*

ファイン・ワインへの道Vol.60

さらに牙を剥く、固有品種王国。イタリアの底力

 理由はたったの三つ。
1: 収穫量が非常に少ない(量が採れない)。
2: 栽培に手間がかかる(病気に弱い)。
3: 収穫量が多すぎる(誰も収量制限しなかった)。 

 何の理由か? 輝かしい美点と個性を持ちながら、忘れられたブドウ品種が、絶滅寸前にまで瀕した理由です。
 のべ500種類を優に超える固有品種、土着品種があると言われるブドウ DNA 魔境国、イタリア。(もちろんその500種類には、例えばサンジョヴェーゼだけで約200と言われるクローン差はカウントされてません)。
 その中で、わずかこの10年前後の間にもさらに、消滅寸前品種が再発見・再評価され脚光を浴びる現象、いわば固有品種復興のサード・ウェーヴ(フォース・ウェーヴ?)が、更なるダイナミズムを見せているように思えます。
 つい先日、今年7月初旬の(久々の)イタリア取材でも、特に印象的だったのは未知の怪品種、妖品種との出会いでした。

 中でも突出した個性を感じたものの一つが、ウンブリア州モンテファルコ周辺の土着品種、トレッビアーノ・ スポレティーノ。同地で高名な土着品種といえば、まず黒ブドウ中最もタンニンやフェノール類含有量が多い品種の一つであるワイルドくん、サグランティーノですが・・・・・、このトレッビアーノ・スポレティーノはまるで、サグランティーノの白版・腕白武闘派・妹とさえ思えるもの。
 がっちり太いストラクチャーとオイリーな舌触りに、これまた強靱で鋭利な酸が太い果実味を心地よく貫くような味わい。 過熟ではなく適熟~やや青めのトロピカルフルーツに、綺麗に重なる緑のシトラスとハーブ、ミント香も、非常にユニークでした。
 ワイン単独で飲んでも、白ワインなのにまるでステーキにワサビを載せて食べるような厚みとキレがある個性。トレッビアーノの名はつけど、トスカーナなどのトレッビアーノとの共通点は・・・・・探す方が難しい域、でした。
 この品種にオーガニックで注力する生産者ボカーレ(BOCALE)のオーナー、ヴァレンティーノ・ヴァレンティーニさん(すごい名前!)によると
「この品種は伝統的には庭の木などに絡みつかせ、剪定もせず細々と地元農家の自家消費用に作られていた品種。だから房が多くつき、香りも味も薄いワインだった。ところが15年ほど前に、地元の意欲的生産者がギュイヨ仕立てでしっかり収量制限した栽培を始めると・・・・・・、突如強烈な個性を表した。うちも、この品種100%のファースト・ヴィンテージは2015年。みな大抵その前後がスタートだね」と語る。ちなみにウンブリア、およびモンテファルコ周辺でこのブドウ100%でワインを造っているワイナリーは、広まったといえわずか7~8社だそうだ。
 思えば、今ではウンブリアの代表品種とも思えるサグランティーノも、30年少々前までは忘れられたブドウだったわけで・・・・。遅れて再発見されたウンブリア白の猛者、トレッビアーノ・スポレティーノ(白ワイン版ヘルス・エンジェルス?)。復興後の歴史は浅くとも、今の白の主流的な味わいからの、愛すべきはみ出しっぷり(アウトロー感)が、なんとも頼もしく思えました。

トレッビアーノ・スポレティーノの房。「ズッキーニみたいに細長い形なんだよ」と生産者は笑った。

 

トレッビアーノ・スポレティーノの「伝統的栽培法」。この野生状態をギュイヨに変え、収量を落とすと突如、武闘派ワイルド白ワインが降臨。

 と、真夏にいきなり濃い白ワインの話もなんなので、もう少々スリムでミネラルと酸の綺麗な品種にも、発見あり。
 それはヴェネト州とロンバルディア州を開けるイタリア最大の湖、ガルダ湖の南側の小さなDOCルガーナの白。 地元でルガーナ、またはトゥルビアーナと呼ばれる品種は、正式にはトレッビアーノ・ディ・ルガーナという名なのですが・・・・・これまたややこしいことに、 DNA 鑑定ではトスカーナなどのトレッビアーノとは何の関係も無いのだそう。 この品種、このDOCについては、おそらく「何を今さら。水っぽく大した個性のない白」との印象をお持ちの人がいても、それは道理です。
 その道理とは、恐れ多くもこのDOC、法定上限に125hl/ha もの高収穫量を容認している点です。
 ところが今回の取材で出会った何点かのルガーナは、非常に輝かしい生命感ある ハーブ、ミネラル、緑の柑橘のアロマ。ミディアムで芯の通った果実味、アフターを引き締める酸の多面性も、なんとも心地よい躍動感だったのです。 その輝きを産んだ理由も、やはり低収穫への移行でした。
 ボルゴ・ラ・カッチャ(Borgo La Caccia)のディレクター、カルロッタ・ファヴレットさん曰く、
「ルガーナがDOC認定されたのは1967年。でも生産者が低収穫の重要性に目覚めたのは、わずかここ10年~15年ほど前。収量をDOC規定の半分近く、70hl/haにまで落とすことで、ルガーナがこれほど表現力豊かになるということ には、私たち生産者も驚いている。イタリアのワインプレスにも好評で、ミラノやローマなどの都市部のレストランやバーでは最近、ちょっとしたルガーナ・ブームとも思えるほどよ。イタリア北部最大のリゾート地の一つ、ガルダ湖湖畔というイメージもプラスになってる。まさに“ミネラル輝く、美しきリゾート・ワイン”なのよね」と明るい表情を見せてくれた。

 さらにもうあと一点、最近の発見はピエモンテの黒ブドウ、スラリーナ。 アスティ周辺が原産ながら、あまりに病気に弱く 生産効率が悪いという理由で戦後、ピエモンテの認可品種から外されたという、不憫極まりない歴史を持つ品種です。
 ところがこのブドウ、心もち酸が穏やかで素朴なピノ・ノワール? と思えるほど魅力あるフラワリーな香りと、非常にピュアでクリーンなベリー香を伴う果実味が何とも魅力的。現在確認できただけで2社の生産者のスラリーナ・ワインが日本に届いています。味わうと、生産性の悪さに耐え忍び、このブドウを復興させてくれた生産者の情熱と慧眼に、大いに感謝の気持ちが湧きました。ちなみにその2社のうち1社はバローロ、セッラルンガの雄、プリンチピアーノ・フェルディナンド。アスティではなく、ランゲより標高が高いアルタ・ランガに植樹。ファースト・ヴィンテッジが2019年というのも、時代性を感じさせる ニュースでしょう。

 ともあれ。改めて。 過去このコラムで何度も述べている通り。
 品種名の物珍しさと、 その品種の重要度は何の関連もありません。名前が珍しいだけで、取り立てて個性もなく凡庸な、またはあまりにも極端で奇怪にすぎる品種もまた、無数にあります。
 本稿で皆様にお勧めする品種は、単に名前が物珍しいから、 ではなく愛してあげたい個性がしっかりと感じられるゆえ、ということを念押しさせていただきます。
 まさに。さらに。固有品種王国イタリアが、 その真の牙を剥き始めた感じがしませんか・・・・?
 ということで来月もこのお題の続編とさせていただければと思います。

今月の、ワインが美味しくなる音楽:

アルバロ・カリーリョ(Alvaro Carrillo)『Sabor A Mi』

 キューバ版ボサノヴァ、とも言われるメロウ&スロー音楽ジャンル「フィーリン」の話を毎年する時期ですが・・・、今年はそのフィーリンの母体となった音、ボレロを。両者の関係はボサノヴァの母体がサンバなのと似ていますね。 
 ボレロはキューバで発展しましたが、1950年以降メキシコ及び広くラテン・アメリカに伝播。中でも1950~60年代のメキシコの巨星的な大作曲家がこの人です。 熱帯の夜のセンチメンタリズムとダンディズムが美しく背中合わせになったような、メロディーの美しさ(と胸キュン感)は、まさに今、真夏のチルアウト・タイムにしっとりフィット。
 アルバムを通して聞くと、カキンと冷やした自然派ペティアンや、ロゼが、あっという間になくなります。
https://www.youtube.com/watch?v=ClkM_2vOJ64

今月の、言葉:
「多くの書物には、自分自身の城内の未知の広間を開く、鍵のような働きがある」
                   フランツ・カフカ

 

寺下光彦
ワイン/フード・ジャーナリスト
「(旧)ヴィノテーク」、「BRUTUS」、「MEETS REGIONAL」等に長年ワイン関連記
事を寄稿。アカデミー・デュ・ヴァン 大阪校」、自然派ワイン、および40年以上熟
成イタリア・ワイン、各クラス講師。イタリア、ヴィニタリーのワイン品評会・審査
員の経歴も。音楽関連記事も「MUSIC MAGAZINE」に約20年、連載した。


 
PAGE TOP ↑