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Sac a vinのひとり言 其の三十二「質問」

 サーヴィスマン、特にソムリエをやっている人間の最も重要な業務はなんだろう、と聞かれた場合、私は直ぐに答える。「質問すること」であると。
 初めて接遇するお客様であれば先ずお好みを把握するために、失礼にならない範囲でできる限りの情報を収集しなくてはならないし、常連のお客様であっても、その日の体調やご要望の確認のために会話の中に質問を織り込んでいかなければならない。中には質問しなくても問題無い、プロであるなら言われずとも理解できなければならないという方もいらっしゃるであろうし、また重要な業務であると言うことを錦の御旗にして、質問に時間をかけすぎたり、余りに質問の頻度が高いのも考えものである。行為自体に重要性があるわけではなく情報収集がその主たる目的で有る為、結果としてお客様のパーソナルを正確に把握出来るのであれば、質問をこなす回数は少ない方がよりスマートで有ると言えよう。とは言っても実際にどの様な点に留意しどの様に分析を行えば、より正確なサーヴィスが出来るのか? 日常的に我々が発信する質問を分析することで検討していきたい。

 「食前酒(又は食前のお飲み物は)はいかが致しましょうか?」
 ソムリエに従事する人間であれば、一生の中で最も発する回数が多いと言っても過言ではない台詞ではないだろうか?和洋中のジャンルも問わず、全国津々浦々いや全世界の飲食店で必ずと言っても良いほど行われる質問で有る。勿論なんらかの理由でこの質問を行わない店舗も見受けられるが、それは今回の検討には余り関係が無いので割愛する。
 では、実際に質問を行い、それに対してのレスポンスが有るわけなのだが、返答からは想像以上に様々な情報を得ることが可能で有る。

 

例1) シャンパーニュ

 ①「せっかくだからシャンパンをもらおうかな」
  → 日常的には飲まない? せっかくだから という文言から、余り頻繁にはレストランには来ない? なんらかの記念日?
【対応】
 質問は具体的な情報を把握することよりも、大まかなお好みを把握することに努めて
 選択することの難しさを、こちらが導き選択のサポートをする形で軽減すべき。
 AOCやDOCGなどの専門用語は避ける。 品種もメジャーなもののみに留める。

 ②「取り敢えずシャンパーニュをもらおうかな」
 →レストランに慣れているか? 取り敢えずということはその後のワインも視野に入れている?
  ある程度飲める?
【対応】
 取り敢えず という単語からレストランを訪れる機会がそれなりにあると推察。
 シャンパーニュと発言されているのである程度の専門用語を会話の際に織り込んでも問題ないと判断される。

 ③「ブランドブランが飲みたいのだけれども何がある?」
 →レストランを日常的に訪れる様なお客様と判断。 ワインスクールなどにも通われる?
  自分なりのお好みがある?
【対応】
 質問をする際は具体名や専門用語を織り込むことでどこまで踏み込んで(レベル的な意味で)
 質問を行なって良いのか推し量る。どの程度会話に入っていくかは状況判断とする。

 ④「おう シャンペンあるか? キンキンに冷えたの!」
【対応】グラスまでキンキンに冷やしたフラッペのシャンパーニュを提供。

 

例2 )辛口の白

 頻度の高い答えであるが、ジャストミートの答えを出すのが意外に難しい返答。
というのも、 辛口が欲しい という答えには
 (スッキリとした)辛口が欲しい→ 酸味がしっかりとあるもの?ミネラル系?
 (フルーティーな)辛口が欲しい→香りがフルーティーなのか、味わいがフルーティーなのか?
 (樽の効いた)辛口が欲しい→ボディが重いのが欲しいのか?酸味が苦手なのか?
 (アロマティックな)辛口が欲しい→トロピカル系か?フローラル系か?
 と大雑把に分けてもこのように非常に多岐にわたるニーズが潜んでいる。
 お好みを把握している常連のお客様であるなら最初の質問とその答えで対応は可能であるが、初めてのお客様、又は未だ情報が不足しているお客様の場合は、どう言った辛口がお好みなのか範囲を絞り込む質問をするべきだと考えられる。
 すごく乱暴に言ってしまうと、辛口の白=甘口又は半甘口ではない白、要するに白ワインをくれとしか言われていないに等しいので、情報が致命的に足りないと言わざるを得ない。
 しかしてレスポンスは日常的に返ってくる性格のものであるから、我々の悩みのタネであるとともに、腕の見せ所でもある。

 さて、食前酒だけでは終わらないのが飲食店。その後の料理に合わせてグラスやボトルなどで状況に応じたオーダーが入ってくる。ペアリングの場合もある。対応していくこと自体は食前酒のオーダーの際のやりとりや反応を把握、分析すれば問題なく対応できるはずである。ポイントになってくるのが「タイミング」と「量」である。
 お客様の方から「前菜にはグラスの白で〜、魚のあたりから〜」などとご要望を頂ければ問題ないのであるが、そう言ったものがない場合は注意と確認が必要である。適切なリコメンドを行なっても、望まれたタイミングでなければ満足度は決して上がらず、寧ろ不満につながってしまう。
 具体例で説明すると、
 2名様でボトルのシャンパーニュをオーダー。料理は前菜2皿、魚、肉、デザートの構成。
 前菜1皿目が終わった段階でボトルに5分の2ほどシャンパーニュが残存。
 そのまま注ぎきるのか?それともデザートにとっておくのか? という点に関して質問という形ではなく、「デザートにシャンパーニュを合わせる形に致しましょうか?」という形としてはリコメンドで確認と今後の流れに関する話し合いを行う。
 常連の方の場合はペースや好みのデータがあるため必要が無い、というよりも繰り返しの確認となりスマートでは無い為、可能な限り避ける。
 →そのまま飲みきる場合は 魚に白を飲む感じなのか、肉にはボトルなのかグラスなのかを事細かに聞くのではなく、こちらから今後の流れを提案する形で要望をヒアリングしていく。
 →デザートにとっておく場合は ここからボトルで白?赤? ペアリングの様につなげていく? など提案を行っていく。もしかしたら変則的に前菜2にグラスのロゼ、魚に残っているシャンパーニュというパターンもあり得る。

 言葉の裏を読む、本当のニーズを探る、 などというものもあるが、我々の仕事に落とし込んでいくと「相手の発信した情報を正確に把握、分析する」ということだろう。食事と飲料の組み合わせに関してはセンスとロジック、経験で成り立つものであるので、一朝一夕でどうにかなるものではない。ただ顧客情報の収集と蓄積は誰にでも可能であり、顧客満足度を高めるために何が必要であるのかは把握出来る筈である。
 Aという質問をしたらBという答えが返って来ました、ではなくAという質問をしたら返答はBで有るが、Cの方がより好みに添えるのでは無いかと考えます。また、 BよりCが良い反応ならばこの後は〜という風にアメーバの様に展開していくことが可能となる。

 因みに私の得意技の一つに、初めて会った方にお好みを特に聞かずに口に合うワインを提供するというものがある。質問をしていないのになぜわかるのか? と言われるが言語だけが情報では無いし、質問をしなくても情報は発信されている。どのようにアンテナを広げているのかが問題なのである。 割と誰にでも出来るテクなのでHow toを知りたい方は私に直接聞いてください。

 

~プロフィール~

建部 洋平(たてべ ようへい) 
北海道出身で1983年生まれ。調理士の専門教育をへて、国内で各種料理に携わる。
ブルゴーニュで調理師の研修中、ワインに魅せられてソムリエに転身。
ボーヌのソムリエコース(BP)を2010年に修了、パリ6区の「Relais Louis XIII」にて
シェフ・ソムリエを勤める。現在フリー

 
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