Sac a vinのひとり言 其の二十三「安直なアンチョコ」
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最終更新日:2019/01/03
建部 洋平の連載コラム, ライブラリー, 新・連載エッセイ
ソムリエあるある
ワインを注文された時にお客様の好みを尋ねると、
「とりあえず辛口のワインをください」と言われ、
何を提供したらいいのか余計にわからなくなること。
特に、「ドライな辛口の白」とか「いい感じの辛口の赤で」
と頼まれても情報は一切増えていないので、余計に悩む羽目になる。
上記の注文だと色さえ合っていればなんでもいいことになってしまう。
(ドライな辛口の白=辛口で辛口な白、辛口の赤=甘くない赤全部)
接客力を鍛えるしかない。
ペアリングの抑揚
コースに対するペアリングの説明の際に必ず
「提供するワインの流れを一定に保つのでは無く、ある程度の波というか
抑揚を付けるとより楽しんでいただけます」と述べる。
ここで言う抑揚とは、アルコールやタンニン酸から来るボディの強弱、
酸味のキャラクターの違いや熟成しているOrしていないなどの
ヴァラィエティーから来るトーンの変化のことである。
だから決して、合うOr合わない、美味しいOr不味いの違いではない。
美味しくないペアリングは御免被りたい。
A又はB
基本的に食物と飲料の組み合わせには Bestというものは無い。
Betterであると思われるものの群の中から提供側が取捨選択し、其れを
顧客が教授する。常にBetter than Betterを探し続けなかればいけない!
と言うことを述べたいのでは無く、対象に効果的と考えられる飲料の構成の群を
把握しておけば、大体のケースには対処できる。だから、もしお客様に自信を持って提案した
組み合わせを拒否されても気にすることはない。
単なる好みの食い違い。よくあることだ。
タイミング
サーヴィススタッフが潤沢にいる、またはこじんまりとしたお店、要するに顧客のケアを
細やかに行える、そういった店舗ならあまり問題にはならないのだが、繁忙店では、ワインを複数のテーブルに、「お客様にとって」タイミングよくペアリングのワインを提供することは、中々に難しくある場合が多い。賢明な読者の皆様であれば、料理が提供されてもワインが来て居ないなどという事態は頻繁には起こらないであろうが、意外に起こるのが
「料理が来る前に飲みきってしまう」と言うケース。追加注文をいただけるなら問題はないのだが、限られた料金の中でやらなくてはならない場合などは、もう一杯注ぐわけにもいかないし、グラスを空のまま放置するわけにもいかない。正直、対処方法が提供タイミングを見計らってサーヴする以外には効果的なものがない、意外に頭の痛い問題である。
この後の料理のためのワインですよ、と言っているのにいきなり一気飲みされたり、それを防ぐために料理と同時に出そうと待って居たら「早くワインをくれ」と急かされたり、それなのに追加料金には渋い顔をされる。 顧客毎に対応を変化できる店舗であれば対処可能であるが、フォーマットが決まっている店舗の場合は中々に難しい問題である。
やはり接客力を鍛えるしかない。
ルビンの壺
サンセールをポジティブに説明すれば「キレのいい酸味と爽やかな果実味」、
ネガティブに説明すれば「酸っぱくてフルーティすぎる」。
所謂ナパカベは「しっかりとした飲みごたえと、よく熟した果実、万人ウケのする味」
とも説明し流ことも可能であるが、「甘ったるくて重たいあざとい赤」と表現することも可能である。 私たちは提供者側である限り、サーヴする商品のポジティイブな面を説明し、又その美点を信じているが、消費者側の受け取り方、消化の仕方に枷をはめることは不可能である。
どのように受け止められても其れは消費者にとっての真実であるし、心象の問題であるから。
そこに正誤や優劣は無い。ただ同じものを違う観点から切り取って眺めているだけである。
ただ、言葉を発した側は其れが受け止められた側にデータとして蓄積されていることに注意深く有るべきだ。 簡単に言えばお客様は「おススメ」された内容を、しっかりとかぼんやりとかは濃淡はあるが覚えているので、言葉をしっかりと選びましょうと言うことで有る。
今年も1年拙い文章にお付き合い頂きました事を心より感謝いたします。
2019年が皆様にとって実り多き1年であらせられますように。
Meilleur Voeux et bonnes années de 2019
~プロフィール~
建部 洋平(たてべ ようへい)
北海道出身で1983年生まれ。調理士の専門教育をへて、国内で各種料理に携わる。
ブルゴーニュで調理師の研修中、ワインに魅せられてソムリエに転身。
ボーヌのソムリエコース(BP)を2010年に修了、パリ6区の「Relais Louis XIII」にて
シェフ・ソムリエを勤める。現在フリー