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ファイン・ワインへの道vol.54

「一番大切なテーブルマナーとは?」

 外食チェーン“松屋”ほぼ全店でジョージア料理 シュクメルリが今年1月19日からオン・メニューされるなど、世の中変わる時には一気に変わるものだなぁ、と感慨深い2021年の出だし。  
 シュクメルリ、つまりジョージア風・鶏とニンニクのクリーム煮込みのブーム(?)とリンクして、さらにジョージア・ワインの人気も広がるといいですね。
 松屋でシュクメルリをテイクアウトして自宅でラマズ・ニコラゼやニコロズ・アンターゼのワインと共に楽しむ。なんてオツなことでしょう。松屋以外に日清食品もシュクメルリ味のカップヌードルをリリースするとか。
 それにしてもこのシュクメルリ、松屋のレシピは駐日ジョージア大使のお墨付き。700円代という価格ゆえ、素材等々は普段読者の皆様がお口にされてるものとはやや乖離がある感じでしたが・・・・。しかし。昨年1月中旬から短期限定メニューだったものが、同社が行った復刻熱望料理アンケートでなんと1位になったとのことで、世の中のリアルは、売り手側の萎縮した自主規制やマーケッターの想像なども、時にははるかに超えているのかなと思うと愉快ですね。
 そんな意味では今年、売る側はいつまでも「ドイツワインは売れないんですよぉ」と弱気なのを尻目に消費者がガンガン、ドイツワインを買うなんて事態も起こるかもです。ドイツワイン、地球の気候崩壊・気候危機(温暖化、なんて甘いもんじゃない)の恩恵を最も受けている地域の一つですし。オーストリアワインも同様で、その人気の拡散と定着は想像以上に早かったと皆様、お感じじゃないですか? 

ジョージアのシュクメルリはこんな感じ。

 と、そのような小さなトピックスを今日はあと一つ二つ。うち一つは、この年末年始のワインの場でも、また感じたこと。いつもながら、と言うべきかもしれませんが。
 皆さんは「一番大切なテーブルマナーは何?」と尋ねられると、どう答えます?
 「ナイフとフォークの使い方」? 「ナプキンでグラスのエッジを拭くこと」? 「ワインと料理の正しいペアリング」?。どうやら、そうじゃないようなのです。
 「最も大切なテーブルマナーは、ディナーの席にどんなことでもいいから少し面白い話をひとつ持っていくこと。それを話すこと」。
 これは、開高健などを筆頭に、多くの文化人たちが繰り返し述べていることです。もう少しかみくだくと、「黙って食べるな、飲むな」ということです。 
 もちろん面白い話とは、TVタレントのような( 浅薄な)笑いをとることとは全く異なって、単にちょっと興味深い話、というようなレベルで十分なんです。「トリュフには黒と白以外に赤トリュフというのもあるらしい」みたいな話でさえ、黙って食べるよりはマシ、なわけです。 
 ところがやはり。ちょっとした出版社にお勤めの人々や、 色々な見識を積まれた勤め人の方々と、 年末年始(少人数で)ワインを囲む機会がいくつかあったのですが・・・・・・ “黙って食べる人”のなんと多いことか。もちろんその方々はコロナのコの字もない時代から、同じ感じでした。 
 イタリアに取材に行った時ですが「話さない人=退屈な人 というのは人物に対する最大級のけなし言葉だよ」、とさえ聞いたことあります。
 また、何度か来日しているイタリア人のワイン生産者からは、こうも聞いたことがあります。「東京の人と大阪の人を見分けるのは簡単。ディナーの時にいろいろ話すのが大阪人で、何も話さないのが東京人だよね! ちがうかな?」・・・・・。
 なかなか、事態は深刻です。 
 次回、何かの会に呼ばれた時は、もちろんどのワイン、どのヴィンテッジ、どのクリュということに頭を捻られるのも大切でしょう。それと同時に(それ以上に?)、どんなことを話そうかということも同じく考察されると・・・・・どうでしょう?
 ワイン選びより話題選びが大切、なのかもしれません。(すぐさま、私を知る人からは「その方面では全く成長がないね君は」との諦観の声が聞こえましたが。)

 そして。もう一点の、ミニミニ トピックスは、お題散漫で申し訳ないですが、健康について。
 なんと“チーズと赤ワインの定期的消費は、加齢に伴う脳の認知機能の保護に役立つ”との研究結果が発表されたのです。 中でもチーズは優れて認知機能を保護する食品だったと研究者は述べています。赤ワイン及び羊肉の消費もまた脳機能の保護に役立つそう。
 これはアイオワ州立大学・食品科学及び人間栄養学チームが総計1748人のイギリス人のデータを、10年の長きに渡る歳月をかけて調査した結果です 。
 同時にこの研究でも、過度のアルコール及び塩分消費と肥満は、認知症リスクを増大させるという結果も出ています。

 赤ワインとチーズが認知機能を保護する・・・・・。どおりでイタリアなどで70歳代、80歳代のワインの造り手にインタビューすると、半世紀前後も前のヴィンテージの模様を、まるで昨日のことのように克明に記憶し、語ってくれるわけですね。

 ちなみに、冒頭に述べたジョージア料理シュクメルリはチーズもたっぷり。 ちょくちょく食べると・・・・・・、ディナーの席で 話そうとしていたとっておきの話題を、ふと忘れてしまう(最近、私は多いです)なんてことも、なくなるかもしれませんね。

 

今月の、ワインが美味しくなる音楽:

暖炉の火のような、心温まるメロウ・サックス・ジャズ。

ポール・デズモンド『ピュア・デズモンド』

 冬に静かに揺れる暖炉の火のような、優しさと穏やかさ、温かさがあるサックスの音色なのです。あくまで静かでメロウ。まったりと心が温まり、心癒される響きは寒い今の時期に、どうにもたまらなくマッチします。このポール・デズモンドは、繊細で穏やかなスタイルで愛される、西海岸クール・ジャズの大御所の一人。  
 イギリス人たちは、真冬に飲むローヌなど果実味豊かな赤ワインを、「太陽を体に取り込む」という表現を使うようです。とするとこのアルバムは、少し早く春の陽を体に取り込んで、沈みがちな気持ちをその陽の力でゆっくりと前向きにしてくれるような心地さえ、しみじみと感じられます。 
https://www.youtube.com/watch?v=SBdFEOF88gM

 

今月の言葉:
 「太陽が輝く限り、希望もまた輝く」
         フリードリッヒ・シラー(ベートーヴェン、第9交響曲の詞の作者)

 

寺下光彦
ワイン/フード・ジャーナリスト
「(旧)ヴィノテーク」、「BRUTUS」、「MEETS REGIONAL」等に長年ワイン関連記
事を寄稿。アカデミー・デュ・ヴァン 大阪校」、自然派ワイン、および40年以上熟
成イタリア・ワイン、各クラス講師。イタリア、ヴィニタリーのワイン品評会・審査
員の経歴も。音楽関連記事も「MUSIC MAGAZINE」に約20年、連載した。


 
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