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合田玲英のフィールド・ノートVol.83 《 地図から啓発される 》

 8月中旬は猛暑が続きましたが、幾らかでも過ごしやすい夜が増えてきました。この時期は、月例オフィス試飲会(といっても、久しぶりの開催となりました)は、ドイツ/オーストリアワインがテーマになることが恒例となっています。
 今回は、ドイツとオーストリアの主要品種に加え、周辺地域(イタリアを除く)のワインに使われるドイツ系品種も出展し、以下のような地図を用意しました。

ヴォージュ山脈  黒い森

 フランスのアルザス地方とドイツのバーデン=ヴュルテンベルク州が隣り合っていることが、各国ごとに区切った地図とは違って、すぐに分かります。フランスワインを先に知った自分からすると、アルザスというのは、南仏よりも降水量の少ない、日照時間の多い地域という認識だったけれど、ドイツ畑の人からすると、バーデンは特に降水量の多い地域という認識になるそうです。
 実際に両地域は、西にヴォージュ山脈、東に黒い森(シュヴァーベンジュラ山脈の南西部)があり、比較的湿潤なフランス北部の西岸海洋性気候と、ドイツ側の乾燥した大陸性気候とが、ぶつかる地域です。“ブルゴーニュからの湿った暖風”がヴォージュ山脈にぶつかり西側に雨を降らせるので、東側のアルザスは降雨量が少なく、両地域を通過する間に湿気を蓄えながら、黒い森に雨を降らせます。
 同じライン地溝帯(ヴォージュ山脈と黒い森に挟まれた、ライン川の流れる地域)に位置する地域だけれど、山地の東側と西側のどちらに位置するかで、偏西風の影響をどのように受けるかということが、わかる好例でした。
 アルザスの《シュレール》と《フリック》、バーデンの《リンクリン》と《エンデルレ・ウント・モル》は、お互いに車で1時間ほどの距離(60㎞程)にあるけれど、出来上がるワインのタイプが違うのもうなずけます。

ジェラール・シュレール・エ・フィ

 

ピエール・フリック

 

リンクリン

 

エンデルレ・ウント・モル

 

 アルザスとバーデンという両地域の話は、もっと掘り下げる必要がありますが、今回はここまでにしましょう。他にも巨視的に見れば、アルプス山脈周辺に位置するワイン産地の分布状況と相互関係が一目瞭然です。国境によって人為的に区切られた生産地域ではなくて、地形や気候といった自然条件によるブドウの生息可能な適地(人にとっても住みやすい地域)が、視覚で分かります。
 こちらのサイト(https://en-gb.topographic-map.com/maps/d93/Germany/)のように、標高のわかるweb地図なども合わせて見ると、より理解しやすいです。コロナ禍の現状では、しばらくは生産国に行けそうにないけれど、地図を広げて地形や気候を考えながらワインを飲むと、ちょっと旅をした気分になれます。

 さて、ワインの味わいを方向づける要素はさまざまありますが、造り手という要素の重要性については、異論の余地はありません。そのうえでいえば、その造り手が属す文化圏の影響を強く受け、その文化の形成には、地形や気候ももちろん関係しているからには、どれが最大の要素であるかはいちがいに決められないことになります。

 個人的に今回の試飲でもっとも印象深かったのは、《A.J.アダム》のワインでしたが、僕は普段ドイツワインを飲む機会が少ないだけに、余計にそう思ったのでしょう。フランスワインやイタリアワイン、あるいは、“いわゆるナチュラルワイン”とは別世界に住み、全く違うバランス感覚と審美眼(感覚)をもった人が造った、美しいスタイルを備えたワインでした。果実の未熟さを思わせる青い香りがあるにも関わらず、それを補って余りある力強さと味わいの勢いを感じます。

 伝統的ワイン生産地域とされる多くの地域で、今までになく糖度の高いブドウが収穫され、出来上がるワインも今までの地域性のイメージとかけ離れたものができる傾向が、いまや明らかに見られます。そのような情況のなかで、《A.J.アダム》は頑固なまでに自分のスタイルを貫き通しています。その結果として出来上がるアダム独自の硬派なワインを飲むと、気候変動の大きな地域でも、その気候に対応した上での、ワインのスタイルが出来上がる大きな可能性に思い当たり、ワイン界がこれからも楽しみになります。

 

~プロフィール~


合田 玲英(ごうだ れい) 1986年生まれ。東京都出身。
2009 年~2012 年:ドメーヌ・レオン・バラル(フランス/ラングドック) で研修 
2012 年~2013 年:ドメーヌ・スクラヴォス(ギリシャ/ケファロニア島) で研修
2013 年~2016 年:イタリア/トリノ在住
2017 年~:日本在住


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