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ファイン・ワインへの道vol.33

歴史を彩ったフランス・セレブ、ゆかりのワインたち。

 今回は、今までで一番軽い話題かも、です(春だから、というわけじゃないですが)。
 ワインを飲む時(売る時も?)例えば、この畑の土壌はジュラ紀のバッジョシアン階じゃなくてバトニアン階の石灰岩なんですよ~、等々の話と、「ココ・シャネルの生まれ故郷でできたワインなんです。飲むと、気の強い女性になるんですかね~」、なんて話。どちらに、より興味を持つ人が多いでしょうかね? おそらく後者、と思われた方は、是非この続きをご高覧ください。
 今回は、フランスがその長い歴史の中で輩出した偉人たちにゆかりのあるワインについて、ご紹介します。調べてみると数もかなり多く、少し効率重視で、それぞれ箇条書き風でとても恐縮です。

●エミール・ガレ/アール・ヌーボーガラス工芸家
 →コート・ドゥ・トゥール
 ロレーヌ地方で1998年にAOCに昇格した地域。トゥールの24km東、旧ロレーヌ公国の首都ナンシーはエミール・ガレの生誕地であり、ナンシー派と呼ばれるアール・ヌーヴォーの作家たちが活躍した町。ちなみにこちらのトゥール“Toul”は、ロワール・ワインの中心都市の一つであるトゥール“Tours”とは別の町。両市の名を、きっちり区別して発音できれば・・・・・・、貴方は堂々フランス・ワイン黒帯です。
 ともあれ、曲線美重視のアーティスト、およびアート・ラヴァーに「ガレの故郷のワインだよ~」とプレゼントすると、喜ばれそうですね。きっと。

アルザスの西隣、ロレーヌ地方のAOCコート・ドゥ・トゥールのワインは、この地方で生まれたエミール・ガレのグラスで飲むと、さらに美味しくなるか・・・・・、実験してみたいものですね。

●モンテスキュー/哲学者:三権分立の提唱者
 →グラーヴ
 民主主義の最重要理念の一つ“三権分立”を提唱し、後のフランス革命の布石を築いた偉大な哲学者、シャルル=ルイ・ド・モンテスキューはボルドー、グラーヴ地区の生まれ。モンテスキュー家は代々、グラーヴにシャトー・オリヴィエ、シャトー・ラトゥール・マルティヤックなど複数の優良区画を所有する名家で、彼自身もワイン造りと販売に才覚を発揮した実業家でもあったと伝えられています。彼が生まれたラ・ブレド城は、現在も観光名所として開放され、訪問も可能です。
 また、モンテスキューはその著書「ペルシア人の手紙」で、非キリスト教国の出生率の高さを、離婚を許容している為とし、「夫婦相互の愛情に何よりも寄与するのは離婚の可能性である」と論述するという、深遠な(?)見解の持ち主でもあったようです。
 ゆえ、グラーヴ・ワインは三権分立を蹂躙しそうな勢い、かつ離婚の可能性など考えもしない政界関係者などに、“いけず”的に贈ってみるのも気が利いているようにも思えますが・・・・・・そんな輩にグラーヴ・ワインは勿体ないというご意見もまた、ごもっともですね。

●モンテーニュ/「エセー(随想録)」著者。
 →ピュイスガン・サン・テミリオン
 フランスの人文主義文学の基礎を築いたと評される16世紀ルネサンス期の大哲学者にして文学者は・・・・・ボルドー・ワインビジネスで財をなした裕福な家庭の生まれ。モンテーニュの父はボルドー市長も務めました。その生誕地は、現在サン・テミリオン衛生地区と言われるピュイスガン・サン・テミリオン郊外、モンテーニュ城で、彼は晩年も、この場所で「エセー」の加筆と改訂にふけったようです。
 ちなみに「エセー」の第一意は随筆、ではなく“試み、実験”という意味です。

●ココ・シャネル/シャネル創業者
 →ソーミュール・シャンピニィ
 ロワール、ディヴ、トゥーエの三つの河川が流れるソーミュール市は、12世紀以来ロワール・ワイン取引の拠点として栄えた街。ワイン商(やや強欲)を主人公にしたバルザックの小説の舞台もこの街ですが・・・・・・、よりインパクトが強いと思われるのは、本名ガブリエル・ボヌール・シャネル、通称ココ・シャネルの生誕地という由縁でしょう。
 おそらく、何人ものマスター・オブ・ワインが「この地のワインは過小評価されています! 注目です!」と叫ぶよりも「シャネルさんの生まれ故郷のワインなんですよ」と軽く一言添えたり、ワインショップのポップに書くだけで・・・・・、ワインを手に取ったり、買ったりする人が増える気がしますが・・・・・どうでしょうか?
 ちなみにソーミュール・シャンピニーAOCは、ソーミュールAOCよりも、よりソーミュール市に近接する8村のみに認められたアペラシオン。ゆえ、フランス・ファッション史上に輝く“気丈な女”の生家により肉薄したい方には、このAOCがお薦めです。

●マルキ・ド・サド/サディズム小説家
 →コート・デュ・リュベロン
 SMの、Sのほう。サディズムを公にした小説家、マルキ・ド・サドが潜んでいた城(何をしていたかは不明)の廃墟が、今もこのローヌ南東端のAOC、コート・デュ・リベロン内、ラコスト村に残っています。
 同じAOCでも周囲の村々は、ピカソが滞在したメネルブなど、かのピーター・メイル「南仏プロヴァンスの12か月」の舞台になった健全な(?)地域なのですが・・・・・、ラコスト村だけがサディズムゆかりの地、という対比(明暗のアッサンブラージュ?)が、また味わい深いですね。
 ちなみにマルキ・ド・サドのマルキとは、侯爵という意味。ブルゴーニュのマルキ・ダンジェルヴィーユ、マルキ・ド・ラギッシュのマルキ、イタリア語ならマルケージ・ディ・グレシー(バルバレスコ)、マルケージ・ディ・バローロなどのマルケージと同じ意味です。
 ともあれ、意外に多くないですか周囲に。SMラヴァーの方々。ギフトに、喜ばれると思いますよ。リュベロンのワイン。

 

 と、書き連ねていくと、やはり書き切れず。今月はひとまずこのあたりで。続きはまた機会を改められればと思います。え、サド侯爵のワインを誰にプレゼントすべきか教えてほしい? それは皆さんで、想像を巡らせてみてくださいね。ぜひ。

 

今月のワインが美味しくなる音楽:

春の曙、薄暮感を映す、薄紫なメロウ・チルアウト。

ムーンチャイルド『ボイジャー』

 温かくなってくると、空の色も変わりますね。特に日没前後、空の色が微妙にオレンジ~薄紫~淡い紺色の、ふわ~ッと柔らかい色になる雰囲気を、そのまま音で映したようなチルアウト・メロウ・サウンドです。南カリフォルニア大学で出合った3人が2017年にリリースしたこの3rd.アルバム。ジャジー・メロウ・エレクトロニカ・ソウルとも言うべきゆったり、少ない音数と浮遊感あるアレンジ、春霞のような女性vo.は・・・・・、ちょっと冷やしたギリシャの自然派白ワインや、イビサ島を思い浮かべながら飲むスペインのロゼあたりが、進みすぎるほど進む音。春の幸せ感も、倍増すると思いますよ。

https://www.youtube.com/watch?v=rAbZdOvisb8

 

今月のワインの言葉:
「自説に固執し、夢中になることは愚鈍さの最も確かな証拠である」
:モンテーニュ

 

寺下光彦
ワイン/フード・ジャーナリスト
「ヴィノテーク」、「BRUTUS」、「MEETS REGIONAL」等に長年ワイン関連記事を寄稿。イタリア、ヴィニタリーのワイン品評会・審査員の経歴も。音楽関連記事も「MUSIC MAGAZINE」に約20年、連載中。


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