合田玲英の フィールド・ノートVol.87 《 ワインの飲み頃(1) 》
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最終更新日:2021/01/01
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一口に飲み頃と言っても、考えるべき点はワインによって、地域、品種、気候など様々あります。
今日はひとつ、価格にしぼり、それも2,000円台前後で考えてみたいと思います。続編をまたいつか書く予定ですので、ひとまず(1)としておきます。先日も酒屋でワインを買ったお客様から、以下のような4種類のワインの飲み頃についてお問い合わせがありました。イタリアワインばかりなのは、たまたまです。
1.生産者名:ニコラ・マンフェッラーリ
ワイン名:ミッレウーヴェ ビアンコ 2018
2019年11月入荷。2600円(希望小売価格 ※以下、いずれも税抜価格)。フリウリの様々な土壌と品種のワインをブレンドしている。果実味の充実感と樽のニュアンスがある。
2.生産者名:モンテ・ダッローラ
ワイン名:ヴァルポリチェッラ・クラシコ サセーティ2018
2019年5月入荷。2,400円(希望小売価格)。ヴァルポリチェッラに用いられる複数の黒ブドウ品種をセメントタンクで醗酵させ、同様にセメントタンクで半年間熟成。透明感のある果実味と酸味。
3.生産者名:ボッカディガッビア
ワイン名:ロッソ・ピチェーノ2015
2018年11月入荷。2,400円(希望小売価格)。モンテプルチアーノ60%、サンジョヴェーゼ40%のブレンド。5haの畑から造られる、比較的生産量の多いキュヴェ。また、この価格帯ながら、瓶詰め後も1年近く時間をかけてからリリースされるため、味わいが落ち着いている。
4.生産者名:ポデーレ414
ワイン名:バディランテ2018
2020年6月入荷。1,800円(希望小売価格)。サンジョヴェーゼ100%を、セメントタンクで醗酵・熟成させ、樽熟成による複雑味よりもフレッシュな果実味のあるスタイル。
どのワインも、各ワイナリーのエントリーレベルのワインで、すでにワインがある程度“開いている”状態か、ブドウ選びや醸造の段階から、フレッシュな果実味が特徴となるような造りをしています。そして、それぞれのワインがこの価格帯である理由は、例えば以下のような訳があります。
・収穫量の多くなる若い樹齢の樹であったり、畑が平地であるがゆえに栽培コストが抑えられる。
・同じ畑を複数回収穫する場合、例えば1回目は、房が大きかったり、色づきが悪かったり、それ以上の成熟を見込めない果実を収穫。その場合、マセレーションなどの期間は短く、未熟ゆえの青い果実味などを抽出しないようにします。残した果実は1~2週間後に収穫し、抽出も時間をかけて行い、熟成期間も長くする。
・高価格帯のワインを作る上で、長期の熟成ポテンシャルという観点からすると、どうしてもそれ以上の熟成を期待できないワインが出来てしまいます。樹齢の若い樹、樽熟成の段階で味わいがひらきすぎているなど、理由は様々です。それらのワインは品種別や畑別にリリースせずに、ブレンドしてより早く市場にリリースされる場合が多いです。
・ワイナリーのワイン造りのコンセプト(あるいはポジショニング)自体が、生産量の少ない高額ワインをめざすのではなく、より多くの顧客に楽しんでもらいたい場合。ちなみにその決断には地域や造るワインのタイプのブランド力なども関係してくるのでしょうが、どのような規模のワイナリーであっても、造り手の志と技量というものが大きく品質に関係します。
上記のことはそれぞれ、ワイン造りにおける一部の要素でしかありませんが、そんな感じです。これらのワインの飲み頃と言われると、「2,000円台前後のワインですと、生産年からの2年後から5年後くらいが飲み頃と考えていただいて、問題ありません」というのが、乱暴ではありますが、当たり障りのない回答です。
しかし、正直なところ2,000円台のワインであっても、生産年から5年以上問題なく熟成するワインは確実にあります。それには専用のワインセラーや、1年を通して15度前後の一定温度である保管所が必要ですが、寝かせたら寝かせた分だけ、応えてくれます。
アルコール度数が高く、抽出も強い高価格帯のワインの場合、各要素が調和し、熟成感を感じられるまでに、長い時間がかかります。例えば上記の4つのワインの場合、収穫年から5年ほどたてば、熟成感は難しいですが、要素の調和したこなれた味わいには、絶対になります。それ以上を求める場合でも、3,000円台前半のワインでも十分でしょう。
先日、ピエモンテ州の造り手、フェルディナンド・プリンチピアーノのキーラ2012年を飲む機会がありました。残念ながら現在は生産の終了しているワインですが、2014年に入荷した当時は3,200円で販売をしていました。通常なら販売開始年と翌年には飲み切られてしまうワインですが、提供してくださった飲食店の方が、大事にとっておいてくれたのでした。何でも、新聞紙をまいて、銘柄を分からなくしてから、セラーなり冷暗所に保管して忘れるのが、熟成をさせるコツだそうです。
このワインはフレイザという野趣があふれ、軽めの抽出だとしても、果皮の成分が濃い品種であるということも理由ではあるのですが、収穫年から8年たち、少し粘性を帯び、同じ年数を経たバローロにさえも負けない、ピエモンテらしさ、山のワインらしい香りに満ちていました。
単純に飲み手としても幸せなひと時ですし、インポーターとしても、改めてこの造り手を強く信じることの出来る瞬間でした。
読んでくださっている皆様も、是非お気に入りのワインがあれば、同じワインの同じVTを複数本買って、半年でも1年でも置いてから飲んでみてください。
~プロフィール~
合田 玲英(ごうだ れい) 1986年生まれ。東京都出身。
2009 年~2012 年:ドメーヌ・レオン・バラル(フランス/ラングドック) で研修
2012 年~2013 年:ドメーヌ・スクラヴォス(ギリシャ/ケファロニア島) で研修
2013 年~2016 年:イタリア/トリノ在住
2017 年~:日本在住