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合田玲英のフィールド・ノートVol.80 《 ハンガリーからトカイワイン、新規入荷 》

公開日: : 最終更新日:2020/10/23 ライブラリー, 新・連載エッセイ, 合田 玲英のフィールドノート

 昨秋、東京のフランス大使館で催された「ラ・ルネッサンス・デ・アペラシオン」には、世界各国からバイオダイナミック農法を実践する造り手たちが集まりました。ハンガリーからはペンディッツ1社のみの参加でしたが、彼女の造り出すトカイワインは多くの来場者の注目を集めました。
 日本では、甘口ワインが楽しまれることはまだまだ少ないのが実情です。が、レストランで食事を終える前に、上等な甘口ワインをほんの少しでも提供されると、ついまた次回も口にしたくなってしまうもの。締めくくりには欠かせない存在となります。糖度が高いものは抜栓してからも持ちがよいので、量を飲めない人にとっても自宅に1本あると心強いです。
 個人的にはイタリアの、陰干しした甘口ワインを飲む機会がよくありました。貴腐ブドウの甘口ワインはというと、アウスレーゼやソーテルヌなどは数えるほどしか口にしたことがなく、ロワールのヴァン・ナチュールの造り手が手掛けた甘口ワインを飲ませてもらう機会の方が多かったです。スティルワインならば辛口の方が断然好みだけれど、甘口ワインは飲むたびに「甘いって、美味いんだなあ。」とつくづく思います。
 そういえば、滞在先としてお世話になっていたギリシャの【ドメーヌ・スクラヴォス】でも、ミュスカの天日干しの甘口ワインを造っていて、極度の凝縮感を狙わないスタイルだったので、夏でも氷を入れて気軽に飲んだものでした。
 トカイワインは数字だけを見ると、ほとんど狂気じみたワイン造りをしていて、その中でも最高ランク付けされるトカイ・エッセンシアは、貴腐のついたブドウを粒ごとに収穫し、そのフリーランジュースのみを使用するため、1haから数本しかできないものだといいます。今回ご紹介するペンディッツでは、トカイ・エッセンシアを造っていないけれど、甘口ワインとして以下の3つの等級のワインを造っています。各少量ずつの入荷ですが、是非手に取っていただけたら幸いです。

Pendits ペンディッツ

Tokaj Cuvée sweet 2012 (500ml)
トカイ・キュベ・スウィート 残糖度:86g/l
Tokaj Aszú 6 puttonyos 2013 (500ml)
トカイ・アスー 6 プットニョシュ 残糖度:197g/l
Tokaj Aszú Essencia 2008 (500ml)
トカイ・アスー・エッセンシア 残糖度:217,5g/l

 

ペンディッツ
ハンガリー/トカイ/アバウインサントン

 ワイナリーのオーナーであるマルタ・ヴィレ・バウムカウフは、ハンガリーの首都ブダペストに生まれ、2000年に亡くなったドイツ人の夫とともに、トカイ地方にワイナリーを持つことを長らく夢見てきました。そして社会主義の崩壊後の1991年、アバウインサントン村にセラーを入手。ここは商業の中心地でもあり、またブドウの栽培地域としても長らく評価されてきた、トカイ地域で第二の大きな町です。バウムカウフ夫妻の購入した古いセラーは、第二次大戦前に高品質のトカイワイン生産者として評価されてきた、フロリアン・ビリツキ(Florian Bilicki)が所有していました。が、ハンガリーがソビエト連邦の影響下にあった時期にワイナリーは閉業し、長らく使われていませんでした。
 マルタたちは1991年、1haのブドウ畑からワイン造りを始めましたが、2012年には合計10haまで所有畑を拡げました。その中には、彼らのフラグシップにしてワイナリー名でもある、ペンディッツ(畑名)も含まれています。トラクターで入ることのできないテラス状の畑で、ユニークなワインができると、地元では評されてきました。げんに、1867年に編纂されたトカイワイン生産地域カタログでも、その特異性が言及されています。しかし、多くの手作業を要するため、ペンディッツは長い間耕作が放棄されていました。
 醸造や栽培の勉強とは無縁なマルタたちでしたが、“実践から学ぶ”をモットーに、できることはなんでも試しました。2005年以降は除草剤や市販の肥料の使用をやめ、トカイ地域で最初にバイオロジック栽培の認証も取得。マルタによれば、後に受けたバイオダイナミック農法のデメター認証もまた、ハンガリーで最初とのことです。なお現在は、息子のステファンもワイン造りに参加しています。

 

 
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