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Sac a vinのひとり言 其の二十四「Le Choixー①」

公開日: : 最終更新日:2019/03/01 建部 洋平の連載コラム, ライブラリー, 新・連載エッセイ

 シチュエーションによって、類似する素材、類似する調理法でも、提供されるワインの判断というのは如何様にも変わり得るし、変えざるを得ないケースがままある。
 今回は、そのようなケースを鰆という今が旬の素材を通して比較検討していきたい。

鰆のパラメータ分析
 身の水分量が多く、また独特の臭みが感じられる。《漬け》や《マリネ》などの浸透圧を利用した調理法や、焼き霜造りや炭での炙りなど香りを添加する加熱などで、「適度に」身が持つエキス分を吐き出させる方法がとられている。

浸透を用いた料理
《漬け》
 浸透圧を用いて適度に水分が抜け、同時に醤油のマスキング効果により臭みもかなり抑えられ、食感もねっとりとして旨味が伝わりやすい状態となる。和食のお献立の性格上、お造りは序盤に提供されるので、ワイン自身も渋みや収斂性などのリセット効果の強い物を選択した方が、その先の展開をスムーズに運ぶことができると考えることができる。
 漬けのベースの加減によって、チョイスは若干変化するが、醤油が用いられることを念頭に置くと、白ワインは醤油臭さが顕在化するので、ロゼや極く軽い赤などで対応するべきだろう。

《漬けのチョイス》
 島系のロゼ。
 ミネラルや潮感、所謂「キレがある」のが大きな特徴の一つの、島乃至は半島育ちのワイン。サントリーニやシチリア、コルシカなど、品種や醸造方法も多様多種である為、味わいも多岐に渡るが、共通項であり味の構成要素の立脚点が「キレ」である。
 海洋アミノ酸系の旨味との相性は言わずもがなであり、既に多くの店舗で海の幸と合わせるのに採用されていると思われるが、今回のように《漬け》と合わせることを考えた場合は、白は前述の理由から選択肢から外れざるを得ないし、赤に関しても島系の赤は熟度の高いものが多い傾向にある為、候補に入れづらいケースが多い。結果、「キレが良く収斂性もあり醤油臭さも引き立たない」ロゼが非常に打率の高い組み合わせであると説明できる。

 ただ、ペアリングの中で他の皿にロゼを用いている為、出来れば他の色を用いることが好ましい、という場合もある為、その際の候補も考えておかなければならないだろう。
 候補としては、先程軽めの赤と記したので、例えば Alto AdigeやBadenの酸味が前面に出ていてボディが強く感じられないPinot Noirなどが考えられる。酸味だけで言えば、BurgenlandのZweigeltやTouraineのcôtなどもイメージには浮かぶのだが、収斂性の締め付けるイメージがPinotよりも若干ではあるが支配的である為、選択肢から除外される。
 お客様の好みの関係でどうしても白を出さねばならないケースも容易に起こりうる。なので、そのような事態にどのように凌ぐかも考慮しておくのは当然である。白品種で酸度が高めのものは醤油臭さが前面に出てしまい、又舌に対する洗浄作用があるので避けた方がベターである。合わせていくのであれば、鰆の《漬け》の旨味の次に感じられる要素、「脂」に合わせて、熟度が高く且つミネラルが前面に出てこない白ワイン、例えばLanguedocのGrenache GrisやMontsantのViuraなどが候補に挙がってくる。注意点は脂分が固まるようなニュアンスを出さない為に、温度を下げすぎない(12度以下にしない)ことだろう。

《マリネ》
 ルセットによって味の振れ幅はかなりあるが、基本的に塩をして水分を抜いたところに調味液を浸透させ、臭みを消したり風味を添加したりする。今回のケースでは、軽く塩で締めたところにオリーブオイルとハーブでマリネしたものとする。

《マリネのチョイス》
 カッティングの幅や形状、コースの中での位置付けなどにより選択肢が若干変わる。
 【コース序盤 薄いスライスで提供】
 RheingauのRieslingやWachauのGrüner Veltliner などの清涼感と柑橘系のニュアンスがあり、キレの良い酸味がベースの白。
 甘みや厚めのボディを脂に合わせることは可能なのであるが、序盤から余り主張の強い組み合わせを組み込むと、後のペアリングにも影響が出てくる事が容易に想定できる為、あくまで軽やかに収めていく方が賢明であろう。ロゼや赤を合わせていく事自体は可能であるが、余り厚みのない状態でタンニンの抑制効果を発揮すると、ワインが支配的になってしまう。そうなると、ペアリングというよりも「酒とツマミ」の関係性になってしまうので、出来れば避けていきたい。強いていうならばMarsannay roséなどが候補に挙がるか。

【コース中盤 厚めのスライスで提供】
 白であれば カリフォルニアの樽熟成のChardonnay、
 赤であれば Bierzoの余り樽の利いていないMencia
 カッティングが厚めになると、素材自身のエキス分や油脂分の口の中での滞在時間が長くなり、ワインも熟度が高く収斂性が強いものでバランスを取っていきたい。豊満でジューシー、加えて樽の収斂性が特徴的なカリフォルニアのChardonnayなどは安直ではあるが安定感があり、顧客の反応のアベレージも悪くない。Menciaが選ばれた理由は、鰆の特徴の一つであるねっとりとした舌触りを壊す事のないテクスチャーが第一である。滑らかという意味ではMerlotなども候補には上がるが、若干果実味が強い為バランスが取りづらい。 ローヌ南部の赤やシチリアなどでも良いのではないか?という考え方も有るが、それらもタンニンと酸の強い主張から同様に候補から外されることとなる。
 もし、この後の料理に滑らか系やフルボディのワインをあわせていくのであれば、低温浸透のニュアンスが顕著なCôté de Beaune のPinot NoirやBurgenlandのBlaufränkischも視野に入れても良いだろう。もし、軽いワインをこの後に出すのなら、リセット効果の強い酸化熟成のワイン、Savagninの軽く酸化させたものなどを用いるとスマートで有る。

 次回は、加熱をした場合のチョイスの変化を見ていきたい。

 

~プロフィール~

建部 洋平(たてべ ようへい) 
北海道出身で1983年生まれ。調理士の専門教育をへて、国内で各種料理に携わる。
ブルゴーニュで調理師の研修中、ワインに魅せられてソムリエに転身。
ボーヌのソムリエコース(BP)を2010年に修了、パリ6区の「Relais Louis XIII」にて
シェフ・ソムリエを勤める。現在フリー


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