『ラシーヌ便り』no. 169 「フランス、オーストリア訪問」
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最終更新日:2020/04/01
定番エッセイ, 合田 泰子のラシーヌ便り, ライブラリー
新年あけましておめでとうございます。皆様のご健康とご多幸を心よりお祈り申し上げます。
敬愛するベッキー・ワッサーマンがアメリカにブルゴーニュワインを輸出し始めて40年。造り手と輸入会社を結ぶクルティエとして、ベッキーが貫いてきた理念は、「造り手と最終消費者の利益を尊重するということは、クルティエの利益は最低限に抑える。クルティエが利益を取りすぎてしまうと、双方に幸せでない。」 頭が下がりますね。 ラシーヌは、ほとんどは造り手とダイレクトで取引をしていますが、ブルゴーニュの数社は、ベッキーを通じて購入しています。ベッキーのおかげで、シルヴァン・パタイユ、ダヴィッド・モロー、ダヴィッド・クロワのワインを、適正な価格で日本にご紹介できています。ベッキーから学んだことは数え切れず、仕事を通してこれほど幸せな出会いはなかったと、いつも思います。
ミッシェル・トルメーが、ベッキーのために、40周年記念ポスターを制作しました。ミシェルは、本当にその人の特徴と背景を抜群のセンスでとらえ、一枚の絵に表現していますが、この作品も、あまりにベッキーそのもので、笑ってしまいました。
ベッキーの優しく、美しい笑顔を見習って、ミッシェル・トルメーが描いてくれたユーモラスな女の子のように、楽しく根っこをしっかり見ながら走っていきたいと思います。 本年もラシーヌは、皆さまに喜んでいただけるワインをお届けさせていただきます。
*11月26日から12月14日まで、フランス、オーストリア、ピエモンテを歴訪してきました。 注目の2018年ヴィンテッジは、2020年にリリースされますが、優れた栽培を継続してきた造り手では、質量ともに恵まれたヴィンテージとなり、造り手たちは晴れやかな笑顔でした。近年不作が続きましたが、今年は久しぶりにたっぷりとお届けできそうです。楽しみにお待ちください。
*久しぶりにウィーンを訪れました。オーストリア政府の援助のもと、ウィーンの現代美術館でセントラル・ヨーロッパ(オーストリア、スロベニア、スロヴァキア、ハンガリー、トルコ、イタリア)のナチュラルワインの試飲会が行われました。とくに主会場は熱狂的なファンでごった返し、時代の大きな変化を感じました。2000年代初めにズュートシュタイヤーマルクで、セップ・ムスターやシュトロマイヤーたちの4人組が、ナチュラルワインの活動を始めた頃を思い出します。当時はまるで異様なものを怖れるかのような、偏見に満ちた目で見られていたことを思うと、想像もできなかった事態です。中で、セップ・ムスターとクリスティアン・チダは、このたびの混乱をきわめる会場のさなかにあって、ひと際高い次元のオーラを放っていました。
*フランスの訪問は、おおむね2018年のテイスティングが中心でした。 【アリス・エ・オリヴィエ・ド・ムール】、【シルヴァン・パタイユ】、【ダヴィッド・モロー】はもちろん、特にニコラ・ヴォーティエ(【Vini viti vinci】)、フランソワ・グリニャン、グレゴワール・ペロン、【ドロミー】のワインは、到着が楽しみです。
Vini viti vinci ヴィニ・ヴィティ・ヴィンチ (ニコラ・ヴォーティエ)
収量がとびっきり多くて、暑く、バランスをとるのが難しかった2018。それにしても、楽しくてユニークなワインをつくる人で、上手いなーといつも思います。特にイランシーの古樹から生まれたワインは、しっとりとした風情があって、滑らかで、クラスを感じます。とびっきり美味しくて上手! 立派なワインになってきたと、驚きました。18年という暑い年のせいもあるでしょうが、ヴァン・ナチュールにありがちな梅っぽくてダシっぽいニュアンスは、少しも感じさせない。例年の倍近く収穫量が多かったので、キュヴェも多く、マセレーションをした実験的キュヴェもたくさん作られました。
白ワインの向上が目覚ましい。09年から10年、13年から14年と、本人の中でもステップアップを感じています。畑の中の、一番の変化は、むやみに収量制限をして凝縮感を求めることを、思い切ってやめたこと。気候が暑くなるこれからは、このポイントがいっそう大事になるでしょう。高価格帯のワインには、ひときわ風格が出てきました。未入荷のCuve Les Hatesが見事でした。 明るい人柄で、誠実そのもの、努力と工夫の人、冗談をすぐに返してくる柔軟さ、実は叡智を秘めている、そんな人柄が味わいに出ています。祖父から継いで 10年、サントネという地味な地域にあって、魅力があって、かつ嘘のない王道の味わいを備え始めています。
以下、ダヴィド談です― 「2018年は、果実味豊かでエネルギーがあり、ストラクチュアが良い。熟成させても良いし、早くから楽しめる。アルコールが高くなる作り手もいるが、12.5 —14度以下に仕上がった。決して早摘しないが、土壌が活き活きしているので、フレッシュさが保たれ、タニンの熟成を待って収穫できる。ミランダージュ(花ぶるい) は多い。全房発酵が流行ってるけれど、全房の香りしかしないのは好まない。一つ一つの個性が大切、エレガントなハーモニあるワインが好きだ」
2018年は糖度が高いので、発酵も長く、揮発酸が多い。それでも味わいのバランスをとっている。シルヴァン本人は涼しい年のワインの方が好きだけれど、エレガンスとは果実の成熟の先にあるものなので、決して早摘みはしない。Aligote Bouzeronを18年から造っています。アリゴテ好きのシルヴァンとしては、Bouzeronはグラン・クリュのようなものなので、嬉しくてたまらないようすでした。 2017年のパタイユのワインには驚きましたが、2018年も素晴らしいワインがうまれました。シルヴァンは今、とっても楽しくてたまらない様子です。「2018は暑かったけれどね、決して早く収穫しなかった。アルコリックになる心配より、フェノールがちゃんと熟す方が大事だからね。でも、酸も落ちなかったよ。揮発酸あってもいいさ。2018は、最低5年熟成させないとね。」
La Combe aux Rêves ドメーヌ・ド・ラ・コンブ・オー・レーヴ (グレゴワール・ペロン)
醸造所のキャパシティを考え、ドメーヌとネゴスを合わせて、毎年14000本生産しています。ということは、自社畑の収穫が多い年は、買いブドウは少ない。サヴォワに住んでいる、フランス人の友たちが、たまにワゴンでジョージアに行くそうで、その友達にクヴェヴリを買ってきてもらい、300Lを二個持っていて、庭に埋めています。 畑には2匹の黒い羊がアヒルと一緒にいました。「2018年は暑く、アルコール度数が高くなってね〜」と言いながらも、アルテス、ジャケール、ピノ・ノワール、ガメ、モンドゥーズ いずれも酸が活き活きとして美しい。彼のワインは、2〜3年熟成させて、山の中で味わうと、もっとも魅力を発揮するのでしょう。日本で味わう印象とのあまりの大きな違いに、高原限定販売とするのがいいかもしれないと思いました。 美しい色調にうっとり、いつもはペティヤンを作るキュヴェが、アルコール14度あったため、ペティヤンにせずビン詰めすることにしました。この素晴らしさは、まさに大事件です。
Thierry Allemand ティエリー・アルマン
ここでは、2017年ビン詰め前の試飲をしました。相変わらず素晴らしい。 レイナールはルナール(狐)と読むのだそうです。コルナス辺りの方言だそう。畑の区画は10以上あり、どの区画も若木と古木がある。それぞれの区画の、若木と古木を醸造し、ブレンドしています。ティエリー・アルマンは孤高の存在。2001 以来 30hl収穫できたことがない。水分少なく、乾燥が酷いので、湿度を保つ工夫が必要。変わらずワインはしなやかでエレガント。