*

『ラシーヌ便り』no. 162 「ジョージアのクヴェヴリワイン紹介に取り組んでの6年」

 2013年4月にジョージアからの第一便がなんとか到着してから、早や6年になります。

 この6年を振り返りますと、まず2013年11月に世界文化遺産に登録されました。それを機に、ジョージア政府が国をあげて積極的なプロモーションに転じたのと、世界的なオレンジワインのブームが急上昇したことが相まって、ジョージアのクヴェヴリワインはいきなり世界中から熱い視線を集められるようになりました。
 しかし、ラシーヌが輸入するジョージアのクヴェヴリワインたちは、私たちにとってみれば、他国のワインと比べて最も手がかかるだけでなく、販売の苦戦が続いている、というのが偽らざる現状です。

 問題の一つは、不良品が多いことです。中には時間を経てポジティヴに味わいが変化するワインもありますが、根本的に醸造過程での欠陥があり、時間を待っても味わいの改善が見込めないものが多かったため、品質の見極めが絶えず問われました。結果、処分せざるをえないワインが発生しました。
 二つ目の問題は、ラシーヌでは、ワインの品質のバラツキと不安定とが手伝って、確信を持った積極的・恒常的なプロモーションが足りなかったこと。そのため、十分なマーケットを形づくることができていません。

 2017年4月、『母なる大地が育てる世界最古のワイン伝統製法/ジョージアのクヴェヴリワインと食文化』が誠文堂新光社から出版されましたが、ラシーヌも社をあげて制作編集のお手伝いをさせていただきました。この書物は、ジョージアとそのワインに興味のある人々に愛読いただき、「ジョージアを訪れる人が皆、この本を手にしている」と、造り手たちから聞きました。
 イタリアのスローフード運動に関わりつづけてきた実践家・島村菜津さんがジョージアの食文化に深く探りを入れ、ドイツ中世社会史の研究者、北嶋裕(2018年よりラシーヌに勤務し、仕入れ実務担当)が、ワイン造りの実情をリサーチしたうえでその魅力を存分に語っている、と私たちは自負しています。
 そのあとがきで、私が寄せた長めの一文を引かせていただきます―

 「クヴェヴリワインは、文字どおり大地とともに生きてきたワインですが、ビジネスの対象ではありませんでした。ジョージアの伝統、スープラ(宴会)と乾杯のためのワインならば問題ないことが、輸出マーケットに流通するには、問題がおきることが、インポーターの辛いところです。 
 ジョージアのワインは、友人・家族とともにわかちあうワインであり 世界の輸出マーケットに流通するには、強い個性を備え、ナチュラルでありながら、かつ欠陥がないことが求められます。マーケットで要求される最低条件を、どのようにして本来の持ち味を損ねることなく、仕上げていくか、造り手との意見交換はつきることがありません。クヴェヴリの衛生管理が悪いと、黴の臭いが出てしまいます。一方クヴェヴリ洗浄に亜硫酸の使い方を間違えると、柔らかなテクスチュアを失い、求める味わいと異なってしまいます。・・・・・・・・ ジョージアにも、次第に近代醸造の機器がマラニ(醸造所)に入り始めています。仕方のないことですが、歴史の中で、工夫して造られてきた数々の醸造の道具、…美しい智慧のつまった道具に取り代って、ステンレスタンクや、除梗器が見られるようになってきています。醸造過程で金属に触れたワインは、クリーンですが、全く異なった口当たりとなります。そのような道具で造られたワインは、世界中どこにでもあるもので、価格競争にまきこまれ、長くロシアに売られてきたような、安価なワインとしてしか通用しないことになるでしょう。そうなれば、コストを下げるために、伝統的な栽培方法は続けられなくなり、私が感動した美しいアルベレッロ(棒仕立て)の畑は、姿を消していくかもしれません。」

 まさにこの数年、輸入を通して、この現実に直面してきました。 慎重に、長い目でジョージアならではの味わいを選んでいかなくては、輸入の仕事を続けていけないと思っています。 特に、空前のクヴェヴリワインブームのあおりで、新たに多くのワイナリーが登場してきている状況の中で、クヴェヴリ協会発足メンバーの役割は、ますます重要です。

 残念ながらOur Wineのソリコさんは亡くなられましたが、わけてもともに運動を支えてきたラマズとイアゴは、初期の志を変えることなく、強い信念を持ち続けています。ラマズから聞いた、クヴェヴリ協会の発足当時の苦労話は、今も忘れることはできません。 
 以下、ラマズ談です―

 「ソリコと活動を始めた頃、みんなに、『クヴェヴリ醸造を遺す活動だって? 近代醸造の時代に何を言ってるんだ? そんなワイン造ったって、誰も振り向いてくれないよ』と言われ続けた。でも、世界文化遺産に認められ、イタリア、フランス、スペイン、ドイツの優れた造り手がクヴェヴリ醸造を始めた。ファッションでなく、その魅力を知った人たちの輪が広がってきている。そうなった今、20,000トンもの生産量のワインをクヴェヴリワインとして売り出そうとする動きがある。そんなこと、できるわけないだろう? だから、私たちは、より真剣に真のクヴェヴリ醸造の仲間とともに、この伝統を守っていかないといけない。マーケットに私たちの独自性を、発信して行くんだ」

 手探りで始めたジョージアのクヴェヴリワインですが、これまでもワインをクヴェヴリごとに選ぶなど、品質追及には並々ならぬ努力を傾けてきました。が、その普及という理念に立ちかえり、仕入れと販売の方法を再考したうえで、今年ラシーヌはあらたな意気込みで次のように取り組みます。

*輸送費などコストの大幅削減をふまえて、お求めやすい価格に改定いたしましたので、あらためて積極的にお試しいただきたく存じます。
*ワインの味わいと品質を再吟味し、ご紹介する生産者を見直し、扱い生産者を絞りました。Iago Bitarishvili, Nikoloz Antadze, Zurab Topuridze (カヘティのみ)、Ramaz Nikoladze は継続。Gogita Makaridzeは、若い造り手で発展途上であるため、見極めが難しいですが、畑が素晴らしいので今後に期待したく、継続します。

 クヴェヴリワイン本来の持ち味を損ねることなく、オリジナルな魅力を備えた上質なワインを選び抜く、という基本精神を守りながら、これからもご案内してまいりますので、今後ともご注目ください。

イアゴ・ビタリシュヴィリ

ニコロズ・アンタゼ

ズラブ・トプリゼ

ラマズ・ニコラゼ

ゴギタ・マカリゼ

 

 

 
PAGE TOP ↑