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『ラシーヌ便り』no. 156 「定点観測:オリヴィエ・コラン―新たなる展望―」

定点観測:オリヴィエ・コラン―新たなる展望―

はじめに

アンセルム・セロスの膝下で腕を磨き、一家の所有畑をネゴシアンからとり戻したオリヴィエ・コランは、新たに立ち上げた《シャンパーニュ・ユリス・コラン》を擁して、シャンパーニュ界の寵児に躍り出る。天性の鋭い味覚、賢明な判断力と、広大冷涼なセラーは、時間軸を超える魅力と個性をそなえる独自のシャンパーニュをもたらす。いまやオリヴィエは一頭地を抜く存在と化したが、そのシャンパーニュが未生の頃からオリヴィエの才能を見出し、世界で唯一、最初から通い続けた合田泰子は、いまなにをどう味わい、考えているのか。そのリポートは注目に値する。(T)

オリヴィエ・コラン訪問記泰子:合田

 11月12日にオリヴィエ・コランを訪問しました。時あたかも2018年の発酵を終えた頃合い。いつも明るくて楽しげなオリヴィエが、いっそう晴れやかな様子で、輝く笑みでいっぱいでした。2003年に醸造を始め、瞬く間にシャンパーニュ最上の造り手に数えられるに至ったオリヴィエですが、純粋で前をまっすぐ向いて進む姿は変わりません。いつものように大きな目をくりくりさせながら、あふれる笑みで話をしてくれました。

 近年のオリヴィエ・コランは、独自のファイン・シャンパーニュ造りの道を歩んでいるように感じられ、純なエキスと優美でしなやかなスタイルは、すでに完成したスタイルに到達した、と思っていました。しかし、2019年度リリースの各キュヴェをテイスティングして、これまでと別次元の味わいではないかと驚きました。まさしく数年かけて積み上げてきた成果が、確実に現れはじめたのです。
 2010年から保管を始めたレゼルヴ・ワインは、圧倒的な充実ぶりです。もともと古く広い地下セラーがあったとはいえ、フードルと小樽と合わせて23,000リットルを超えます。全生産本数45,000本/ 年 に対し、半量がリザーブとして保管されているのです。
 現在ピエリエールとマイヨンは、ティラージュから36か月でリリースされていますが、2020年からは、持っている可能性を開花させるために、48か月後にリリースになります。そのため、2019年度のリリース分(36か月熟成)は従来の半数にとどめ、2020年に残りの全量(48か月熟成!)をリリースし、2021年からは従来の本数を48か月熟成でリリースします。
 また、今なお収穫したブドウの一部をネゴシアンに売っていますが、収穫の15日以内に雨が降った場合は、雨天の収穫分をネゴシアン用にあてています。
 現在48か月熟成のレ・ロワーズとレ・ザンフェールも、ピエリエールやマイヨンと同じ方法で、2021年からは60ヶ月熟成でリリースされます。
 さらに、耳寄りなニュースがあります。2021年に、新しいキュヴェがリリースされるのです。生産量は、レ・ロワーズとレ・ザンフェールよりもさらに数が少ないですが、セラーの前にある畑から選ばれた最も良いブドウのみから造られます。

 2018年度の収穫前に、オリヴィエは最新鋭のCoquard プレスを購入しました。重要なのは、この二階建てで大型のコカールプレスでは、よりいっそう繊細な味わいの果汁がしぼれること。2018年は完璧な成育と収穫に加え、プレスを新調したため、今までとは全くレベルの異なる味わいが得られました。樽から試飲をして、特にマイヨンの美しい味わいには驚きました。しっかり熟しているのに野暮な重さがなく、フィネスにあふれていました。十分な収穫を得られたので、フードル5樽がレゼルヴにあてられました。数年後にいったいどのようなシャンパーニュが誕生することかと思うと、想像もできないほどです。
 常に前進を続けるオリヴィエ・コラン、ますます目が離せません。

  

オリヴィエ、かく語り記

*2018年ヴィンテッジ
「2018年は、パーフェクトな作柄だった。トリエ(選果)がまったく必要なかった。こんな年は経験したことがないよ。しかし、ブドウの質は収穫量と降雨量に左右される。ここ(Congis村)とその周辺では、6月12日に35ml降った後、ずっと雨が降らなかった。コート・デ・ブラン地区では、80mlの雨が降り、水膨れで80-100hl/haもの収穫があるところもあった。幸運にも遅霜と雹害を免れ、たくさん花芽をつけた上に、雨量が多く、施肥をしたところでは、大粒の房がたくさん健康に実った。でも、そのような造り手では、2004年のように、ブドウ果は傷みやすく、味わいに深さがない。」

*2017年ヴィンテッジ
 「2017年はトリエが大変だった。1本の樹から3房収穫できたが、そのうち1房分をトリエしなければならならなかった。8月に85mlと80mlの雨が降り、おまけに高温だったので、カビが広がり、酸が落ちた。シャルドネは被害がなかったけれど、ピノ・ムニエは腐り、ピノ・ノワールはトリエが必要だった。
 グラン・メゾンにブドウを供給する栽培家は、重量を減らさないため、地表に落ちた腐敗果までも混ぜてしまった。それで20%以上ものワインに、カビ臭が出た。ネゴシアンは、20から30%高く払ってでも手を打つべきだった、カビ臭い原酒を処分するよりはましだよ。」

手前の石は、白亜層の母岩に 含まれるシレックス

*盗難と並行マーケット
 昨年、コランを含むシャンパーニュがル・アーヴルの倉庫までの輸送中、コランのパレットだけが盗難にあいました。オリヴィエは丹念に調査し続けているけれど、盗まれたシャンパーニュの売先はいまだにわかっていません。この手痛い事件から深く学んだオリヴィエは、平行マーケットの存在自体が悪いと断定し、平行マーケットに流通させているとおぼしいヨーロッパの取引先に対する販売を、今年から大幅に削減することにしました。「まるで金融商品を売り買いするようなやり方で売買されるのは、耐えられない。インターネットに頼らず、私のシャンパーニュを自分の言葉で伝えてくれる人に、届けてほしい。」

 
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