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合田玲英のフィールド・ノートVol.77 《 ゴウダレイの注目ワイン! 》

公開日: : 最終更新日:2020/01/01 ライブラリー, 新・連載エッセイ, 合田 玲英のフィールドノート

《 ジャコモが帰ってきた! Il Ritorno del Giacomo! 

【ラ・トッレ・アッレ・トルフェ】
イタリア/トスカーナ/キアンティ・コッリ・セネージ

 2016年に惜しまれながらも、閉業したワイナリー、ラ・ポルタ・ディ・ヴェルティーネのジャコモが、帰ってくる!
 閉業時のことはこちらの過去記事(http://racines.co.jp/?p=8998)に書いてありますが、あれから3年。ついに彼が新規に働くワイナリーからの新作が入荷いたします。

 

 ワイナリーは敷地からもカンポ広場の鐘楼が見える、シエナからも近いトルフェ村にある。
 ワイナリー【ラ・トッレ・アッレ・トルフェ(La Torre alle Tolfe)】は、8世紀に建てられた塔(Torre)を住居やオリーブ畑、ブドウ畑が囲む、大きな農園とも小さな集落ともいえるヴィッラ(貴族の郊外の別宅)だった。ヴィッラは、現オーナーであるマニア・カステッリの曽祖父に買い取られて、現在に至る。ワイン生産を稼業としてきたわけではなかったが、マニアの祖父は特にワイン造りに凝っていたそうで、13haのブドウ畑から少量だけ、自家消費用のワインを造っていた。彼女自身は2015年、レ・トルフェへと戻ってくるまではイギリスに住んでいた。現在シエナ大学に籍を置く夫のマークは、自然保護の活動に長年携わっており、子供たちを含め一家でレ・トルフェへと移り住んだ。
 いっぽうジャコモはこの数年、ワイン造りをするべくワイナリーを探していた。ブルネッロやキアンティ・クラッシコのワイナリーからも話はあったようだが、中~長期間働いてみたいと思えるワイナリーはなかなかなかった。10年以上も心血を注いできた、ラ・ポルタ・ディ・ヴェルティーネが閉業してからというもの、コンサルタントでもなんでも、深くワイン造りにかかわりたいと思えるようなワイナリーは簡単には見つからない。
 そんな時、当時ラ・トッレ・アッレ・トルフェで雇われていた醸造家の友人から、自分の後任にどうかという申し出を受けた。実際に訪れると、2003年からバイオロジック栽培に取り組んできたという、状態の良い畑。1900年代にヴィッラに増築されたセラーは、使い込まれたセメントタンクを中心にしたシンプルな醸造施設。マニアとマーク夫妻は、二人とも地域の歴史に関心が深く、二人の自然を尊重しようと努めるヴィッラ運営の姿勢にもジャコモは共感を持った。

 コッリ・セネージのワインには、ガイオーレのように力強いタンニンと黒い果実味の印象がなく、柔らかなタンニンと、赤く明るい果実味が特徴的。そこにジャコモのワインらしい、酸味と垂直性をつよく感じる。
 ジャコモがワイナリーにやってきたのは、2018年の収穫の少し前だとかで、さらに深くワイナリーとかかわっていくこれからのヴィンテージが楽しみだ。
 今回は、ロザートとキアンティ・コッリ・セネージ、チリエジョーロ、カナイオーロの4キュヴェが入荷。ロザートとキアンティはほぼセメントタンク熟成だけれど、チリエジョーロとカナイオーロの2つは木樽熟成をしており、明瞭な骨格が特徴的。

 

《 1月新着アイテムPick Up 》 

ポデーレ・イル・マッキオーネ】イタリア/トスカーナ/モンテプルチアーノ

 VTを更新するたびにワインの質感が良くなっていく、このヴィーノ・ノービレ・ディ・モンテプルチアーノは、レオナルドとシモーネ兄弟の作。去年入荷した2014年は、冷涼で雨も多い年であったけれど、果実の青い印象もほとんどなく、高めの酸がむしろ飲みやすく感じられた。
 今回入荷分の2015年は、特別に亜硫酸を減らして瓶詰めしてもらった、ラシーヌ向けのオリジナル版。正確にはボトル詰め時に亜硫酸を添加せず、トータルの添加量が下がるようにしたもの。もともとイル・マッキオーネでは、醸造中の要所々々で亜硫酸を使うため、トータルの添加量は100㎎/L弱となっていた。が、お互いの理解が年々深まって話し合った結果、今回はボトル詰めの前段階にあたる澱引き時の添加を省くことで、60㎎/L前後の水準になっている。テクスチュアの変化の有無を、ぜひ実感してもらえばと思う。
 亜硫酸を入れたらよくて、入れなければ悪いかというと、もちろんそんなことはない。じっさい、ボトル詰め直前の添加よりも、醗酵前の段階で、醸造・熟成中に用いる方が、ワインの方向性を決定づけてしまう。
 だから、たんに亜硫酸を添加する量と時期や回数の問題はむろんのこととして、イル・マッキオーネのように、素晴らしい土壌に恵まれ、知識、経験と情熱をもちあわせるだけでなく、自然やエネルギーに対する特別な感性を持った造り手には、常に更なる可能性を模索して行ってほしい。熟成容器一つ分(今回はセメントタンク)の購入を約束することで、生産者も前向きに取り組んでくれることは、この上なくうれしいことだ。
 今年に入って、瓶熟成期間中のヴィーノ・ノービレ2015を何度か試飲する機会があったが、後味の伸びやかさと明るい果実味は、従来通りの亜硫酸添加量のものとは大きな違いだ。ただそれと同時に、瓶詰め後の振れ幅は大きいようだ。幸運なことに生産者側で、もともと瓶詰め後1年たってからしかリリースをしないので、味わいが落ち着いてから日本市場向けにリリースすることができた。今回の入荷のワインの中でも特に気になるワインだ。

 

エセンシア・ルラル】スペイン/ラ・マンチャ/ケロ

 パンパネオの白・赤はともにお手ごろな価格ゆえ、定番ワインとして定着しそうなものだが、そのかわいらしいエチケットとは裏腹に、味わいは毎回かなり気まぐれ。解放桶の長期のマセレーションをして、より多くの酵母やバクテリア働かせるワイン造りが、我が道を行く醸造家フリアンの目指すワイン造り。
 新入荷のMalandroはごろつき(ガルナッチャ100%)、といった意味のキュヴェだ。以前入荷したDe Sol a Sol(土地から生まれ、土地へと還る、アイレン100%)と同じように、ブドウ畑に埋められた、甕で醸造したもの。Malandroのoの部分はその埋められた甕を真上から見た写真で、どうやらマセレーション初期の、ブドウジュースが、まだ鮮やかな紫色をしている時のようだ。
 どちらのキュヴェもフリアンの一番やりたいことをしている。畑で取れたブドウは、そのまま甕の中へと放り込まれ、瓶詰めまでの6か月から9カ月に及ぶマセレーション期間中には、あらゆる酵母・バクテリアが働いていることを感じさせる。

 

~プロフィール~


合田 玲英(ごうだ れい) 1986年生まれ。東京都出身。
2009 年~2012 年:ドメーヌ・レオン・バラル(フランス/ラングドック) で研修 
2012 年~2013 年:ドメーヌ・スクラヴォス(ギリシャ/ケファロニア島) で研修
2013 年~2016 年:イタリア/トリノ在住
2017 年~:日本在住

 
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