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Sac a vinのひとり言 其の三十「クラシック クラシック クラシック…」

 私自身パリの古典的とも言える料理を提供するレストランに勤務していた経験から、「クラシック」と呼ばれるものに拘りがある方だろう。ある意味ではわたしの根幹とも言える。

 同世代の同業者と話すと、最近頻繁に話題になるのが「クラシック」である。概念的な話でもあるし、テクニカルな話であるし、実務の話でもある。共通しているのが「クラシック」の認識無くして発展的なことや新しいことは行えないという点である。
 守破離―吸収、理解、発展というプロセスは技術職においては欠かせないステップである。
 しかし、ここまで考えてある疑問に至った。
 「クラシックと呼ばれるものは変化しうるものなのか否か?そしてそれを正しく認識できているのだろうか?」
 実例で説明しながら検証していきたい。

 

【例1】 ブルゴーニュ
 舌平目のムニエル Sauce au vin blanc×ムルソー

 古典的な調理法で行くと、皮を剥いだものをそのままバターの中で泳ぐようにムニエルにして、お客様の前でdécoupageして盛り付けしソースをかけるという工程。プレゼンテーションの間に冷めていくので、しっかりと中心まで熱するbien cuitにする。パサつきを避ける為にしっかりと粉を打ち、ソースも油脂分を十分に含ませて保温効果を持たせる。もっと古典的にいうならsingé、小麦粉をソースに入れて火入れすることになる。
 現在の仕上げの場合、皿盛りでの提供の為、ソースは最初から適温での提供が可能となり油脂分は最小限で済む。火入れの際の粉も風味と食感を求めるものとなり過度には必要ない。
 また鮮度の良い素材が容易に入手できるようになったことも、あっさりとした簡素な仕上げが主流となる一助となっている。
 ワインに目を向けると、温暖化の影響が大きい。1988以前と比べるとDijonは平均気温が2から2、5度上昇、葡萄の収穫時期も1ヶ月ほど前倒しになりつつある。テロワールの反映を謳うのならば、酒質の変化は必然と言わざるを得ない。付け加えて醸造に関する技術の進歩やスタイルの変化が見られる。20世紀後半からの自然に配慮した醸造が意識されたことにより過度な介入が避けられる傾向にあり、また圧搾機械の変化チェーン式や垂直圧搾から空圧式プレスが主流を占める。
 低SO2、バトナージュの回数の削減、ノンフィルターの醸造元の増加、添加される砂糖の種類や酵母の見直しや無添加、新樽比率偏重からの脱却etc… 変化の要因は幾らでも列挙することが可能である。

それを踏まえた上で大まかに分別すると、
 (1)寒冷期の酸味を基調にして新樽の比率の低いもの
 (2)バトナージュや新樽由来のリッチなニュアンスのもの
 (3)温暖化の影響で果実味が前面に出ているが、介入が減りリッチさは抑えられたもの
 となる。

 古典的な調理スタイルだと、可成り濃厚な料理であるため、酸味のサポートで濃厚さを抑制するためのワインということで正しい選択と言える。樽のニュアンスとバターの香りをシンクロさせることで親和性も上がっている。ただモダンな仕上げだと、⑶の様な果実味が前面に出ているスタイルのワインが料理にフィットしているかと言われると、若干の疑問が残る。単純に共通項と欠けている必要な要素がシンクロしないのだ。果実味が強くても樽が効いていればある程度修正は可能なのだが…

 

【例2】 ドイツ
 ホワイトアスパラの温製×リースリング

 クラシックでは、ホワイトアスパラの皮を剥き、10本〜15本を紐で縛ってまとめて完全に火が通っているbien cuitな状態にして提供されていた。 またそれに合わせるリースリングも軽度の残糖分がありアルコール度数も10度近辺の物が用いられるケースが多かった。
 現在に目を向けると、鮮度の良い素材が手に入るようになり、過剰な火入れが嫌われるようになる。
 1本ずつ調理され食感やえぐみ、苦味を残した、言うなればà pointの仕上げが多く見受けられる。
 ワイン自身も温暖化の影響から熟しやすくなり、残糖分を残さない辛口でアルコール分が12.5%から13.5%くらいの“中アルコール“に仕立てられたリースリングの割合が上がっている。
 以上のことを踏まえてホワイトアスパラ×リースリング について考えると

 現代においては単純に考えて
 (1)Bien cuitのアスパラ×残糖有り、低アルコールのリースリン
 (2)Bien cuitのアスパラ×残糖無し、中アルコールのリースリング
 (3)À pointのアスパラ×残糖有り、低アルコールのリースリング
 (4)À pointのアスパラ×残糖無し、中アルコールのリースリング
 このようなパターンが考えられる。

 こうなってくると構成要素が全くと言っていいほど異なってくるため、クラシックだからといって安易に提供するのも考えものである。
 (1)は瑞々しさと甘さのシンクロを求めているのに、⑵の様な提供をするとアスパラの風味を制圧するようなパワーバランスの崩れてしまうものになりかねないし、⑷のほろ苦さと収斂性に対してアルコールのボディと酸味で均衡を保つ提案なので、⑶だと水っぽいニュアンスが出かねない。
 付け加えて、⑴を求めているお客様に⑷を提供した場合、(そのお客様にとって)目新しい提案ということで満足していただけるかもしれないが、安心感や確認といった期待に対する充足感が得られるとは考えられない。殊に“クラシックな組み合わせ“を好まれるお客様にはそういった充足感を求められる方が多いので、それらが履行されないと、トータルで満足頂けなくなる可能性が高いと考えるのは自然な流れだろう。

 

【例3】 再びブルゴーニュ
 ブッフ・ブルギニョン×ブルゴーニュ ピノ・ノワール

 フランスで働いていた当時、poulet rôtiと並んで頻繁に賄いに出現していたフランス料理の定番中の定番と言えるであろう一皿。個人的には昔ながらのブルゴーニュのワインを使ったレシピだと余りピンと来るような一皿にあったことがなく、これはと思うようなものは、ポートやアルマニャックを加えるなどのアレンジが加わったレシピであった。率直にいってシャバくてコクが足りないと感じていた。何故これが人気のある郷土料理になったのだろう? という疑問をGevrey村のとある生産者に一度聞いてみたことがある。御大曰く、「そりゃ今みたいに贅沢に綺麗に掃除された肉とワインなんか使うから美味しく出来ないんだ。昔みたいに余って筋張った肉を瓶詰めの為に空にしたタンクに残ってるワインの澱、Marc(本来の意味での)でごった煮にしたのが美味かったんだよ。ワインにしろ肉にしろ、最近のは綺麗すぎて〜(この後30分ほど語られたので割愛)」
 その話を聞いて気になったので、実際に澱引き後の澱を味見させて貰ったところ、飲むのには少々きついがコクやかおりといういみでは瓶詰めされたワインよりも濃厚に感じられた。具体的に言うとGigondasやVacqueyras並みの濃さは感じられた。それを踏まえると現在の料理人がこの料理に南仏のワインやスペインのワインを代替品突として使用するのは強ち間違っていないとも言える。
 ワインに視点を移そう。繰り返しの記載となるが、温暖化の影響とスタイルの変化はワインの味わいに大きな影響を与えている。

 大まかにまとめると
 (1)80年代後半に至るまでの寒冷な気候由来の酸をベースとした味わい。※以下⑴
 (2)2000年代初頭迄の低温浸透による果実味を前面に押し出した味わい、気候も温暖になりつつあることから酸味も⑴から比べると穏やか ※以下⑵
 (3)2010年以降温暖化の影響で肉付きが明らかに良くなり、暑い年だと過熟なニュアンスが感じられることもある。酸味も当然減少。※以下⑶
 かなり大雑把な括りなので、ご指摘は多々あると思われるがお目溢し頂きたい。

 元来のブッフ・ブルギニョンとブルゴーニュのピノ・ノワールの組み合わせは、「筋張った肉を澱でマリネしてそれを漉した液体で長時間煮込んだもの※以下①」である。「綺麗に掃除された脛に肉と上質なピノ・ノワールで煮込んだもの※以下②」ではない。
 どちらが美味しいかの是非はここでは議論の対象としないが、本質的に違う料理であると判断するのは決して乱暴ではないと私は考える。
 組み合わせに目を戻すと、①と⑴の組み合わせが本来のクラシックな組み合わせと認識すべきものであり、ドロっとした煮込みに酸味がベースのワインで量を食べさせる組み合わせである。咀嚼の補助的な役割が肝といえる。それを踏まえると、⑶ではボリューム感が過剰となり量の消費のサポートには向かない組み合わせとなる。逆手にとってポーションの少ない料理との一口での満足感を狙うというやり方もあるので、これには使い用もある。しかし、②と⑴の組み合わせとなると酸と酸の組み合わせとなり、あまりポジティブな効果は見込めなくなる。勿論2つの酸をシンクロさせるポイントはあるにはあるのだが、そのストライクゾーンは可成り狭いし、それをクラシックというのは違和感が残る。

 ここまで書いてみて改めて感じたのが、料理もワインも時代のニーズに合わせて様々な要因でお互いにリンクしながら粛々と変質しこれからも継続して変化していく。そして、それらの中で秀逸なものは「クラシック」となり受け継がれていく。ある意味ではこの変質と淘汰こそが「クラシック」の本質とも言えるので無いだろうか?
 私ももう若手と呼ばれる世代では無い。そして幸運にも「クラシック」の移り変わりを眺めることができる場所にいた。これからもその移り変わりに関して折を見て発信していくのが私の役目なのでは無いか? などとぼんやりと考えてみたりしながら今回は筆を置かせていただこう。

 

~プロフィール~

建部 洋平(たてべ ようへい) 
北海道出身で1983年生まれ。調理士の専門教育をへて、国内で各種料理に携わる。
ブルゴーニュで調理師の研修中、ワインに魅せられてソムリエに転身。
ボーヌのソムリエコース(BP)を2010年に修了、パリ6区の「Relais Louis XIII」にて
シェフ・ソムリエを勤める。現在フリー


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