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『ラシーヌ便り』no. 155

 久しぶりの、健全なブドウの収穫に喜びあふれる便りが、モーゼルのトロッセンとファン・フォルクセンから届きました。シャンパーニュのマルゲとブノワ・ライエからも、安堵の便りが届いています。ローヌから、南仏を除けば、質量ともにおおむね良好な作柄だったようですね。

 10月は、行事の重なる月でした。
 ポルトガル・ワイン試飲会、オーストリア・ワイン試飲会、タツミ様と共催のラシーヌ試飲会、定例オフィス試飲会「フランスの新着ヴァン・ナチュール特集」、ラシーヌの秘蔵ワインを楽しむ会、新屋シェフのお料理とラシーヌのワインを楽しむ会。

 ワインの準備だけでなく、グラス磨きを始めとする準備も大変で、社員総出での準備作業が連日続きました。

1.ポルトガル・ワインを始めます
 長年ポルトガル・ワインを探し続けてきました。
 スペインのサラマンカやビエルソからポルトガル国境までは、わずかな距離です。スペインを訪れる時に、ポルトガルに足をのばし、リサーチを重ねました。ポルトガルの村々は、伝統的なタイルで彩られた建物が美しく、自根ブドウの畑もいたるところにみられます。植民地時代のなごりの立派な建物が今も健在で、セラーも石造りの厚い壁でできています。この環境でいいワインができないわけはない、と喜び勇んでテイスティングしても、心に響かないことの繰り返しでした。ヴィーニョ・ヴェルデ、ダンをまわって、たどりついたのはリスボン。私たち好みの、軽やかで澄んだ味わいをもつ、選び抜いた自信作です。ようやくラシーヌのポルトフォリオに、ポルトガルが加わりました。

【 Vale da Capucha ヴァレ・ダ・カプーシャ】

ペドロ・マルケス

リスボンから北に8km 、海に近いヴァレ・ダ・カプーシャ。酸がきっちりしていて、果実味が豊かで複雑、草の香りが心地よく、でも決して青臭くない。何人かのRAW のメンバーからすすめられて、今年の3月に訪問して選んだうち、一部のワインが到着しました。
 そこで、10月3日に行われましたポルトガル・ワイン試飲会に初めて臨みました。スタッフ全員味わったことがないワインですので、みな興味津々でした。私も、塚原も現地でのテイスティングしか経験しておらず、ペドロ・マルケスが造るCapucha (カプーシャ)2017の空輸サンプルがはたしてどのような味で届くか、内心どきどきしていました。試飲会の準備が整い、一口味わって、全員の顔が嬉しい笑みで輝きました。どのキュヴェも個性の違いが鮮やかに見てとれ、酒質が素晴らしい。ポルトガルワインを始めてよかった。おもわず「やったー!」と叫びました。 来年から、販売の予定です。
 ヴァレ・ダ・カプーシャは、ポルトガルではいまだ稀な、ヴァン・ナチュールの造り手です。
 1920年代に設立されましたが、2009年から世代交代し、マヌエルとペドロのマルケス兄弟がワイナリーを経営しています。リシュボア地方、DOCトレス・ヴェドラスに13haの畑があり、ブドウ栽培農家としては4世代目ですが、畑の大部分はペドロとマヌエルが2009年に植えました。アリントとフェルナン・ピレスの白品種を植え、その他、アルヴァリーニョ、ゴウヴェイオ、ヴィオズィーニョ、アンタン・ヴァスなども植えました。赤ワイン用品種は、トゥリガ・ナショナルとティンタ・ロリスが混植されています。受け継いだ畑には、80歳を超えるカステラン種も栽培されています。

 ペドロは1981年生まれ。リシュボアとトレス・ヴェドラス、それぞれの街の間に広がるブドウ畑や、自然に囲まれて育ちました。家業のブドウ栽培を手伝っていたことから、ワインに対する関心と愛着は幼いころからあり、農学を選考することを後に決意することになります。2005年に栽培と醸造の技術を身につけて学業を卒え、リシュボア、ドウロ、アレンテージョ地方のシニア・ワインメーカーとして働き始めました。それと同時に、自社畑の植え直しのプロジェクトを進めました。自社での栽培と醸造をしながら、フランス、スペイン、イタリア、ドイツ、アメリカ、ニュージーランドなどの各地でテロワールを探索しながら、ワイン造りの研修をしてきました。2009年がヴァレ・ダ・カプーシャとしての初VTであり、2015年からようやくフルタイムで働けるようになったところです。

 畑はすべて2015年からオーガニック栽培の認証をとっており、醸造においても“ハンズ・オフ”なアプローチを心掛けています。白品種は、400L~500Lの木製とステンレスタンクで醸造しますが、木製の樽は大きければ大きいほどいいと考えています。赤品種はボジョレで良く使われるセメントタンクや500Lの古い木製樽、そしてバローロ(カッペッラーノ)で使われていた大樽で醸造しています。雨の多い、大西洋側の地域、キンメリジャンの地質の味わいを顕著に感じ、酸味と骨格、豊かな味わいが特徴的なワインです。

カッペラーノで使われていた大樽。

 加えて、シラーの、とても小さな区画があります。シラーはペドロが大好きな品種で、「全房醗酵で軽めに抽出をしたものが好きだ」と、ペドロ。
 「中央ヨーロッパのブドウ栽培地域の、とりわけクラシック・ワイン醸造文化に、強く影響を受けている」と、ペドロは自己分析しています。とりわけ、ブルゴーニュ、ジュラ、アルザス、ロワール、シュタイヤーマルクなどの、畑の区画ごとの概念が整備(保護)されており、小さな違いに敏感である地域に興味があるとのこと。白ワインにおけるマセレーションなどの、古くからの技術も興味をもち、実験中です。フードフレンドリーでありながら、より複雑なテクスチャーの構築を目指しています。

2. 7月出張報告―2018年7月9日
ボジョレ訪問
イヴォン・メトラ】。イヴォンのパートナーGusta が、夏の間だけ庭でレストランを始めました。
合田「美味しいワインが飲めるね、ウルティムあるの?」  
イヴォン「ウルティムはないよ、ハッハッハー」
合田「2014 のボジョレとムーラン・ナヴァンは 最近美味しくなったね」
イヴォン「2012 のムーラン・ナヴァン も良くなった、 最初変だったけどね。ムーランはいつも時間がかかるんだ。今のところベト病が少しあったけど、雹が来ないことを願うね 2016、17年と、2年続きで50パーセント減だった。“ウルティム”は一番樹齢の高い畑から作る。樹が傷んできてかなりを抜いてしまったので、収穫が十分ある時でないと作れない。最近では2014年にしか作れていない、でも2018年はこのまま順調にいけば作れるかもしれない。」久しぶりのウルティム、待ち遠しいですね。

 2017年を試飲。メトラでは、2017年も前年に続いて雹害のため、収量は平均の半分以下。まだタンニンが荒いですが果実味たっぷりで、旨味が詰まっています。どのキュヴェもハーモニーがとれ、香りが美しい。ジュールの“ビジュ” と“シルブル” は、みずみずしく明るい酸があり、楽しさが溢れています。
 洞穴カーヴに入って「ここは本当に素晴らしいね」と言うと「そうなんだ、フルーリーのカーヴで熟成していたMme Placard (マダム・プラキャール)が調子悪かったけれど、樽ごとこっちに持って来て半年置いたら、良い仕上がりになった。この環境は、ワインを治療してくれる病院だ」。せっかくの洞穴カーヴや地下セラーでの醸造をやめる人もいれば、イヴォン親子のようにわざわざカーヴ付きの古い建物を探して、醸造する人もいます。何を目指すか、仕上がったワインが全てを物語っています。

イヴォン・メトラ

ジュール・メトラ

ギィ・ブルトン
 10月17日のオフィス試飲会で、ギィ・ブルトンの2017年が大変好評でした。2017について、ギィは次のように話していました。「求めるのはフレッシュさ。アルコールは軽く、タニンは求めず、低温で醸造している。2017は 樽の中ではすごくアロマティックだった。酸が高い方が好きだし、みずみずしい味わいを好むので、少しガスを残して仕上げる。ジュール・ショヴェが『モルゴンはバランスが大切だ』と言っていた。またショヴェは、私が最初に作った1988年を味わって、『このままでいけ』と褒めてくれた。モルゴンのアルコール度数の理想バランスは、12ー12.3°。2015年はすごく暑くて、度数が14.9°もなった。 こんな暑い午後に耕作したら畑を傷めるだけだ。2018年 はこのままいけばすごくいいだろう。嵐が来ないことを祈るね ベト病はないよ。 少しあったけどすぐに止まった。2ヶ月雨ばかりで、でもその後はずっと雨がなく、8月終わりから順に収穫を始める。」
 ギィのワインはいつもビンヅメから半年たって美味しくなるので、年明けには、ますます魅力を発揮し始めるでしょう。

ロベール・ドゥノジャン
ギィ・ブルトン から、プイィ・フュイッセ のロベール・ドゥノジャンへ。2015年は、ビン詰めまでの熟成期間がいつもより長引き、5種類のうち4つのキュヴェが、まだ発酵が終わっていません。ドゥノジャンでは、2017年は雹害で80パーセントを失いましたが、最終的に50パーセント減に止まることができました。
 ボジョレから20kmほどなので、ボジョレの次世代グループと仲のいいニコラとアントワンヌ兄弟は、どんどんナチュラルに向かっています。もともと畑はとびっきりよく、いつでも認証取得できるレヴェルの栽培をしてきましたから、ワインは急速に上質なヴァン・ナチュールに向かっています。澱引き後にSO2 を使わなくなって、テクスチュアに柔らかさがでてきています。20hlの不思議な形のコンクリート・タンクを3基購入し、2017年は比較するため、木樽とステンレスとコンクリートの醸造を試みました。 コンクリート・タンク製は最もふくよかで、同時に凝縮感と酸が際立ち、とても心地よい仕上がりになりました 。逆に木樽は、今はまだ固く閉じています。
 2017年から、樹齢100年 を超える自根の畑が加わりました。Les Chazelles Vire Clesseレ・シャゼル・ヴィレ・クレッセで、 ビオディナミの認証を取得。セックで、微妙な複雑さがあり、これはなかなかの大物! 大変楽しみです。 

左から、アントワーヌ、ニコラの兄弟と父親のジャン・ジャック・ロベール

 また、ドゥノジャンのボジョレを忘れてはいけません。ジュール・ショヴェ の畑を2012年に5人の作り手で継いで、2年後、その内のジュール・メトラ のパーセルも引き継ぎました。ボジョレの守護神、ベテラン栽培家でナチュールの求道者 Jean Francois Promonetジャン=フランソワ・プロモネ(*注)は、アントワンヌ曰く、「どこにでもいて、どこにもいない、定まった場所がない。でも週のうち何度も来てくれて、耕作してもらって、電話は毎日。」どうやら、このワイン、プロモネ流の味わいかもしれません。淡い色調、チャーミングで、柔らか、でも輪郭が目に浮かぶ、ひょっとしたら今度入荷するドゥノジャンのボジョレは、大発見になるに違いありません。 
 (*注:農業機械技師の教育を受けたのち、ブドウ栽培用機械の組み立てに従事しながら、フランス内外に住む友人の生産者を訪れて手伝う。とりわけ農業機械を運転するかたわら、彼らの仕事を円滑に進めるために、ビオロジック栽培の畑でブドウの仕立てや手入れをおこなってきた。 2012年と13年にボジョレのレーヌ村で醸造したが、その後続いた不作のために、やむなく醸造をあきらめ、以前のように、ボジョレ地区の造り手たちのワイン造りを手伝っている。ラシーヌでは、2013年を輸入、わずかに残っているワインは、今は妖しい魅力にあふれています。)

ジャン=フランソワ・プロモ ネ(メゾン・レーヌ)。仕事で 関わっていた、造り手たちのせいか、派手ではないが、骨太なボジョレを造っていた。

 

 
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