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Sac a vinのひとり言 其の二十五「Le Choix-②」

公開日: : 最終更新日:2019/03/01 建部 洋平の連載コラム, ライブラリー, 新・連載エッセイ

前回に引き続き、鰆というテーマで語っていきたいと思う。
 この原稿が配信される頃には旬も移り変わり、提供される魚の種類も違うものに代替されていくだろうが、例え違う魚になったとしても、その素材が持つ特徴が大きく異なったとしても、何らかの共通点からよろしく比較検討して、マリアージュのロジックを構築するための取っ掛かりとなるので、
 テーマはあえて変えずにいく。

 

 秋口から冬の終わりに掛けて脂も乗り、提供される機会の増える魚。
 身。水分を多く含み、独特の風味を持つため、何らかの手段で水分と匂いを抜き出す作業が選択される傾向にある。今回はそれらの中でも和食で頻繁に鰆に対して施される、西京焼きと焼き霜造り、今まで余り取り扱っていなかった、フレンチでポワレで提供される場合を説明していくことで、加熱される鰆に関して考察していきたい。

 

焼き霜造り

 皮目を炭火や藁で炙ることにより、食感と香ばしさを引き出す技法。加熱することが目的ではなく皮目にメイラード反応を起こすことと、加熱材料の風味をつけることが主な目的であり、素材には火は通らない。今回は《炭火で加熱、氷水に付けずに冷ます。わさび醤油で提供する》というパターンで考察してみたい。

 

《ナイアガラのピノ・ノワール》

今回の焼き霜造りに合わせる時に考慮すべきポイントが
・炭火で炙ったことによる香ばしさと、水分とが抜けたことにより癖の無くなった身。
・皮目はパリッとしているが、身の表面はややパサつきがあり、中心はしっとりとしている。
・水分と共に脂も多少抜け、そこにわさび醤油というあっさりとした組み合わせ。
要約すると、
《香ばしいが、ややボディの軽い刺身》
こちらに合わせるワインが必要になってくる。

 ここからワインの選択に関しての解説となるが、まず大前提として、醤油ことに薄口や濃口、たまりなどの醤油を用意した場合において、基本的に白ワインは合わせることが難しくなる。
 というよりも「魚に白」という考え方自体に私は懐疑的で、どちらかというと「ラテン系発祥の海鮮料理に白ワインに合うものが多い」くらいなものであり、地方によって魚種も調理法も変わる今の時代においてかなりナンセンスな考え方であると言いたい。
どんな魚でも必ずレモン絞って塩胡椒だけで食べます! というくらいナンセンスだ。
別に個人でやる分には趣味嗜好なので否定はしませんが。
話を本筋に戻そう。先ほどの条件にあったワインを探す際にステータスを照らし合わせて考えると、
・香ばしさ:樽のニュアンスでシンクロを図る。但し軽く香る程度で
・醤油:必要となるのは濃くない果実味と冷笑な酸味。抽出や浸透も強いとワインが前面に出てきてしまうので注意
・軽い身質:MFLはきっちりと終わっているが、余りラクティックが顕れていないもの
といった条件を満たしたワインが必要となってくる。
この条件であるとトレンティーノのスキアレッロやバーデンのシュペートブルグンダーなども候補に上がってくるが、和食で提供されるということを考慮に入れると、余り馴染みのないものは顧客満足度の観点から通常のペアリングには組み込みづらい。
そのようなことを言っておきながら、何故ナイアガラのピノ・ノワールを選んだのか、という疑問が当然のように湧くと思う。確かに産地としては余り馴染みはないがその味わいに関してはそうではない。近年のワイン産地に関する談義で必ずと言ってもいいほどテーマに上がる地球温暖化問題。カリフォルニアの高アルコール問題や世界各地の早摘み問題。
ネガティブな側面が取り上げられるが、負の側面だけではなく、今まで注目されていなかった産地に関して言えば良い影響が出ている地域もある。
特にカナダのナイアガラは以前はきっちりと熟した果実の収穫に苦心し、辛口ワインの醸造に関しては困難な土地ではあったのだが、平均気温の上昇により、十分な熱量の確保に至り、かつ昨今の銘醸地ほど早熟ではなく、寧ろそれらの産地の過去の収穫時期と同時期となり、ある意味では「懐かしい」味わいに仕上がっている。
和食の店でワインをオーダーされる顧客という時点で、ある程度のワインを嗜まれる方だと推測が成り立つので、その方には収穫時期のシンクロから来る味わいの同一性で満足度の向上を図り、ワインに馴染みのない方もある程度興味心を抱いてワインに挑まれるであろうから、そこにカナダという普段飲むことの無い産地をフォーカスすることにより、楽しんでいただく。 このような考えから今回のチョイスとなった。

 

鰆の西京焼き

 魚を味噌ベースの漬地に鰆を漬け込む。塩分と糖分の作用により脱水が行われ、又味噌の風味と酒のマスキング効果により、臭みはほぼなくなると思って良い。元々は保存食費品ではあるが、もはや和食の冬の定番と言っても良いだろう。
 今回は西京味噌ベースで考えたい。

 

《アルザスのやや残糖分があるPinotGris》
・味噌の塩分と糖分により水分が抜ける。
・炙られることにより味噌の焼けた香りと鰆自身のメイラード反応。
・食感としては表面はパッツン、内部はほろほろしっとり。
というパラメータを考えると必要になってくるのが
・ジューシーで甘みを感じる、余り酸味の強く無い白。可能であれば灰色葡萄品種であると考えられる。
和食の特色、というものを考えた際に一つあげられるのが、食中の糖分の存在であろう。明確に「甘さ」を食事中に感じさせる料理は意外に少ない。
 今回の西京焼きをを鑑みると、いわゆる甘じょっぱい料理であり、その特徴を引き立てることを目的とする。酸味には甘さを抑制する作用があるので控えめなものにし、味噌の発酵のニュアンスを白品種ではなく灰色品種のアロマで中和することにより、バランスをとる。そして、甘さを付加することにより、甘さのボリュームと口の中での広がりをブーストする。ジューシーなものを選んだのは、身から抜けた水分を補う考え方である。アルザスを選択した理由はある程度のアルコール感と強すぎない酸味からである。同種のパラメータを持つものであるなら他でも構わないが、入手の容易さと取り扱いの容易さからこちらを推したい。

 

ポワレ

 近年日本の食材、ひいては地方の食材を積極的に使用するレストランが増え、鰆などの日本特有の素材なども日常的にメニューに組み込まれている。まだまだ定番の調理法が確立されるには至っていないが、その傾向を観察しておくことは肝要だと考えられる。
 今回は、皮目からポワレ、ソースはブールブランというオーソドックスなもので行きたい。

 

《新樽の効いたムルソー(バトナージュあり)、09や12などの温暖な年》

・皮面が油脂分で香ばしく仕上がり、中心はロゼ
・若干の甘みと乳脂肪分のリッチな風味
・皮はパリパリ、暖かいがしっとりとした身
 となり、必要となるのが
・ボリューム感があり、香りもミネラルなものよりボリューム感があるもの
 となる。
 非常にオーソドックスな提案ではあるが、先ほども述べた通り、いまだクラシックが確立されていない素材でもあるので、他の素材でも使用されるロジックを用いることにより、鰆と従来の素材との比較が可能になり、より理解しやすく素材自身のポテンシャルを伝えることが可能になる。特に、新樽の効いたムルソーなど定番中の定番であり、提供される側からすればまったくもって頭を使わなくていい(ポジティブな意味で)ワインであり、料理に集中して楽しむことのできるワインである。この提案に関してはワインの側のロジックというよりも料理の側のロジックを考慮に入れたものであり、純粋な相性だけでいうのであればコルシカのヴェルメンティーノやペネデスのチャレッロなどを用いた方がよりクリアーな魚の旨味を味わっていただけるが、今回は目的がまったく違うのでこれらは除外される。
ワインと料理の相性だけで考えるのならば、正直なところ提案というのは余り難しくは無い。ただ飲食店という、お客様が「楽しみ」に来ている場所では良い組み合わせというだけでは不十分である。そのシチュエーションに何かが求められていて、何が必要なのかを把握し、それをさらりと顧客に提供することこそがプロフェッショナリズムでは無いかと私は考える。

 

 

~プロフィール~

建部 洋平(たてべ ようへい) 
北海道出身で1983年生まれ。調理士の専門教育をへて、国内で各種料理に携わる。
ブルゴーニュで調理師の研修中、ワインに魅せられてソムリエに転身。
ボーヌのソムリエコース(BP)を2010年に修了、パリ6区の「Relais Louis XIII」にて
シェフ・ソムリエを勤める。現在フリー


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