『ラシーヌ便り』no. 181 「イタリアンワインインデックス、10Rワイナリー キュヴェ・ステラマリス」
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最終更新日:2021/02/01
定番エッセイ, 合田 泰子のラシーヌ便り, ライブラリー
新年おめでとうございます。
未だ新型コロナ禍は収束のめどはたちませんが、どのような時にも工夫を重ね、困難を超えて行きたいと存じます。造り手とお客様と共に歩む、ということの大切さを、昨年ほど考えたことはありませんでした。
皆さまのご健勝を、本年もまた心よりお祈り申し上げます。
【イタリアンワインインデックス by “bar & enoteca implicito” 東京都 渋谷区 】
―イタリアワインを真摯に味到する探究の場、誕生―
15年にわたって素敵なワインバー Implicitoを経営されている、松永聡さん。このたび、YouTubeで鋭意イタリアワインの情報発信をされています。No.8 Le Due Terre、No.15 Salvo Fotiとエトナワインについて お話しさせていただきました。
ラシーヌが秘蔵する門外不出の旧ヴィンテジを、お話しの中で何本かテイスティングしましたが、参加者一同、完璧なまでの熟成と美しい味わいに驚きました。
是非ごらんください。
松永さんありがとうございました。
【10Rワイナリー クヴェヴリ製ツヴァイゲルト2017 キュヴェ・ステラマリス】
嬉しいお知らせです。
北海道岩見沢のガットラヴ・ブルースさんと亮子さんが造られたクヴェヴリ製ツヴァイゲルト2017を、ラシーヌが販売させていただくことになりました。
ブルースさんとのご縁は、ワインを通しての長いお付き合いでした。今さら申し上げるまでもなく、ブルースさんはニューヨーク州立大学で植物生理学を学ぶさなかワインへの興味が強まり、ソムリエとして、またワイン専門店で働かれました。ワインの醸造を本格的に学ぼうと1982年、アメリカの醸造学で最も権威のあるカリフォルニア大学デイヴィス校大学院の醸造学科へ。学んだ科学と長い醸造経験を背景にして、テクニックに頼らずに本来のブドウの良さを生かす醸造を考えるようになりました。
2017年3月に初めて10Rを塚原とともにお訪ねした時、ブルースさんは次のようにおっしゃってくださいました。「私はお二人に会ったことはなかったけれど、ル・テロワールとラシーヌが輸入された素晴らしいワインを飲んで、みんなで勉強してきました。2006年にフランスに行った時も、クロード・クルトワ、マルク・アンジェリ、ギィ・ボサールほか、たくさんのシャンパーニュの造り手を訪問しました。だから、今日会ったのが初めてじゃない」と。それからワインの様子を見にお伺いできるようになり、クヴェヴリ製ワインをラシーヌで販売させていただけることになったことは、とても大きな喜びです。
昨今の世界的なアンフォラブ―ムのため、ジョージア国内でも上質なクヴェヴリが少なくなってきました。そこで入手困難にならないうちにと2015年、ワインと一緒にクヴェヴリを運び、さいわいブルースさんが使ってくださいました。日本ワインの多くの造り手たちの道しるべともいうべきブルースさんを思って、そのワイン名を「STELLA MARIS」(北極星)とし、ラベルをミシェル・トルメーに描いていただきました。ミシェルらしい、ユーモアある作品です。品種は、年によって変わりますが、1甕(700リットル)から造られる、クヴェヴリ醸造ワインです。このワインの誕生を、私たちもガットラヴさんご夫妻も大変喜んでいます。
2017年、クヴェヴリは輸送のさい梱包に用いた大型木箱に入れたまま、その周りに近くの土を埋めた状態で、醸造に用いられました。ビン詰めは、2019年春。ワイン名が決まってラベルの準備ができたのが、2020年春。11月に気温が下がってようやく岩見沢から運ぶことができました。
収穫から3年経過し、ワインは理想的なデビューの時を迎えました。先日、オフィスで最初の一本を味わいましたが、私たちは一口飲んで、しばし沈黙。ようやく、「素晴らしいワインが届いてよかったね」と、にっこり。格別なテクスチュアの、心震えるワインです。今回は一部のリリースとなりますが、もともと造られた数が一甕と僅少のため、さらにご案内本数が少なくなって、申し訳ありません。
押し詰まった12月23日、ブルースさんと亮子さんを訪ねました。観測史上記録的な大雪に見舞われた岩見沢は、2m近い白い巨塊のなかに埋まっていました。ブルースさんのワインは一言で言えば、独特のテクスチュアと芯があります。亜硫酸がゼロまたは低くて喉越しがいいだけのワインとは、本質的に異なっています。静かに控える穏やかな骨格としなやかさがワインに比類のない個性をあたえ、これまで味わったことのない「未知の惑星」のようでした。経験豊かなガットラヴ夫妻にとっても初めて出会ったクヴェヴリとの付き合いのなか、叡智を尽くしてやるべきことをし終えたあと、ワインの育ち方をゆったりと見守っておられるという、お二人の印象でした。
空知は北海道の中でも内陸にあり、気温は氷点下15度になっても積雪に守られ、ヴィニフェラの栽培が可能です。例年、残暑はさほど厳しくなく、夏が短く、ワインには酸のくっきりとした立体感がそなわります。ワイナリー10R は2018年―2019年にかけて新しいセラーを建て、そこにクヴェヴリを埋めたため、2018年は醸造できませんでした。「クヴェヴリの周りには、砂利や砂は許可されません。そこで、とりあえずベニヤ板で床面をカバーしました。そのうち、きれいな色のタイルで覆うつもりです」。
「ここは、栽培家が自分のブドウを持ちよって醸造し、他の人のワイン造りも手伝っている。海外からも、日本の他の地方の造り手たちも、家族でやってきて加わり、子供たちが走り回っている。そうやりながら、皆でワインを造るところ」。でも2020年、その活気あふれるいつもの収穫期はなく、人の出入りが制限され、限られた人数で醸造が行われました。それだけでなく、収穫量は普段の1.5倍もあり、ただでさえ限られた時間のなか、緊張と慌ただしさの中で作業が進みました。ブルースさんとスタッフの方々の大変さは、どれほどだったでしょうか。
空知でワイン造りを始めて10年になる、ブルースさんと亮子さん。お二人のワインとともに私たちラシーヌは、新しい一歩を大切にしながら前に進みます。