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合田玲英の フィールド・ノートVol.93 《 香りか味か、バランスか 》

 イタリアに2週間行ってきました。コロナの状況下でスムーズに移動ができるか心配をしていましたが、PCR検査の陰性証明書を持っていれば、空港などでも待たされることはありませんでした。日本に再入国の際のPCR検査と入国手続きにはあわせて4時間ほどかかりましたが、対応人数もそろっており手続きは比較的スムーズに進みました。イタリアでは、移動や飲食店の営業制限は解除されたものの、人の流れが増えたことでまた感染者が増えるというのは、どこも同じ。出会った生産者のほとんどは、ワクチン接種を受けていて、握手をするくらいは気にしない様子でしたが、挨拶のハグをすることはなく、肘を合わせたり、拳をあわせたり、拳で胸を2回たたいたり、と久しぶりに会ってもどのように挨拶すればよいかわからない微妙な間がありました。 

◆レ・ドゥエ・テッレ
 コーラ&フラヴィオ・バジリカータ

◆ミアーニ
 エンツィオ・ポントーニ

◆ファンタローネ
 パスクアーレ・ペトレーラ

◆サルヴァトーレ・モレッティエーリ
 サルヴァトーレ・モレッティエーリ

 試飲会にも参加してきました。協同組合や、大規模ワイナリーが主催する形での試飲会で、イタリアのVTの様子を見ることはできました。どうやら2019年はイタリア全土でかなりよさそうです。この数年毎年のように暑い年が続きますが、2018年のように湿度により病害が蔓延することも、しつこい果実味や青い酸味が目立つこともなく、落ち着いています。トスカーナだけは、果実味が誇張されているきらいがありますが、イタリアワインはフランスとは違い瓶詰前も後も時間をかけてリリースされる傾向にあるので、リリースされる頃には、果実味も落ち着いているでしょう。
 参加した試飲会は、ふだん参加する試飲会のように、生産者のスタンドが並ぶ空間のなか、好きなところへ行って試飲をするというフリースタイルではなく、B2Bミーティングが30分おきに設定されているという趣向でした。大規模なワイナリーの場合には、顧客や市場に合わせてワインの味わいを決定づける傾向が顕著で、「同じラベルでもっと香り高いものにしたり、アルコール度数の高いものにしたりもできるから、あなたの市場の味わいの傾向を教えてくれ」という風によく質問されました。恥ずかしながら、この質問に即答できず、バランスが大事だとか、ピーンとくるものが欲しいだとか、という返答でお茶を濁すことしかできず、相手方も納得できない様子でした。
 けれど中には、ヴェルナッチャ・ネーラなどのマイナー地品種を単一で22ha植えて、100%同品種を生産している造り手もいました。赤ワイン一本では販売しきることは難しいので、メトード・クラッシコやアパッシメント(陰干し)などの醸造技術を駆使しながら、生産していて、そうした造り手のワインには、ピーンとくるものがありました。

 出張の間もどんなワインがピーンとくるものなのかと、考えを巡らせていましたが、以下の2点がワインを判断する基準だと思います。

◆香りより味わい 
 鼻で感じる要素よりも、口の中で感じる要素の方に、自分は重きを置いているのだと、今回の試飲会を通じて改めて確認できました。その中でも特に大事なのが、後味の長さ。飲み込んだ後も余韻が長く続くことは、どのような価格帯のワインでも最重要の要素です。香りと味わいは切っても切れない要素ではありますが、派手な香りはあるけれど味がしないワインというのは、個人的には面白くないです。アタックと、舌で感じる抽出物のテクスチャーや、口に広がる骨格、そして後味の伸びの方が、ワインを楽しむうえで根本的な部分だと思います。

◆バランス
 やはりバランスは大事です。抽象的ですが、他に言いようがないです。ただそのバランスにもいろいろな形があります。酸が高く、果実味とタンニンの少ない品種であるプリミティーヴォには、暑い地域で栽培される故の熱を帯びた味わいは感じますが、タンニンや果実味は、品種特性としてはその他のイタリアの主要赤品種に比べると控えめです。そのためあえて糖分を残すことでバランスをとることもあるそうです。今回の出張中プーリアの食堂で飲んだテーブルワインのプリミティーヴォは、酸っぱいワインに砂糖で味付けをしたような味で、飲みたかないが面白いバランスでした。
 一方、例えばヴァルポリチェッラに用いられる品種たちは、酸もタンニンも控えめだけれど、どんなにドライに作っても甘みの残る香りと味わいで、それをさらにアパッシメントした上で、他のエリアにはないバランスへとワインを仕上げています。
 また、醸造や熟成のニュアンスが出すぎてしまうのも、バランスを欠く要因です。メトード・クラッシコ、マセレーション、シュール・リー、(新)樽熟成、アパッシメントなどなど、醸造や熟成手法の香り(第2、第3アロマ)や味わいがワインの面白いところではありますが、過ぎたるはなんとやら、です。

 以上2点、分けて書いてみましたが、特に若いワインを判断しなければならないときは、味わいが一番頼りになるかもしれません。香りは若いうちは閉じていることがしょっちゅうだし、お酢っぽい感じがあったり、馬小屋臭がしたりということもありますが、時間が解決してくれることがほとんどです。 

バランスというのはやはり抽象的だし、あまりに当たり前です。ただ、その地域らしい、その造り手にしか造れないワインというのはやはり、造り手自身が造りたいワインの方向性を自覚していることが必要なのだと思います。造り手にどういうワインを造ればいいですか? と聞かれても、買い手としては答えようがありません。 

 

~プロフィール~


合田 玲英(ごうだ れい) 1986年生まれ。東京都出身。
2009 年~2012 年:ドメーヌ・レオン・バラル(フランス/ラングドック) で研修 
2012 年~2013 年:ドメーヌ・スクラヴォス(ギリシャ/ケファロニア島) で研修
2013 年~2016 年:イタリア/トリノ在住
2017 年~:日本在住

 
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