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ファイン・ワインへの道Vol.59

公開日: : 最終更新日:2021/07/01 寺下 光彦の連載コラム, ライブラリー, 新・連載エッセイ

夏だ。ロゼだ。

 ワイン業界の七不思議の、おそらく筆頭ですよね。同じロゼでもロゼ・シャンパーニュは一律崇拝される(品質に関係なく)のに、ロゼ・ワインは一律蔑視(無視?)される。まさにワイン界の神秘です。この謎に合理的回答を導き出せた人はノーベル賞もの、かもですよね。

 ともあれ、ロゼの季節です。
 高温多湿で日本がアフリカ化するこの季節、骨格ある赤ワインはちょっとしんどいのは、人情です。そんな中、
「いやー、もうフランスでは、ロゼの需要が生産量を追い越してしまって。ワイン離れなんて言われる世の中なのに、ロゼだけが品物不足なんだよ。対前年比で年によっては10%から20%近くもロゼ消費は伸びている。うちのワイナリーでも最近、対前年比で30%もロゼの生産を増やした年さえあるよ。マグナム、ジェロボアム、マチュザレムなどの大瓶ロゼまで、売上絶好調なんだ」と、ホクホクの商売繁盛顔で語ってくれたのは、ラングドック・ルシヨン拠点でフランス最大級のビオディナミ・ワイナリー(ナチュラル・ワインではない)の一つ、ドメーヌ・カズのオーナー、リオネル・ラヴァイユさん。
 南フランス人らしい歯に衣着せず屈託ないコメントは、その後「実はフランス人さえ、つい最近までロゼは安物ワインと思っていたんだよ 。フランス人がロゼの良さと、ペアリングの万能さに気づき始めたのもここ最近。10年ぐらい前くらいからのことだったかな」と無防備なほどあっけらかんと語る。いいですね。南フランス人のこんな飾らないコメント。2019年夏のワイナリー訪問時に、直接聞きました。

こんな大瓶ロゼ(12L瓶まで!!)も、フランス国内ではガンガン売れているそう。 

 お言葉どおり、世界のロゼ消費の伸びは数字にもしっかり現れていて、生産量は2002年から2017年の15年間で 30%もアップ(1,830万hl→2,340万 hl)。この期間の国別消費の伸びではカナダ+147% イギリス+269% 香港+250% スウェーデン+731%、フランス国内でもとうとう白の消費量をロゼが上回るほどの人気まで博しています。
 またアメリカでは2017年の1年だけでロゼの消費が対前年比50%もアップしたとのデータもあり・・・・・、状況はまさに劇的でさえあります。
 2019年の世界の国別消費量では、フランス、ドイツ、イギリス、アメリカが上位4国。
 続いて5位ベルギー(世界全体の5%)、6位オランダ(同4%)、日本はカナダ、ロシア、スイスとほぼ同じ2%・・・・・・。ちなみに5位ベルギーの人口は日本の1/10以下(1,146万人)、日本と同じ世界シェア2%のカナダの人口は日本の約1/3弱(3,760万人)なので・・・・・、単純計算でカナダ人は一人あたり日本人の3倍、ロゼを飲んでることになりますね・・・・・あんな寒い国でも。
(日本のロゼ消費データは2000年から2013年の間までほとんど変わらず全体の6%から9%というデータがあるのですが・・・・・その後が今一つ適切なものが見つかりません)。 

 ともあれ是非一度、ご家庭でなんでもない中華料理、餃子ですとか、麻婆豆腐、青椒肉絲、エビ焼売ほか色々な種類の点心などなどをお召し上がりの際、ちょっとした辛口ロゼをお試しになってはいかがでしょう。いや~中華とロゼ、素晴らしいですよ。(私にとっての夢の国の一つは、ロゼの持ち込みができる餃子の王将です・・・。それほど、デイリー中華と辛口ロゼは相性がいい)。
 テイクアウトの焼き鳥と辛口ロゼ、なども本当に口内幸福度急上昇です。
 もちろんバーベキューでホワイトミート、つまり豚、鶏、キジ、仔牛、カエル、仔猪、などなどを塩だけで焼いて辛口のロゼというのも・・・最高ですね。
 さらに、よく言われるベトナム料理や、タイ料理など、アジアのあっさりめのエスニック料理も、本当に幅広くワイドレンジで引き立ててくれますよ。辛口ロゼ。  

マルセイユのちょっとしたスーパーでさえ、  ワイン売り場はロゼが主役。 

 と、ここまで読まれて、あ~南フランスなんかのロゼのことかな、とご想像かと思いますが・・・・・・。ここでも近年、圧巻のバリュー・パフォーマンスを発揮しているのがオーストリアのナチュラル・ワイン勢。
 冷涼産地ゆえのキリッと引き締まり、クリスピーで粒立ちのいいミネラル感と、程よい果実感の均衡美は本当に絶妙、かつ悶絶ものなのです。
 まずはマーティン&アナ・アーンドルファー、ヴァイングート・スールナーあたりをお試しいただくと・・・・・、 きっと翌日以降の夏ワイン選びが激変するかも、とさえ思います。 

 聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥と申しますね。しかしロゼの場合、試して恥なし、試さぬは一生の損、だとさえ・・・・・思います。
 是非、この夏こそ。

(※ Observatoire du Rose CIVP データ参照)

 

今月の、ワインが美味しくなる音楽:  

耳で味わう冷えたロゼのような、
高山の風鈴のような、アフリカの弦楽器の快音。

Toumani Diabaté & Ballaké Sissoko 

 アフリカン・ハープとも呼ばれるこの、何とも耳に優しい音を出す弦楽器“コラ”については、毎年この時期にお勧めしている気もしますが……、今年もやはりおすすめです。一小節聞くだけで部屋の湿度がスッとゼロになるような、カラ~ンと乾いた音は、高い山で聞く風鈴の音のようでもあり、この楽器の故郷マリのサハラの空気のようでもあり、しっかり冷やした ロゼ ワインを耳で味わうようでもあり。
 大御所プレイヤー2人が、ゆったり寛いだセッションを見せるこの名作、プレイするだけでエアコン代節約、SDGs社会に貢献できる気持にさえ、なりますよ。 

https://www.youtube.com/watch?v=aatrLv6XeBk 

今月の言葉:
「人間は皆、発見の航海の途上にある探求者である」
                    ラルフ・ワルド・エマーソン

 

寺下光彦
ワイン/フード・ジャーナリスト
「(旧)ヴィノテーク」、「BRUTUS」、「MEETS REGIONAL」等に長年ワイン関連記
事を寄稿。アカデミー・デュ・ヴァン 大阪校」、自然派ワイン、および40年以上熟
成イタリア・ワイン、各クラス講師。イタリア、ヴィニタリーのワイン品評会・審査
員の経歴も。音楽関連記事も「MUSIC MAGAZINE」に約20年、連載した。


 
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