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合田玲英の フィールド・ノートVol.86 《 比較試飲 》

公開日: : 最終更新日:2020/12/01 ライブラリー, 新・連載エッセイ, 合田 玲英のフィールドノート

 10月末、広島での業務店向け試飲会に合わせて、消費者向けイベントを行いました。
 ラシーヌでは、毎年のようにラシーヌナイトと称して、様々なテーマでワインイベントを開催してきましたが、今回は例年のような大勢の会ではなく、人数を制限した短時間での催しとしました。なのでゆっくり楽しむ会ではなく、少しセミナーのような雰囲気をめざしました。内容はシンプルに「同じように呼ばれているワインの飲み比べ」として、4テーマ2種類ずつワインを並べました。テーマは【シャンパーニュ】【リースリング】【オレンジ】【ピノ・ノワール】で、それぞれのテーマの2種類のワインは以下のように選んでみました。 

1.いわゆるナチュールっぽいワイン
 ご存じ、定義の難しいナチュールという言葉なので、選定基準は弊社輸入のワインの中から、亜硫酸無添加ということだけ、としておきました。
2.いわゆるナチュールではないワイン
それ以上でもそれ以下でもないですが、ナチュールっぽくないワイン。

  ワインを勉強したい時は、常に最低2本以上のワインを比べて飲むのが鉄則。それもいくつかの共通項があるものを比べないと、何を比べればよいか分からなくなるので、このような趣向になりました。

【シャンパーニュ】 
 ・シャンパーニュ・マルゲ/シャーマン16グラン・クリュ
 希望小売価格:7200円 亜硫酸無添加、ドザージュなし。リザーヴ・ワイン20%。ビオディナミ栽培 
 ・ジョゼ・ミシェル/ブリュット・トラディション 
 希望小売価格:4900円 亜硫酸添加あり、ドザージュ9g。リザーヴ・ワイン40%。慣行農法。

◆その年のVTの様子や、ブドウの果汁の味わいが前面に出ており、飲み手をワインへと向き合わせるマルゲのシャンパーニュに対し、多めのリザーヴ・ワインとドザージュにより、味わいをととのえ生産者側から、飲み手へと向き合っているジョゼ・ミシェル。 
 シャンパーニュは製造段階で手を加える工程が多い分、造り手の介入度合いが高く、だからこそ“行わないという選択肢“も含め、造り手の哲学が現れやすいと思います。お時間あれば、リザーヴ・ワインとドザージュについて、“合田玲英のフィールド・ノートVol.84”をご覧ください☆(http://racines.co.jp/?p=16229)。

【リースリング】
 ・リタ・ウント・ルドルフ・トロッセン/ムッケロッホ・リースリング・プルス2013
 希望小売価格:5000円 亜硫酸無添加、ビオディナミ栽培
 ・ヴァイザー・キュンストラー/ヴァイサー・キュンストラー リースリング2017 
 希望小売価格:2700円 残糖度6.0g/l、total SO2 111mg/l.、ビオロジック栽培。

◆どちらもドイツのモーゼルの生産者。トロッセンは白い花がパッと咲いて、30分後にははらはらと花びらが散ってしまうような、美しくも儚いワインでした。一方キュンストラーは、亜硫酸無添加のものと飲み比べてしまうと、飲みづらく感じてしまうか、と思っていたのですが、アタックから飲み心地まで全て滑らかで、土壌や醸造の個性が強く出ているわけでもない、エントリーレベルのワインとして最高でした。
 会の最後にどちらが好きだったか挙手してもらって、一番票が割れたのがこちらの組み合わせでした。

【オレンジ】
 ・ニコロズ・アンターゼ/ルカツィテリ2018 
 希望小売価格:3500円 亜硫酸無添加、アンフォラ醸造。 
 ・メンティ/モンテ・デル・クーカ2017 
 希望小売価格:3800円 亜硫酸無添加、ステンレスタンク醸造。 

◆どちらも亜硫酸無添加になってしまいました。オレンジワイン≠ナチュラルワイン≠アンフォラ醸造とは言っても、近代醸造技術を適度に使って、きっちりかっちり造ったオレンジワインが(弊社には)ないので、このような組み合わせに。 
 メンティ(イタリア、ヴェネト州)がガルガーネガ種で造る、モンテ・デル・クーカは酸化のニュアンスはあるけれど、いわゆるオレンジワインにありがちな揮発酸も強くなく、落ち着いている。彼が造り始めた頃から、アンフォラ醸造へと切り替えればいいじゃないかと、提案されることもあったそうだ。このオレンジワインはステンレスタンクでの醸造を続けていますが、初めて飲む人にも色眼鏡で見ている人にも、おすすめしやすいとの声があります。 
 ジョージアのニキ(ニコロズの愛称)のワインは、4月の入荷時から比べれば落ち着きが出ていて、独特の余韻をみせている。収穫した全てのブドウをマセレーションしているわけではなく、10%だけ全房のブドウを漬け込んでいて、通常のカヘティ地方の果皮成分の多く抽出された、強くて荒いワインとは異なった味わいです。

 【ピノ・ノワール】 
 ・ピエール・フリック/ピノ・ノワール・ストランジェンベルグ2019 
 希望小売価格:3800円 亜硫酸無添加、古い大樽。 
 ・ダヴィッド・モロー/サントネ・レ・アット2018 
 希望小売価格:4800円 total SO2 64mg/l.、新樽20%。 

◆アルザスのフリックのピノ・ノワールはスリムな果実味で、ブドウの要素以外に付け加えられたものがなく、素直な飲み口。それに加え、お手本のようなピノ・ノワールの香りが出ていました。 
 ブルゴーニュのダヴィッド・モロー、サントネ・レ・アットは日本には初入荷のキュヴェ。ダヴィッドが祖父から引き継いだ肥料過多で樹勢の強かった畑を、不耕起栽培を行って落ち着かせた畑で、2016年から生産しています。新樽の香りが落ち着くには、あと数ヶ月必要。しつこくなく、繊細なスタイルで、ミネラル質や塩味、木イチゴの赤い果実味と、すみれなどの紫色の花が香ります。 
 飲み比べると、亜硫酸よりも樽のニュアンスの方が気にはなりますが、普段からどのようなワインを口にする機会が多いかが、印象を大きく左右すると思います。ブドウの果実の素直で素朴な香りに親しみを感じる人もいれば、優雅な果実味とタンニン、樽香などの複雑味に納得をしている方もいました。 

  一本とじっくり向き合って飲むのもいいけれど、このようなイベントで飲み比べながら話し合うのも、楽しいし、頭の中の整理にもなり、開催者側としても有意義でした。会を終えて、「自分はヴァン・ナチュールが好きなのかと思っていたけれど、もっといろんなワインが好きなんだということが分かったのが、驚きだった」という感想がきけて良かったです。 
 個人的には、いわゆるナチュールと呼ばれるワインの、言葉にできない迫力で飲み手を魅了する一本に出会えたことがうれしいかった。いつも出会えるわけではないところが、引き込まれてしまう理由でもあるのでしょうが、今回はムッケロッホ・リースリング・プルス2013の一瞬の輝きが、クライマックスでした。

 

~プロフィール~


合田 玲英(ごうだ れい) 1986年生まれ。東京都出身。
2009 年~2012 年:ドメーヌ・レオン・バラル(フランス/ラングドック) で研修 
2012 年~2013 年:ドメーヌ・スクラヴォス(ギリシャ/ケファロニア島) で研修
2013 年~2016 年:イタリア/トリノ在住
2017 年~:日本在住


 
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