引き込まれる内容です。今彼が生きていたら、どのようなワインを造るのだろうかな。

 

メメント:赤ワイン醸造

ジュール・ショヴェ

 

昔の人はよく言ったものだ。
≪良いワインを作りたければ、最後に収穫しなければならない≫
こんにちでも、熟したブドウを収穫することは、ワイン作りの「黄金律」となっている。
そしてそこから、2つの原則が生まれる。
収穫時のブドウの衛生状態
セラーや醸造設備の衛生管理

ブドウの収穫(ピッキング)を賢明に行うということは、収穫されたブドウが運ばれてくるペースを、醗酵槽の収容力やブドウの醗酵速度に応じて調整することだ。収穫されたブドウはできるだけ早く醗酵槽に入れられなければならず、畑から発酵槽への移動時の休憩、停滞、遅延は許されない。発酵槽はできるだけ早く満たさなければならない。
スピード=安全なのだ。 

足で踏んで、破砕すべきか、否か?
 それはあなたの選択次第だ。しかし、どのような場合であっても、破砕は発酵槽に入る前に行ってはならない。

シャプタリゼーション:この手法が有用な場合のみ、糖度を測定した上で、熟考する必要がある。しかし完熟したブドウを醸造することで、この手法を用いなくても、こだわりのある消費者が求める自然なワインができる。
 シャプタリゼーションの採用を一度決めたのならば、酒石酸の添加は避けよう。酒石酸は無意味で危険だし、なにより――――値段も高い。

薬は病人のためのものだ:熟したブドウの果汁には、酵母の生命維持に必要な全要素が備わっており、タンニンやリン酸、アンモニア塩といった“薬品”は無用である。もちろん、明確に必要性が不可欠となる特別な場合はその限りではない。 

亜硫酸添加は必須ではないが、しばしば必要だ。理想は使用しないことだが、そのためにはブドウと自分自身に確信を持たなければならない。酵母の活性は、主に温度条件に左右され、ワイン造りに最適な温度は約25℃。
 酵母は、醗酵槽内の温度が30℃を超えるとすぐに不活性化されてしまう。よって毎朝、毎晩、醗酵槽内の温度をチェックし、温度計と糖度計の表示を記録する必要がある。温度が30℃を超えた場合は、迅速かつ精力的に介入して発酵槽を冷却することが望ましい。

デキュヴァージュは、十分な観察と糖度の測定の後に行われる。使用するのは、糖度計、温度計、タストヴァンのみ。知恵、反省、配慮、先見性が、成功を約する最上の鍵である。

 

~プロフィール~


合田 玲英(ごうだ れい) 1986年生まれ。東京都出身。
2009 年~2012 年:ドメーヌ・レオン・バラル(フランス/ラングドック) で研修
2012 年~2013 年:ドメーヌ・スクラヴォス(ギリシャ/ケファロニア島) で研修
2013 年~2016 年:イタリア/トリノ在住
2017 年~:日本在住

 
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