合田玲英のフィールド・ノートVol.65 《 アメリカを訪問して思う事 》
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最終更新日:2018/11/15
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今年の4月からラシーヌが取り扱いを始めた、アメリカワイン。まったくの未知の世界だったアメリカ西海岸。初訪問の去年は、訳もわからずワイナリーへと車を走らせた。運転をしていると南イタリアともジョージアとも違う、運転の仕方というのがある。最初は戸惑ったけれど、自己中心的なようで非常に大らか。クラクションなんて鳴らされない。サービスエリアのハンバーガー屋の店員は底抜けに明るい。紅葉の色が鮮やかで、自然の豊かさを感じるオレゴン州は童話の世界に。ごちゃごちゃとしたサンフランシスコの街は文化のテーマパークに来たようで、飽きることがない。
カリフォルニアでは、去年2017年よりも広い範囲の森林火災があった。サンフランシスコから、パソ・ロブレスまでの200kmの道のりは、ほぼ砂漠のような禿山だらけ。といっても、火事と伐採により、失われたものではなく、海流と偏西風の影響により大陸の西側は雨が降らないものなのだそうだ。それにしても、近年の山火事の頻度と規模は度を越している。観測史上の最高気温は、最近5年間に集中しているという。
オレゴンはというと、植物が大きく、植生が豊かで、色素が濃い。ケリーフォックスがブドウを手入れする畑では、従来の収量を落とすように選定したのでは、なかなかブドウが実をつけず、病気にも弱かったのに対して、枝を長くとり、葉の量も増やしたところ、美しいブドウをたくさんつけるようになった。葉の色もヨーロッパに比べると緑が濃く、秋口は鮮やかな赤、黄に染まる。湿度も高く、寒暖差も大きいので、明け方は町が霧に包まれる。
なんせ広いアメリカなので、様々な気候条件と、土壌条件があり、それぞれに個性がある。醸造所はというと、ヨーロッパの様に古い施設は簡単にはみつからない。資本力があれば、地下セラーを造ることもできるだろうが、小さなワイナリーが古い醸造所や、ロワールの洞窟のようなものを手に入れることは難しい。
イタリアのサン・ジュースト・ア・レンテンナーノや、オーストリアのエルンスト・トリーバウマーのような造り手のセラーには、歴史を感じる香りがあるだけでなく、セラーに入った瞬間に、こんなセラーで熟成したらどんなワインも美味しくなるだろう、と思わせる雰囲気がただよう。そういうセラーを持つことはアメリカでは難しいのかもしれないが、ジ・アイリー・ヴィニヤード(ラシーヌ取り扱いではない)のように、七面鳥の肉の保管庫を醸造所としてリフォームしたり、コカ・コーラの輸送に使われていた、容器をブドウの醗酵・熟成容器としたりという発想は偏屈でなく、自由でアメリカらしい。
ワインはブドウと容器があればお酒になるという、とてもシンプルなもの。それはジョージアのワイン造りや、ヴァン・ナチュールのワイン造りを見ていると、つくづくと感じる。農機具、醸造設備にしても、これが無くてはいけないというものは、あまり多くない。不可欠なのは造り手で、造り手の個性というのは、目の前にあるもので工夫するところに、醍醐味がある。ユニークな考え方で、ワインを造るのが楽しくて楽しくてしょうがなく、こだわりを楽しそうに話す人のワインは、飲み手も楽しくしてくれる。そしてそういう人は、ブドウが栽培されている限り、どこにでもあらわれる。
~プロフィール~
合田 玲英(ごうだ れい) 1986年生まれ。東京都出身。
2009 年~2012 年:ドメーヌ・レオン・バラル(フランス/ラングドック) で研修
2012 年~2013 年:ドメーヌ・スクラヴォス(ギリシャ/ケファロニア島) で研修
2013 年~2016 年:イタリア/トリノ在住
2017 年~:日本在住