合田玲英のフィールド・ノートVol.63 《 群雄、割拠するスペイン 》
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最終更新日:2019/02/06
ライブラリー, 新・連載エッセイ, 合田 玲英のフィールドノート
近年のスペインワインの動向は、めまぐるしい。いや、きっと数年前には始まっていたのだろう。
北部の大西洋気候の地域を除くと、寒暖の差が激しく、乾燥しているため病害も出にくい。ブドウ樹の樹齢は高く、自根も多く、標高も高く、土壌構成も様々だ。
これだけのブドウ栽培の好条件の揃った、圧倒的なポテンシャル。そしてそのことを知っている、若い造り手たちが、こぞって各地の名土壌を見出し、様々なアプローチでワイン造りをしている。
クラシックな世界観漂う、スペインのワインシーン。気軽なワインと、ピンチョスを摘むようなお店でも、ユニフォームを着こなした、老若男女のカマメーロ(ウエイター)がとびきりの笑顔でもてなしてくれる。そんなスペインの地域や、生産者について2号前(http://racines.co.jp/?p=10554)の、“ギリシャの地域・生産者”に続き、まとめてみた。
スペイン
世界一位のブドウ栽培面積をほこる、スペインのワイン産業は、大規模に海外へと輸出することで、成り立ってきた。19世紀初頭までは、南アメリカの植民地へ、19世紀後半からは、鉄道の発達とともに、地続きのフランスへ大量のワインが輸出された。1960年代から近代醸造技術の導入が活発になり、シェリーブームがおとずれ、リオハワイン人気も再燃した。21世紀になりスター生産者の登場により、高品質なワインの存在も認知されているはずだが、日本ではスペインワインというと、まだまだ安ワインのイメージが拭えない。
イベリア半島は、中央台地(メセタ)が国土の大半を占めており、沿岸部から数十kmも内陸部へ入ると、標高が600〜1000mの高さまでになる。乾燥した気候も幸いして、病害が少なく、ブドウ栽培のまさに好適地である。 近年では、カタルーニャ地方の動きが目立つが、それだけでなく、島々を含めたスペイン各地で、新世代の造り手たちの手により、地品種と伝統的な製法でのファインワインが、同時多発的に生まれている。
《 カタルーニャ州 》
フランスのルーシヨン地方と隣接する、スペイン最北端の州。バルセロナを州都とし、芸術、食文化、リゾートとしても多くの人を魅了する。地中海性気候で沿岸部は温暖で適度に雨が降り、すごしやすく、ブドウ栽培にも適している。一方、内陸部は大陸性気候で乾燥している。昔から、工業地帯としてさかえ、経済的にも豊かであったことから、20世紀に入り、ワインの工業化が一気に進んだ。
1870年に始まった、カヴァの生産は、地域の一大産業となった。現在でも10あるDOのうち、ペネデスの生産量は群を抜いている。南部では1980年代にプリオラートで、優秀な若手醸造家たちによる、著しい品質の向上が見られた。地域全体としては、ペネデスを抜かすとガルナッチャ種、カリネーニャ種に加え、その他国際品種による、赤ワインの生産が多いが、近年では白ワインの需要も増えてきている。そして、フランスに近いという事もあるのか、スペインの中ではナチュラルワインのメッカであり、ひときわ激しい動きがある。
【セラーズ ジョアン・ダンゲラ】
DOQプリオラートを取り囲む形のDOモンサン。ジョアン・ダンゲラは、この地で7世代前からワイン造りを行っている。ジョセプとジョアン兄弟は、父と死別した2000年にワイナリーを継ぐが、彼ら2人の頭にはいつもある問いが引っかかっていた。「我々は誠実に、土地と歴史を十分に反映したワイン造りをしているのだろうか。」
2008年にまずは栽培から、バイオダイナミック農法に切り替え、祖父が飲ませてくれていたようなワインを思い出しながら醸造も一新する。ナチュラルワインの動きの影響も受けたと、二人は振り返るが、地中海沿岸地域のクラシックなワイン造りも同時に研究してきた。栽培を変えてから、年々収穫量は減っていったが、ブドウの質の向上は、ワインからも十分に感じられた。そして2016年、90年代クラシックでも、モダン・ナチュラルなテイストでもない、彼ら自身のスタイルが定まった、と二人は語る。カタルーニャの暑さと“光”は味わいの力強さから感じるが、ガルナッチャ、カリニェナの冷涼な酸味が味わいを引き締める。
【ラウレアノ・セレス・モンタグット≪メンダル≫】
スペイン・カタルーニャのナチュラル・ワインムーブメントを語る上では欠かせない、ラウレアノ・セレス。フランスの造り手たちとの親交も深く、2011年からは、カタルーニャの生産者たちを巻き込んでの、試飲会も企画・運営している。
ラウレアノが畑を持つ、テーラ(土地)・アルタ(高い)はカタルーニャ州の南の端に位置しており、名前の通り標高が高い、中央台地(メセタ)に差し掛かる地域である。気温は涼しく、昼夜を問わず風が吹いているので、同じカタルーニャのワインでも、海に近い地域のワインに比べ、収穫時期も遅く、果実が過度な凝縮をすることがない。
元々は、同じ村内の協同組合で働いていたラウレアノだが、大量生産、無個性のワインを彼が造り続けられるはずもなく、亜硫酸無添加のワインを自宅兼ワイナリーで造り始める。イノックスタンクとティナハが所狭しと並ぶ小さな醸造所だが、ワインは抑えても抑えきれないラウレアノとカタルーニャのエネルギーを体現している。
《 カスティーリャ・ラ・マンチャ州 》
中央大地(メセタ)の南半分を占める、カスティーリャ・イ・レオン州に次ぐ広さで、標高も高く、冬も夏も厳しい気候。春には緑で覆われるが、夏の間は雨が降らず、景色は茶色にそまり、干上がらない河は無いとも言われる。そのような環境にもかかわらず、ラ・マンチャのワインの生産量は、スペインワインの半分を占めている。標高は高いが台地であるので、どこまでも続く平野にブドウ樹は植わっており、また、ところどころ、古い協同組合の巨大なワイナリー跡が点在する。技術の発展と共に、ヘクタールあたりの生産量は増えており、2000年以降、灌漑による栽培をする造り手が増えた。
ワイン用品種としては、世界一の作付面積を誇るアイレン種は、ラ・マンチャの厳しい環境にも良く耐え、高貴品種とはみなされないが、驚くほど古い樹齢のものが、いまだに植え替えられることなく多く残っている。その他にもガルナッチャ、モナストレル、テンプラニーリョ、シラー、ボバルなどの品種が広く栽培されており、初期投資の少なさから、大企業型ワイナリーの関心の的となっている。
【エセンシア・ルラル】
マドリードの南、ケロ村にワイナリーを持つ。地元消費用にワインを造っていたが、2002年にマーケットにおいて独自性を打ち出すため、エセンシア・ルラルという会社を設立した。厳しく乾燥する気候のラ・マンチャだが、灌漑をしないため、40ha以上の畑を持ちながら、生産量は100,000本に届かない。エセンシア・ルラルで使う、ブドウのほとんどは、樹齢100年を超す、アイレンと、テンプラニーリョで、ゴブレに仕立てられた平地の畑が地平線まで続く。その畑の中に、かつての大量生産時代の遺跡ともいえる巨大な円筒状のコンクリートタンクを備えた協同組合のワイナリーがあり、ワイン産業の盛衰を感じる光景だ。
栽培・醸造家のフリアン・ルイスは、醸造を開始当初は、マーケットの要望に合わせ、醸造技術で管理されたワイン造りをしていたが、会社の設立と合わせ、自分の感性の向くままにワイン造りを始めた。通常大量生産に向くとされるアイレンの古樹は、とても凝縮したブドウを少量実らせ、超長期のマセレーションをかけることで、独特の濃厚な味わいを持つ。推し量れない要素も確かにあるが、フリアンのワインはラ・マンチャの自然とワイン文化への最大の賛辞なのだ。
【エンビナーテ・アルマンサ】
“エンビナーテ”はラウラ、ホセ、ロベルト、アルフォンソの4人組からなるワインメーカーグループである。大学の同窓で、2005年にワイン造りのコンサルタント業を始めたことが、エンビナーテの始まりである。“4つの頭、8つの目でいつも考えているのさ”と言う彼らは、お互いへの強い信頼で結ばれており、各地方の担当はあれど、可能な限り4人で畑に立ち、栽培、醸造方針を決めている。
カスティーヤ・ラ・マンチャの南東の端のDOアルマンサは、緩やかな丘や平野が続くが、中央台地(メセタ)に位置するため、標高は800mと高く、大陸性気候の厳しい環境である。ホセはこの地方のアルバセテという街の出身であり、ゴブレ仕立ての広大なワイン畑がどこまでも続く景色を見て育った。
モナストレルや、ガルナッチャ・ティントレッラなどの品種が、栽培面積のほとんどを占める地域ではあるけれども、エンビナーテの活動する他の地域同様、地品種を栽培して混醸される。
《 カスティーリャ・イ・レオン州 》
スペイン最大の自治州で、中央台地(メセタ)の北半分を占める。ブドウ栽培地も標高880m〜1000mに容易に達し、南部の大陸性気候の地域の気候は厳しい。乾燥し、よく晴れた気候により、昼夜の寒暖差は、地中海気候よりもさらに大きい。北部では年により、大西洋気候と大陸性気候の影響を受ける。土地の痩せた平野が多く、羊の放牧以外にできることがあまりない。なので、北部を流れるドゥエロ川は、貴重な資源であり、流域一帯には穀物、テンサイ、ブドウ畑が広がる。
ドゥエロ川に沿っては、両サイドに100km以上にわたって、ブドウが植えられている、DOリベラ・デル・ドゥエロは国際的にテンプラニーリョの赤ワインで知られている。ドゥエロのさらに下流のDOルエダの白ワインも近年高い評価を受けている。
カンタブリア山脈を挟んで、ガリシア州と隣り合う、北部のDOビエルソではメンシア種による赤ワインが、90年代から新世代の生産者たちの登場により、注目を集めている。さらに、新しい世代による、より涼しい地域の地品種を求める動きの中で、セントラル山系の標高の高い地域のブドウでのワイン造りもにわかに活気づいてきている。
【デスセンディエンテス・デ・ホセ・パラシオス】
“ホセ・パラシオスの跡継ぎたち”と名付けられたこのワイナリーは、ホセの息子で、醸造家として国際的に評価されるアルバロと、その甥であり、ビエルソで実質的にチームを率いるリカルドが1998年にスタートさせた。ビエルソの地は、彼らの求める、「香気ゆたかで強烈な味わいがあるが、デリケートで独特な品質をそなえる」というワインを造るための、急斜面・高樹齢のブドウ・顕著なテロワールという3条件が整っていた。メンシア種を主として、赤も白も様々な品種が混植されている古い畑が残っているというのも大きな特徴だ。
ビエルソでは、小さな農家が多く、1ha未満の小さなブドウ畑を栽培している農家がほとんどだ。パラシオスでは自社畑では馬による栽培を実践し、バイオダイナミック栽培も当初から取り入れている。それに加え、契約農家は200を超えていて、ブドウを購入すると同時に、上記のような栽培指導もしている。
2016年に完成した4層に分かれている新しいセラー(2017年VTから醸造)は、アルバロとリカルドの長年の知恵が結集した、人にとって働きやすく、ワインにとって無駄なエネルギーがかからない設計となっている。
【マンドラゴラ・ビノス】
マンドラゴラ・ビノスはワイン造りへの情熱に突き動かされた4人のワイン・ラヴァーによるジョイント・ベンチャー。マドリードの中心街に、スペイン国外のワインも扱うショップも経営しており、ワイン造りから、卸・販売までを自分達で行う。チームの中核となるセザール・ルイスはパリのカーヴ・オジェなどでも、カヴィストとして経験を積み、フランス、イタリア各地のワインにも精通している。
マドリードのショップで取り扱うワインは時代性に振り回されない、クラシックな造りのワインのものが多いそんな彼らの求めるブドウ畑は、スペイン各地の隠れた銘醸地だ。そして、セントラル山脈麓のサラマンカの自然公園で理想の土地を見つける。標高1000mを超える、雨の多い気候で、酸味と香りが特徴的な、地品種のルフェテが栽培される。それは4人が望む「軽やかで味わい深いアロマティックなワイン」をつくる上で、理想的な条件のそろった土地であった。土壌と気候、品種の理解には時間がかかると彼らは言うが、着実に品質を向上させている。
【ビニェドス・デル・ホルコ】
マンドラゴラ・ビノスのメンバーと、スペインのスター醸造家、ラウル・ペレスによる、共同プロジェクト。マンドラゴラ・ビノスはワイン造りへの情熱に突き動かされた4人のワイン・ラヴァーによるジョイント・ベンチャー。マドリードの中心街に、スペイン国外のワインも扱うショップも経営しており、ワイン造りから、卸・販売までを自分達で行う。チームの中核となるセザール・ルイスはパリのカーヴ・オジェなどでも、カヴィストとして経験を積み、フランス、イタリア各地のワインにも精通している。
カスティーヤ・イ・レオン州とマドリード州の境、グアダラマ山脈麓の、標高700mのセブレロス村に畑はある。斜面は北向きのものが多く、涼しい気候のため、焦らずに果実が熟すのを待つことが出来、「軽やかで味わい深いアロマティックなワイン」造りを目指す彼らの考えに沿った、地域。ゴブレ仕立てのガルナッチャは、1915年に植えられたもので、栽培の良さも手伝い、非常にのびやかな後味を持つ。
《 ガリシア州 》
スペインの西の端に位置し、州都サンティアゴ・デ・コンポステーラは聖地巡礼の最終地点でもある。その他の地域とはカンタブリア山脈により隔てられており、大西洋気候の影響で、冷涼でイベリア半島の中でも高雨量が一番多い。
DOリアス・バイシャスにはアルバリーニョを始めとする白品種が、多く植えられている。ポルトガルのヴィーニョ・ヴェルデにも見られるような、棚仕立てで、場所によっては海岸近くまでブドウ畑がせまっている。前述の通りの気候も手伝い、ヘクタールあたりの生産量も多く、ガリシアのアルバリーニョの名前にあぐらをかき、品質に値段の釣り合わないワインもあるが、小規模生産で収量を落とした、エキスの濃い白ワインを生み出す造り手も、増えている。
一方、東部の内陸部には、DOリベイラ・サクラ、DOヴァル・デ・オラスを有し、アルバリーニョ、ゴデージョなどの白品種も有名だが、メンシアなどの赤品種も多く植わる。中でも川沿いの急斜面の畑のものは特に高品質とされ、濃い、フルボディータイプの赤ワインでなく、色の薄く、デリケートな味わいの赤ワインが生まれる。
【ナルパ・ビノス】
イベリア半島北西の端、大西洋に面し、アルバリーニョで知られるリアス・バイシャス地方のワイナリー。リアス式海岸の名称の元にもなった、入り組んだ海岸線の美しい地域だ。海風も強く吹くけれど、雨も多いので湿度を避けるため、ブドウは棚仕立てで仕立てられる。この地方で多く産出される花崗岩(グラニート)で、棚仕立ての支柱も、家の壁も造るという伝統のある地域だ。
ナルパ・ビノスは地域のワイナリーで醸造家として働く、ロサ・マリア・ペドロサの興した小さなワイナリーだ。祖母が植えた畑での醸造を夢見てきたが、2013年にようやく念願がかない、少量ながら元詰を始める。地域で大量生産が始まる前に、植えられたアルバリーニョ種は、房が小さく、小粒でばらけており、雨の多い大西洋気候に適している。“近年植えられる、クローンのアルバリーニョは収穫量も多く、醸造も酸味を出すことしか考えていない。それだけではない、アルバリーニョがあるの”と、ロサは語る。
【エンビナーテ・ガリシア】
“エンビナーテ”はラウラ、ホセ、ロベルト、アルフォンソの4人組からなるワインメーカーグループである。大学の同窓で、2005年にワイン造りのコンサルタント業を始めたことが、エンビナーテの始まりである。“4つの頭、8つの目でいつも考えているのさ”と言う彼らは、お互いへの強い信頼で結ばれており、各地方の担当はあれど、可能な限り4人で畑に立ち、栽培、醸造方針を決めている。
DOリベイラ・サクラ。その聖なる(Sacra)河(Ribeira)と、河を見下ろす急斜面の景色には圧倒される。1996年にDO認定され、メンシアとそれと混植されるその他の地品種が多く栽培される。アルフォンソは、森林消防隊員であった頃に見た、ヘリコプターの上から見た景色に、心を奪われた。“このテラスはピラミッドのようなものだ。今造ろうと思ってもとても、できるものではない。信仰と気の遠くなる時間をかけて人がつくったもの”だとアルフォンソその景色を評する。
近年この地域のワインは、伸びやかな味わいのワイン造りで国際的評価も得ているが、その中でもエンビナーテはひときわ異彩を放っている。
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《 その他地域の生産者 》
【ラボラトリオ・ルペストレ】
スウェーデン人の両親のもとに、パリで生まれ、アメリカで映画を撮ったり、フィリピンのピナトゥボ火山でボランティアとして活動したりと、世界中で暮らしてきたエリック・ロスダール。そんな彼が、スペインのフミーリャで、ひっそりとワインを造り始めたのは2011年の事。ワイン造りのきっかけは、ピエール・ボージェのワインとの出会いだった。ワイン造りについて何も知らないエリックだったが、ピエールのもとへ通いつめ、ワインとは何かを考えてきた。
”酸化臭も還元臭も大嫌いだ”といいながら、完全に亜硫酸無添加のワイン造りをしている。フミーリャは大陸性気候の雨の少ない厳しい環境で、ブドウ畑での作業をほとんど必要とせず、エリック自身も余計な作業をしないようにしている。忘れ去られたような畑に実るブドウから出来上がるワインは、ブドウが樹上でそのままワインになったかのように、とびきり純粋。アリカンテ・ブーシェ、ボバル、モナストレル、シラーなどの赤ワインのみを造っていて、決して醸造家のワインとは言えないかもしれないが、否応の無い説得力がある。
【ボデガス・オリバーレス】
1970年代まで、乾燥した高地という気象条件に恵まれたフミーリャは、とりわけバレンシア市向け量産ワインの大供給地であった。海抜825メートルの高地にあるフミーリャでもっとも冷涼な地域で、土壌は砂質に富むため、フィロキセラ耐性がある。しかし1988/89年に時期遅れのフィロキセラがついに襲来し、生産量は激減しただけでなく、植え替えを余儀なくされた。
ボデガ・オリヴァレスを経営するセルバ家(当主:パコ・セルバ)はそれでもなお、フィロキセラの害を免れた、自根のモナストレル種の古樹を持つ。
1998年まではバルクワインと、自家消費用の甘口ワインのみを生産していたが、当ワイナリーを訪れたスペインのトップ・ソムリエが偶然このワインを味わって狂喜し、説得の果てにこのワインが市場に出て、一躍トップ格のレストランと小売店を飾ることになった。パコは更に、自根のモナストレルの古樹での赤ワイン造りも始め、低価格帯であるにもかかわらず、熟した果実と美しい酸を持つワインを造っており、スペインの栽培環境のポテンシャルの高さを如実に表している。
【パゴ・デル・ナランフエス】
アンダルシア州は、ジブラルタル海峡を挟み、アフリカ大陸にも近く、イスラム文化の影響を多く受けており、他の地域にはない独特な哀愁漂う地域。スペインの最南端の州で、最も気温の高い地域であるが、シエラ・ネバダ山麓のグラナダは街自体が標高700mにあり、伝統的なブドウ畑は標高1000mを超す。
グラナダで生まれたアントニオは、6歳の時に両親と共にフランスへ移住した。若いころからワインとブドウの世界には興味があり、30歳の頃、スペインに戻り、ブドウ栽培を始める。そのためか、テンプラニーヨだけでなく、フランス系品種も多く植わっている。その後、元詰を初めてワインを売り出すまでに更に数年かかるが、年間10000本に満たない量のワインを少量ずつ造っている。
亜硫酸無添加の味わいは時として、長期のビン熟成の必要を感じさせるが、2015年VTからは、ステンレスタンクでの熟成に切り替え、味わいはより安定している。しかし、変わらないその素朴な味わいは、栽培の良さとアントニオの何とも言えない人柄の良さを感じさせる。
【エンビナーテ・カナリア諸島】
“エンビナーテ”はラウラ、ホセ、ロベルト、アルフォンソの4人組からなるワインメーカーグループである。大学の同窓で、2005年にワイン造りのコンサルタント業を始めたことが、エンビナーテの始まりである。“4つの頭、8つの目でいつも考えているのさ”と言う彼らは、お互いへの強い信頼で結ばれており、各地方の担当はあれど、可能な限り4人で畑に立ち、栽培、醸造方針を決めている。
常春のカナリア諸島は7つの島からなる。ロベルトの生まれたテネリフェ島は、スペイン領内最高峰の、標高3718mのテイデ山を有する火山島で、地域ごとにブドウ畑の風景も大きく変わる。温暖湿潤な北側のタガナン村は鬱蒼としており、急斜面の不規則なテラスにブドウ樹が這うように茂り、オロターヴァ地域では、三つ編み仕立てとでもいうべき、10m以上にもなる、枝の絡み合ったコルドンで仕立てる。さらに、標高1000mのテイデ山の麓では、極度の乾燥にも適応できるよう、ゴブレ仕立てにされる。迫力の畑の様子に加え、エンビナーテ4人の無理のない醸造により、風景そのものを封じ込めたようなワインへと変化する。
~プロフィール~
合田 玲英(ごうだ れい) 1986年生まれ。東京都出身。
2009 年~2012 年:ドメーヌ・レオン・バラル(フランス/ラングドック) で研修
2012 年~2013 年:ドメーヌ・スクラヴォス(ギリシャ/ケファロニア島) で研修
2013 年~2016 年:イタリア/トリノ在住
2017 年~:日本在住