合田玲英の フィールド・ノートVol.88 《 グラン・オーセロワ地区 / ヴィニ・ヴィティ・ヴィンチ 》
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この数年、北部フランス(ロワールや北部ブルゴーニュ)でもアルコール度数14度に達するワインを見かけることが珍しくなくなってきました。温暖化に対応するために、今までは重要視されてこなかった品種とエリアが注目を集めています。品種では、収量が低く、涼しい気候では酸が強く、野性味のあるもの。エリアでは、一般的な品種を栽培していながらも、気候の涼しすぎた緯度の高いエリア、標高の高いエリアなどです。
またコロナ禍の状況では、以前のようなアルコール消費のされ方からは変化を余儀なくされるため、量を造ることの重要性が減るのではないでしょうか。これを機に更なる品質を求める機運の高まりを肌で感じます。
《 グラン・オーセロワ地区 》
ブルゴーニュの最北部の地域であり、シャンパーニュ南部のエリア、コート・ド・バールからは40㎞ほど。ラシーヌでもこの地域のワイン生産者とは取引が長く、シャブリの【ド・ムール】、ヴェズレの【カデット】、取引の一番新しい(といっても2010年から)【ヴィニ・ヴィティ・ヴィンチ】をご紹介しています。このエリアが冷涼ゆえ温暖化が進んでもワインの品質が良い、と言っているわけではありません。たとえば当エリアのソーヴィニョン・ブランは、2018年にはアルコール度数15%に達することも出来たので、もはや冷涼な土地とは言えないかもしれません。
このエリアについては、ブルゴーニュと名乗れる、最北のエリアということもあって、注目を集めています。が、これまでは、シャブリを含むその他地域といった程度の理解どまりでしたので、その周囲のエリアも含めてそれぞれのワイン生産エリアの位置関係を見てみました。
ワイン関連本では、それぞれの地域のブドウ栽培エリアの地図に限定されていることがほとんどであるので、グラン・オーセロワを挟んで、シャンパーニュ南部とロワール東部(ついでにコート・ドール)を一緒に見てみるのも、一興です。
並べてみるとやはりパリを中心に、パリ盆地の同心円上に広がる丘にブドウ栽培エリアが広がっていることが、改めて見て取れます。道路や河川は、パリを中心に放射線状にパリ盆地を貫いています。
サンセールから、シャブリやイランシー、コート・ド・バールまで、ライン上に並んでおり、どのエリアも白亜質石灰岩土壌を共通点としてもっています。だから味に共通点がある、とまで言うつもりは毛頭ありません。ただ、地図遊びは啓発的で面白いというだけです。
《 ヴィニ・ヴィティ・ヴィンチ 》
同エリアの代表的な生産者である、ヴィニ・ヴィティ・ヴィンチ。ニコラ・ヴォーティエが「ヴァン・ナチュールの聖地」のひとつ、トロワのワイン・ショップ&バー“Aux Crieurs de Vin”で15年勤務した後、満を持してアヴァロン村で始めたマイクロ・ネゴシアン。
ニコラは、シャンパーニュやシアトル近郊のワイナリー、それにくわえてフィリップ・パカレとドメーヌ・サーブルでも、栽培醸造経験を積んできた。醸造と販売という幅広い経験に加えて、もちまえの勘の良さもあって、どういうワインを目指すべきかという明確なワイン像が、ワイン造りに先立ってすでに描かれていた。
さて、アヴァロン村周辺にはブドウ畑はそこまで多くないが、30㎞程離れた、グラン・オーセロワ地区のブドウを中心に、有機栽培またはリュット・レゾネの老農家から購入している。初ヴィンテージは2009年。ワイナリー開設時より、買いブドウではあるが、自前の収穫チームを組織し、畑の中で選果しきれるようにしていて、セラーにはきれいなブドウしか持ち込まない。基本的に全て全房醗酵で、醸造の大部分は畑で終える、とニコラは語る。6ha分のブドウの購入から始めたが、近年は10ha分のブドウ栽培農家と関係を築き、ブドウの購入につなげている。
セラーには台形の木製開放槽を所有し、野生酵母のみで発酵。亜硫酸添加は、瓶詰め時に行うのみ。だが、彼の高い志が生むピノ・ノワールは、ちょっと「エロっぽい」エチケットとは裏腹に、しっかりした構造と魅力が待ち構えている。まさしく、偉大なピノ・ノワールのニュアンスを帯びた柔らかな香りと、ピュアなエキスが満ちている。“(弊社HPに準拠)
同エリアの代表的な、ヴィニ・ヴィティ・ヴィンチの開設当初(2009年初VT)のワインは、アルコール度数11%~12%のワインがほとんどだったが、最新VT(2018)は12%~13%まで上がっています。ニコラがブドウを購入するイランシーの畑は、どれも斜面上部の日当たりの良い畑で、購入する区画にもこだわりを感じます。
今年度入荷のヴィニ・ヴィティ・ヴィンチ(主に2018年VT)について。白ワインは、高い成熟度を感じさせ、アルコール度数も高い。一部の白のキュヴェでは、マセレーション時のアルコールの揮発を見込んで、解放桶によるマセレーションを行っています。赤はどれも気品とバランス、高い熟度と適切な酸、骨格を備えている。熟成を待ちたくなるポテンシャルです。
2018年は過去5年間の中でも、収穫量が最も多かったのでキュヴェ数も多かったのですが、その分生産本数は各キュヴェに分散しています。なので毎年、同じエリアや区画からリリースされることはまれですが、以下ヴィニ・ヴィティ・ヴィンチの代表的な区画についてです。
レ・ロンス / Les Ronces
レ・ボー・モンの上の畑、森に囲まれている。真南向き。
レ・ボー・モン/ Les Beaux Monts
レ・ロンスの真下の区画で斜度がきつい。2015年時点では慣行農法だったが、ニコラが頼み、現在はビオロジック農法へと移行。
レ・マズロ / Les Mazelots
こちらも真南向きの急斜面で、ニコラの造る赤ワインのトップキュヴェの一つ。収穫量に恵まれた2018年は(またはタンクが足りないときは)レ・ロンスとブレンドされ、レ・ロンズロとリリースされた。
ラ・クロワ・ビュテックス / La Croix Buteix
評価の高いパロットの真上の区画だが、西向き斜面で、この区画も丘の最上部にある。
オーシャンプルー / Haut Champreux
ラ・クロワ・ビュテックスと同様の丘の中腹の畑。
◆クーランジュ・ラ・ヴィヌーズ / Coulanges la Vineuse
ヨンヌ河の西側のエリアで、ロゼワインが造られることも多かったが、ニコラのように区画ごとにワインがリリースされることはまれ。
グロール・テット / Grôle Tête
斜面の比較的下の方の区画で、涼しい。明るい果実の軽いワインに仕上げる。
シャンヴァン / Chanvan
急な斜面の中腹、表土も石が多い。果樹栽培もまだ多く残るエリアで、ニコラのお気に入りの畑の一つ。購入するブドウは樹齢の高い畑を特に選ぶことが多いが、シャンヴァンの畑はブドウも2000年代に植えられたばかりの若木が多い。ニコラは可能性を感じている。
◆エピヌイユ / Epineuil
30km北東へ行けば、シャンパーニュのコート・ド・バール地区だが、土壌にはマグネシウムなどが多く含まれ、赤い土壌が多い。
◆ブレオ― / Breau
しばしば塩味とヨード香を感じさせる。ニコラが初期の頃からアリゴテやシャルドネを購入しているエリアでエリアとしては、サン・ブリの地域内。ソーヴィニョン・ブランではないので、サン・ブリは名乗らない。
~プロフィール~
合田 玲英(ごうだ れい) 1986年生まれ。東京都出身。
2009 年~2012 年:ドメーヌ・レオン・バラル(フランス/ラングドック) で研修
2012 年~2013 年:ドメーヌ・スクラヴォス(ギリシャ/ケファロニア島) で研修
2013 年~2016 年:イタリア/トリノ在住
2017 年~:日本在住
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