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ファイン・ワインへの道vol.37

ロゼに合う! セネガル料理の“新天体”。

セネガル料理、食べられたことありますか? (できれば、パリで)。
 「新しい偉大な料理の発見は、新しい天体の発見以上に、人間を幸福にする」とは、ご存じブリア・サヴァランの箴言ですが、まさにパリ・アフリカ移民街のセネガル料理は、個人的に最近の“巨大な新天体”でして今回、ワインの話とは少し離れますが、ご紹介させていただきますね。
 その食堂がある場所はメトロ、シャトー・ルージュ駅から徒歩4分。シャトー・ルージュ駅はパリ主要駅、北駅(ガール・デュ・ノール)からたった2駅。小洒落た駅名は、なんだか美味しい赤ワインがいっぱいある街・・・・・・みたいな雰囲気ですが、ここがもう、バリバリのアフリカ系移民街(で、白人の姿もほとんどなし)。気弱な“るるぶ”女子ツーリストがこの駅で降りると、いきなりNYのブロンクスに迷い込んだー みたいな感じで半泣きになりそうな、真っ黒エリア、なのです。スーパー・マーケット、ブティック、理髪店等々もアフリカ一色。そんな中、お薦めしたいのが、ドゥオーヴィル通り(rue Doueauville)58番地の食堂「ベスト・アフリカ(Best Africa)」。なんとも人を食った店名ですが、そのショーケースにひしめくセネガル(一部ギニア、コートジボワール)の煮込み料理は、どれもが悶絶モノの美味しさなのです。

「ベスト・アフリカ」の佇まい。

 煮込み料理は約8種ほど、ショーケースの大型バットに入ってるので、見て選ぶのが楽しいですが・・・・・・、イチオシは、チュウ・ヤップ。チキンと野菜のセネガル風トマト・スパイス煮込み・ご飯がけです。スパイス感はあくまでひかえめで、トマトの酸味と甘みが、野菜の旨みと共にホロホロに煮込まれたチキンの芯までしみ込んで・・・・・・、シンプルな白ご飯と合わせていただくと、もう口の中と頭の中が、一気にパッと明るくなるほどの美味しさなのです。後味にほのかにくる、ピーナッツ・オイルの香りも、なんともエキゾチックであります。
 もう一品、見逃せないのがチュウ・アバ。アバ=ホルモン、つまり先述のチュウ(トマト煮込み)仔羊腎臓・胃ヴァージョンなのですが、これがまた、食堂のディープな下町感に反し(?)、見事な鮮度のホルモン。特に腎臓は劣化が早い素材なのですが、驚嘆するほど臭みゼロ。腎臓のクリーンでクリアな滋味と、トマトの甘みの交響が、またも悶絶もの。半端なビストロの腎臓(ロニョン)より、こっちが上では? とさえ思える域です。

ホルモン、チキン、牛ホウレン草のチュウ3種盛りご飯。トマトの甘みと酸が、ほっこり、癒し効果絶大。

 

 ちなみに先述したフランスの歴史的グルマン、ブリア・サヴァランは、冬になると自分のコートの内ポケットに撃たれたジビエを入れて歩き回り(体温で熟成を早めるため)、とにかく臭い人だったという武勇伝を持つ人ですが・・・・・、この食堂の羊ホルモン煮込みは本当に臭みゼロであります。その他にも、ショーケースには牛肉のホウレン草煮込み、魚のすり身団子のチュウ、などなどそそる煮込み料理が多数、いずれ全制覇してみたいものです。
 そしてこの店のワインですが・・・・・・3回ほど訪れたのですが、客席では常にワインどころかビールを飲んでる人も皆無。セネガルは人口の94%がイスラム教なのです。しかし。唯一店にあるロゼ・ワインは、不思議なほどセネガル流トマト煮込み料理と好相性。もちろんそのロゼは、セネガル産等々ではなく、またこのコーナーで語らせていただくことさえラシーヌさんへの不敬罪にあたるほどの、ジャンクなプロヴァンス産ネゴシアン・ワイン(スクリュー・キャップで250ccの小瓶入り。LCCのエコノミー・クラスで出てきそうなワイン)なのですが・・・・・・そんな凡庸なものさえ、小ましに感じさせるほどの突破力が、料理にあったのかも、です。
 それにしてもロゼとセネガル料理・・・・・、なかなかに心躍る新発見、でした。

 ちなみにこの食堂、店構えは本当に小さく何の飾り気もない下町食堂。パリ、というよりバンコクかカルカッタのバックパッカー食堂、という風情です。加えて1点、追記すべきは、激しい良心価格。
 白ご飯と煮込み1種類なら、たった6ユーロ。3種がけで10ユーロという下町価格なのです。こんなに美味しいものが、ですよ! 今、激しく諸物価高騰、街中がツーリスト・トラップと化したパリで、長期旅行者にはなんとも有難い存在、と言えないでしょうか。
 それにしても、こんな怪しい店を、どうやって見つけたか? ですか? それは取材(=聞き込み)です。
 シャトー・ルージュ駅周辺で、何軒かブティックや食材店をひやかして、地元のアフリカ系の人に「このあたりで美味しい西アフリカ料理の店、ないですか?」と聞いてまわった際、複数推薦で出てきたのが「ベスト・アフリカ」だったのです。取材のポイントは、“西アフリカ料理”に絞ること。巨大なアフリカ大陸は当然、ケニアなど東側と、セネガル~ガーナなどの西側とは料理も大きく異なり、筆者はやはり西(=旧フランス領)派、です。

この煮込み、等々から好きな料理をチョイス。

ベスト・アフリカ店内。繁盛店です。

 ともあれ、せっかくなのでこのチキン・チュウのレシピをご紹介します。簡単です。
材料(2人分):
鶏肉300g、玉ネギ1個、ピーマン2個、人参1/2、トマトピューレ1/2カップ、水500cc、塩、胡椒、唐辛子適宜、コンソメ、ピーナッツ・オイル。
作り方:
1:野菜をピーナッツ・オイルで中火で約10分炒めた後、塩、胡椒、唐辛子を加え鶏肉を炒める。
2:1にトマトピューレ、水、コンソメ適量を加え、約1時間煮込み、白ご飯にかけて完成。
 簡単、ですね。
 ぜひ、冷えたロゼ・ワインと共に、お試しください。セネガルのトマト煮込み料理。残暑厳しいこの時期、身体のリフレッシュ効果も、たっぷりですよ。

 

今月の、ワインが美味しくなる音楽:

弦でも風鈴? コラ(アフリカン・ハープ)の美・音色。

トゥマニ・ジャバテ『ザ・マンデ・ヴァリエーションズ』

 “アフリカの楽器の中で最も美しい音色” と言われる楽器といえば・・・・・コラ、ですね。アフリカン・ハープとも言われるこの楽器、コラ。300年以上前からある弦楽器で、ギターやハープの原型とも言われています。弦は21弦もあるのですが・・・・・、とにかくその高音の美しさたるや。パキッと晴れ渡った西アフリカの空と、湿度0%! の世界とさえ思わせてくれる、カラッと乾いて澄み切った音色は、不思議にも弦楽器なのに、心地よい風鈴の音を聞くような、チル・アウト感、多幸感さえ運んでくれます。
 今回お薦めする作は、セネガルの東の隣国、マリの大御所コラ奏者の代表作。ゆ~~ったりと大陸的穏やかさのある響きが、この季節の除湿効果も、クール・ダウン効果も格別です。

https://www.youtube.com/watch?v=9zfAYKyDhAA

 

今月の、ワインの言葉:
「人間の薬は人間である」
     -セネガルの諺-

 

寺下光彦
ワイン/フード・ジャーナリスト
「ヴィノテーク」、「BRUTUS」、「MEETS REGIONAL」等に長年ワイン関連記事を寄稿。イタリア、ヴィニタリーのワイン品評会・審査員の経歴も。音楽関連記事も「MUSIC MAGAZINE」に約20年、連載中。


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