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合田玲英の フィールド・ノートVol.95 《 新規取扱い生産者《 リドルフィ 》:ブルネッロの超新星 》

 今夏のイタリア単独出張で目玉の一つは、ブルネッロを生産する《リドルフィ》訪問でした。 2011年に当ワイナリー《リドルフィ》のオーナーが変わり、2014年にワイン造りを含むワイナリー全体のマネージャーとして、ジャンニ・マッカーリを迎えます。そしてその初作である2014VTのブルネッロが2019年にリリースされるやいなや、『デカンター』や『ガンベロ・ロッソ』などのメディアで高い評価を浴びました。賛辞には“ライジングスター”や“新進気鋭”といった表現が多用されていましたが、訪問してみて明らかになったのは、マネージャーのジャンニが、1990年からモンタルチーノの有力ワイナリーたちでブルネッロ造りに携わってきた、手練れの名手であることでした。

【ジャンニ・マッカーリの経歴】

・1990~2009年 《ポッジョ・ディ・ソット》に就労。サンジョヴェーゼを知り抜く天才、ジューリオ・ガンベッリの指導を受けること、約20年。腕と感覚を認められて、2009年までの10年間、醸造責任者の大役を果たす。

・2009~2014年 《ポデーレ・サリクッティ》で、醸造責任者に転じる。と同時に、複数のブルネッロ生産者で醸造コンサルティングを行い、一部の造り手では現在もコンサルティングを継続。

 上記《ポッジョ・ディ・ソット》と《サリクッティ》の両者は、ラシーヌも大いに注目して生産者を訪ね、ヴィニタリーでは欠かさずブースに立ち寄って試飲してきた、伝統派ブルネッロでも別格の重要生産者です。どちらもモンタルチーノの町の南側に位置するワイナリーで、豊富な果実味を酸とタンニンの骨格が支え、バランスと包容力のある充実した味わいです。

【《リドルフィ》のワイン造り】 《リドルフィ》は、モンタルチーノの北東3㎞にある、メルカターレと呼ばれる地区にセラーと畑があります。2014年にジャンニがマネージャーに就くと、すぐに畑をビオロジック栽培に切り替えます。特記すべきはメルカターレの立地で、モンタルチーノの一般的なガレストロ土壌に加え、塩分を豊富に含む海洋性堆積土壌(灰色の粘土)が豊富にみられるエリアにあることです。後者は塩分を多く含むため、ブドウのみならず植物一般の栽培には向かないと土壌とされてきましたが、ジャンニはこの土壌に興味を持ち、《リドルフィ》で仕事を始める前からこの土壌へのリサーチを続けてきました。そして土壌やミクロクリマに合わせた7つのクローンを選び、2013年に一足はやく、新しくブドウを植えました。

 セラーは計算しつくされた構造で、醸造設備も近代的なうえ、極端なまで衛生的なところに、ジャンニの性格がうかがえます。ステンレスタンクを用い、酵母の添加はせずに発酵。マロラクティック醗酵を安定させるために、乳酸菌の添加を行います。異なる土壌構成と台木、7つのクローンからできたワインを、フランスとオーストリア産で4社におよぶ大樽(原材はスラヴォニアン・オークとフレンチ・オーク)で熟成させ、ブレンド。一樽だけ造る(毎年作るわけではない)リゼルヴァのみ、イタリアのガンバ社のスラヴォニアン・オーク樽100%で熟成させ、無濾過で瓶詰めをします。 

 出来上がるワインには、従来のブルネッロやイタリアワインにはない、果実味の透明感があります。香りからして、酸味や塩味が想起させる、際立った軽快さが備わり、色合いにもその味わいと香りを連想させる透明感があります。濾過機を通さないリゼルヴァでも、テクスチャーが非常に柔らかく、押しつけがましい果実味は微塵も感じさせません。
 《リドルフィ》のようなタイプのブルネッロが、どのような熟成を遂げるのかは誰にも想像がつかないだけに、数年後どのように変化するのか、今から楽しみなワインです。ぜひお試しください。10月22日より出荷開始予定です。

灰色の塩分を多く含む海洋性堆積土壌(左)と、粘土と小石を多く含むガレストロ土壌(右)

 

潔癖なまでに、清掃の行き届いた熟成庫(左)と、発酵タンクの並ぶセラー(右)

 

 

 

~プロフィール~


合田 玲英(ごうだ れい) 1986年生まれ。東京都出身。
2009 年~2012 年:ドメーヌ・レオン・バラル(フランス/ラングドック) で研修
2012 年~2013 年:ドメーヌ・スクラヴォス(ギリシャ/ケファロニア島) で研修
2013 年~2016 年:イタリア/トリノ在住
2017 年~:日本在住

 
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