合田玲英のフィールド・ノートVol.79 《 待望のポルトガルワイン、出荷開始! 》
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ライブラリー, 新・連載エッセイ, 合田 玲英のフィールドノート
ようやくポルトガルワインのお披露目です。一部は1年以上前に到着し倉庫で休ませていましたが、ようやく勢ぞろいしましたので、ご案内のはこびとなりました。長年ポルトガルワインを探し続け、何回も訪れてきました。ポルトガルの村々は、伝統的なタイルで彩られた建物が美しく、石造りの厚い壁のセラーや自根ブドウの畑も、いたるところにみられます。ところがテイスティングしても、心に響かないことの繰り返しでした。
なぜでしょうか。当時ポルトガルワイン界は変動のさなかにあり、ナチュラルワインの新しい流れは明確ではなく、外から捉まえにくかったのでした。が、ここ数年のあいだに飛び切りの若手生産者がめきめき腕を上げてきました。その潮目の変化をようやく捉えることができたのです。
今回ご紹介する2生産者は、いずれもナチュラルワインの造り手で、ワインは軽やかで澄んだ味わいをもつ、選び抜いた自信作。酸がきっちりし、果実味豊かで複雑、草の香りが心地よいが青臭くない。どのキュヴェも個性の違いが鮮やかに見てとれ、酒質が素晴らしい。どうぞ、ご吟味ください。(合田泰子)
【Quinta da Serradinha キンタ・ダ・セッラディーニャ】
ポルトガル / リスボン / エンコスタス・ダイレ
ポルトガルワインの取り扱いの決め手ともなった、アントニオ・マルケス・ダ・クルスの赤ワイン。現在アントニオが管理している2.5haの畑は、その祖父と父によって植えられたものです。父は1976年からビオロジック栽培で手入れをしていました。認証取得は1994年で、ポルトガルで初めてビオ認証を交付されました。
アントニオ自身は経済学を学び、別の業界で働いていました。しかし、父親が造ったセッラディーニャ1989年を同年に飲んだとき、初めてワインの奥深さを感じたと、アントニオは言います。“ワインは感情に訴えかけるものだ”、と。そして、プロとしてワイン造りをしようと真剣に考えだしました。
彼の父親は、ボルドースタイルの体躯の大きいワインを好んで造っており、それに合わせてセラーを拡張し、近代的な醸造設備をそろえました。しかし、アントニオはそれらの設備を全て廃し、祖父の造っていたような、酸を活かしたスリムな味わいがする、地域に根差したワイン造りを再開しました。
各ボトルには、ビオロジック栽培の畑に生息するテントウムシをかたどったものが、カプセルの代わりにコルクの上に張り付けられています。
【Vale da Capucha ヴァレ・ダ・カプーシャ】
ポルトガル / リスボン / トレス・ヴェドラス
アントニオのワインとならんで、ポルトガルワインを取り扱う決め手となったのが、ペドロ・マルケスの白ワインです。ペドロのワイン造りは、キンメリジャン土壌を活かした、気候にも土壌にも海を強く感じさせるもので、地品種を数多く栽培して特徴的な白ワインを造っています。
リスボンの北に位置する、トレス・ヴェドラスの地域に13haのブドウ畑を所有。2009年にワイナリーを再興するべく、兄弟でワイン造りを始め、2015年にビオ認証を取得。田舎で生まれた彼にとってブドウ畑は常に身近にあり、リスボンの農業専門学校に行くことに初めから迷いはなかった、と話します。
2005年に卒業後ヨーロッパや新世界のワイナリーで働きながら、少しずつ家族の畑を植えなおし、2009年に初めて自身のワインを造りました。それ以降も近所のワイナリーで働きながら、2015年にようやく兼業を脱してフルタイムで働けるようになりました。
「ブルゴーニュ、ジュラ、アルザス、ロワール、そしてシュタイヤーマルクで造られるような、洗練されたワインが好きだが、白品種のスキンコンタクトといった、昔使われていた技術にも興味はある。けれど、食中酒を造ることをなによりも念頭に置いている」と、ペドロは話します。
≪ ポルトガルについて ≫
一人当たりのワイン消費量はフランスやイタリアと肩を並べ、ワイン生産も全国的に行われています。しかし、大西洋と、山脈や河川によって国土は隣国スペインから隔てられていただけでなく、1986年にEUに加盟するまでは、地理的にも政治的にも孤立していました。長い間イギリス向きに出荷されてきた、ポートワインやマデイラ酒を除くと、ポルトガルワインへの関心は日本市場でも高くはありませんでした。しかし近年、隠れたブドウ栽培地域や地品種への関心が世界的に高まるなか、固有品種の宝庫ともいえるポルトガルでは、海外で経験を積み、ワイン造りを始めた若い造り手たちが、様々な品種と地域でワイン造りをしています。
ポルトガルが広くない国土にもかかわらず、多様な地形と土壌を持つことは、ポートワインとヴィーニョ・ヴェルデという性質が相反するまったく別種のワインが、しかも隣接する地域から生産されることからも、良くわかります。とかく情報過多に陥りがちな現在、ポルトガルには魚介類を使った素朴な料理が多く、その料理と合わせて飲まれてきたポルトガルワインは、一般に気取った味わいを感じさせず、難しく考える必要はありません。そのなかで今回ラシーヌがご紹介するポルトガルワインからは、伝統と共に現代の息吹きや新風が感じられることでしょう。
≪ リスボン地域について ≫
このユーラシア大陸最西端のワイン生産地域は、「エストレマドゥーラ」とながらく呼ばれていましたが、2010年にワイン生産地域が再編成されて「リスボア」と改称され、9つのDOCに分かれています。協同組合が大規模にワインを生産する、テーブルワインの生産量も多い地域で、収穫量の多い品種が植えられやすい傾向にあります。しかし内陸方面へ20㎞入れば標高300mに達し、寒暖差が大きくて絶えず風が吹き、キンメリジャンなどの粘土石灰土壌もありと、良いワインが生産される条件が整っています。
白品種のアリントとフェルナン・ピレス、赤品種のマルセラン、カステラオン、トゥリガ・ナシオナルなど、多くの地品種が栽培されています。伝統的には混植混醸されていましたが、シングルバラエティやシングル・ヴィンヤード産のワインも数多く生まれつつあります。ポルトガルの中でも比較的雨が多い地域のため、白ワインも赤ワインも酸味と鉱物感を基調としたすっきりとした味わいのワインが造られやすく、これからも興味深い造り手の出現が期待できる地域です。
~プロフィール~
合田 玲英(ごうだ れい) 1986年生まれ。東京都出身。
2009 年~2012 年:ドメーヌ・レオン・バラル(フランス/ラングドック) で研修
2012 年~2013 年:ドメーヌ・スクラヴォス(ギリシャ/ケファロニア島) で研修
2013 年~2016 年:イタリア/トリノ在住
2017 年~:日本在住