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『ラシーヌ便り』no. 165 「熱波&アフター」

熱波&アフター
 7月にフランス、スペイン、ポルトガルを訪問しました。ヨーロッパ各地は、酷暑にみまわれ、各地で大変な被害が出ました。特に地中海沿岸、ラングドックからカタルーニア一帯は、7月23日にサハラ砂漠からの熱波が流れたため、大きな被害に見舞われました。被害のあったブドウ畑ではブドウの葉、房が茶色く干からびていました。葉の陰になっている房には被害がありませんでしたが、被害が少ない場所でも、畝の外側の面は、茶色く焼けました。
 ラウレアノ・セレスによれば、ボルドー液を散布した畑では、薬剤に熱波が反応して被害甚大になり、除葉をしていた畑ではブドウの房が直接熱波にあたり、茶色く焼けたということです。
 その後も酷暑は続き、フランス全土は40℃を超える暑さに見舞われました。パリではエアコンの備えのない建物が多く、レストランの厨房は、どれほど過酷な環境であったか、想像に難くありません。 
 立秋も過ぎ、朝晩少しはしのぎやすくなってきました。雹害に見舞われることなく、実の秋が待ち遠しい時期ですね。

 

イヴォン&ジュール・メトラ 訪問

 ボジョレにメトラ父子を訪ねてきました。ご存じのように2012年、シルーブルの北方、ヴォレーナール村に移り、ほら穴のようなセラーで醸造をするようになりました。ワインには直ちに柔らかなテクスチャーと奥行きがあらわれ、「ほら穴は、ワインの病院だ。フルーリーのセラーにある調子の悪い樽も、ここに持ってくれば良くなった」と話しています。

 いっぽう同地にある住まいは、1850年に建てられた部分と1900年代に建てられた部分からなる、かつての大きな農家は廃墟化していましたが、概ね修復が終わり、イヴォンはゆったりと今の生活を楽しんでいるよう。
 分厚い壁の建物の中は涼しく、泉が湧き出ている古い井戸は健在で、家中の水を供給しています。今回行くと、テイスティングルームができていました。広い建物なので、かつての家畜小屋は、ジュールの発酵醸造セラーにさま変わりし、古いかまどのあるキッチンはレストランができるほどです。
 6月末時点では、ブドウの成育はすこぶる良くて、4・5月は涼しく、6月に雨が少し降り、7月4週目から熱波が来て、猛暑となりました。2018年は久しぶりに十分な収穫が得られました。順調にいけば、ウルティムUltimがリリースされるかもしれません。

 ジュールは2014年にイヴォンと働くようになりました。2016年から造り始めたビジュとシルーブルの両キュヴェは、旧家畜小屋を改築した醸造設備のなかで発酵されたあと、同じく穴倉でもって熟成されています。現在28歳になったジュールは、ここヴォレーナール村に引っ越してきてシルーブルを造ることにしました。というのは、フルーリーから車で20分、7km 離れた所にあるこの家は、シルーブルからは車でわずか5分の距離にあります。ジュールはシルーブルで、放棄されていた樹齢55年と60年の急斜面の1haをすでに入手していました。

 訪問した日は、1週間前からの猛暑で、フルーリーの気温は34℃。標高550-600mにあるシルーブルの畑は28℃と、成育環境に大きな差があります。軽やかで酸の活き活きとしたシルーブルがお気に入りのジュールは、すぐにこの畑を購入することにしたのです。
 この村には他に有機栽培をしている造り手はおらず、急斜面は手押しのトライユで耕しますが、樹間の狭い畝はピヨッシュで手作業。朝5時から作業を始めて、10時過ぎには畑の気温が上がり、12時まで作業をします。昼寝をして、その後は冷たいセラーで、ラベル貼り。
 シルーブルは醸造期間が、ボジョレとフルーリーより半年以上長い。2017年から家の周りにある畑を2ha購入して、ビジュを作っています。
 「みんなガメを早く飲みすぎる。ボジョレとシルーブルは4~5年、フルーリーは6年以上熟成させて飲んで欲しい。ムーラン=ナ=ヴァンも5年まつと、とびっきり美味しくなるんだけどなー」と、ジュール。それにしても、イヴォンは、ジュールという優れた後継者が育ち上がりました。メトラ好きのファンは、みんな喜んでいるでしょうね。

 
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