『ラシーヌ便り』no. 158 「エルヴェ・ジェスタン、エマニュエル・ブロシェ」
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定番エッセイ, 合田 泰子のラシーヌ便り, ライブラリー
1月23日からイタリアとフランスに来ています。ヨーロッパも寒く、ところどころに雪の跡が残っています。
ラシーヌでは、昨年から新に4名が加わり、新しい体制で再出発しています。
改めてご紹介申し上げます。
合田泰子、塚原正章
【経理・総務】 太田亜紀
【営業部】 安西 涼子 、尾﨑 那美子、浅井 亮 、齊藤 誠也、岩井 麻里子、原口 尭光
【輸入部】高橋 雄輝 、北嶋 裕 、風間 彩
【仕入れ開発部】 合田・塚原、合田 玲英
【業務管理部】 久保田 真里江、徳茂 紅、竹原 宙希、杉本 紗希 、 深川 瑞香
最近入社した「新人」たちは、いずれも潜在的な力量と個性が評価期待されて仲間入りしました。ラシーヌでの経験こそ深くないため、当初はご不便やご迷惑をおかけするかもしれませんが、ワインにかける情熱と、この仕事に並々ならぬ熱意を持っている点では、「旧人」に勝るとも劣らないはずです。その意気込みゆえ、すぐにラシーヌの強力なメンバーとなってくれると信じています。どうぞ、暖かな目で見守っていただきますよう、勝手ながらお願いいたします。
さて、私からの近況と中近況のご報告です。
1) 2018年10月 Herve Jestin エルヴェ・ジェスタン訪問
エルヴェ・ジェスタンは2011年に、ボルドーでネゴシアン業を営む弟さんと一緒に、キュミエール村にある Clos de Cumieres クロ・ド・キュミエールという畑を購入しました。エルヴェの29歳になる息子の将来の為と念じながら、ジェスタン家の事業として多額の投資をして購入しました。シャンパーニュにはクロは31あるとされていますが、エルヴェによれば 以下の5つが認められているということです。
Le Clos du Moulin (2,2 ha), à Chigny-les-Roses
Le Clos des Goisses (5,5 ha), à Mareuil-sur-Ay,
Le Clos du Mesnil (1,84 ha) au village du Mesnil-sur-Oger (歴史は1698年に遡る)
Le Clos Saint-Hilaire (1,04 ha) à Mareuil-sur-Ay とClos de Cumiere
Clos de Cumiere は、1768年に創設されました。建物の壁に1768 と記されているのが読み取れます。垂直式のプレスには1899 と記されています。今でこそ建物は廃墟めいた姿をしていますが、この建物がどのように修復され、順調に再建されていくのかが楽しみです。新しいレギュレーションを受けて、今後歴史の浅いクロは「クロ」を名乗れなくなり、上記の5つだけがクロとして残る、とはエルヴェの意見です。
Clos de Cumiere の畑は、 2011年末に購入した後は、クリスチャン・ラバルによって、馬で耕作されています。初ヴィンテッジは2012年で、2012年から2018年までが、ルクレール・ブリアンの地下セラー深くに、キュヴェ・ジェスタンと共に眠っています。注目の2012年は、2019年秋リリースの予定です。
2016年の二次醗酵前のワインを、テイスティングしました。いつもながら静謐でエネルギーがこもっており、身体が暖かくなります。このワインがシャンパーニュになってリリースされるのは2025年の予定。
ジェスタンが、1997年にデュヴァル・ルロワで始めた、《ヴィオディナミで栽培されたブドウによるシャンパーニュ醸造方式》は、マルゲとのプロジェクトを経て、遂に自らの所有畑での作品作りとなりました。
「クロ・ド・キュミエールには、私のいままでの経験と思考の全てが注がれている。十数年前の私と今の私は、全く違っていて、はるかに進化しているのです」と、明快に言い切るジェスタン。9月のリリースが楽しみです。
2) 2019年1月26日 Emmanuel Brochet エマニュエル・ブロシェ訪問 (Villes aux-Nœuds村)
ランスの街から南へ10km、ヴィレ=オ=ヌード村にあるエマニュエル・ブロシェは、ラシーヌとは2006年からのおつきあいです。最初の収穫は1998年ですが、ブドウのまま売っていたため、最初のビン詰めは2002年からです。
1haから出発し、最初のビン詰めは1000本。現在は2haで、12000本ほどをつくっています。エマニュエルのシャンパーニュは一言で言って、端正で気品に満ちています。細身ながら、エキスが詰まっていて、決して神経質でなく、純粋さを楽しむことができます。あまりに入荷本数が少ないので、リストにも載せてご案内できず、一部のシャンパーニュ好きの方たちへお届けしてきました。昨年母上が亡くなられましたが、母上が持っていたブドウの販売権を譲られたお姉さんから、エマニュエルはブドウを購入できることとなり、全体で2.5ha となるので、少し本数が増えることを期待できるでしょうか?
畑が広がったので、裏庭にセラーができていました。壁と天井をぶ厚くして断熱効果を持たせて、エアコンを使わなくても夏の気温が高くならないように設計されています。ブロシェのモンブノワの畑は、母岩が余りに硬いため、根は表土部分にしか張ることができず、わずか25cmから60cm ほどの表土です。2017年は、芽がすでに成長し始めた時期に、5時間余りのあいだー7℃に気温が下がり、芽は真っ黒に枯れてしまい、収穫はほとんど得られませんでした。
シャルドネは、収穫ゼロ、わずかにムニエの2番目の芽から収穫できたブドウ20パーセント分用い、80パーセント分を、リザーブワインを使ってビン詰めしました。リザーブワインと言っても、毎年10hlずつ取り置いていたワインで、これを2017年のビン詰めで使い切ってしまったため、また溜めていかなければいけない、と話していました。
2013年から300本ずつ実験を続けているのが、《ヴァン・ナチュール》。ビン詰めまで亜硫酸ゼロ、二次発酵に砂糖と培養酵母を加える代わりに、同じワインの果汁を冷凍保存していたものを溶かして、ビン詰め時に加え、ビン内発酵をさせてつくっています。
「実験は続けないとねー。飲むたびに味が違っていて、不安定で大変だよ。2014年は、ネズミ臭が出て、これはリリースできないな。ラタフィアにもできないネ。」
今年リリースの2011年、本人も今までで一番の満足の仕上がりのようです。本当に少量ですが、日本に届けてもらえる幸運を喜びたいです。