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合田玲英のフィールド・ノートVol.62 《 気候変動がもたらす醸造の変化 》

 2018 年 7 月のヨーロッパ出張。1 週間ずつフランスと、スペインに来ている。今年は霜もなく、雹の被害以外は順調なのかと思っていたけれど、現地に来てみると全くそんなことはなかった。

 なにしろ雨の多い日が続いています。ロワールでは、特に一部地域において、ベト病の被害による生産 量減が、去年の霜による被害よりもひどいほどだ。暑く乾燥するにしろ、寒く冷涼、多雨な気候にしろ、 極端な天候が続いている。

 雨が多く、病気が蔓延したり、乾燥のしすぎで、果実の熟成が難しかったり、と畑の中での対応にも、 工夫が必要だけれど、醸造面でも、変化は起きている。

 

大型木製フードルの空樽問題 ≪アルザス≫

 アルザス地方の【ピエール・フリック】では、収穫量の増減が、設備の維持の面で、難しい問題になっ ている。アルザス地方では、伝統的に大きなフードルでの醗酵・熟成を行っているが、この数年の不作に より、樽を満たせないことが多くなって来ている。

 なかには、100 年近く使っている古いフードルもあるが、液体が中に入っていないと乾燥が進んでしまい、 一度乾燥してしまうと、古いフードルではなおのこと、修理もできない。他の液体を満たすことで、一時 しのぎができないかと思うけれど、水を長期間入れておくと、樽は大きく変質してしまうそうだ。

 「もともと、フードル自体を完全に満たすことも少ない。そのうえさらに乾燥が進むと、もう、どうす ることもできない」と、ピエールは言っていた。

 とはいえ、やはり 100 年もののフードル、なんとか活用できないものだろうか…

 

高まるアンフォラへの関心 ≪ロワール≫

 管理の難しい木製の樽に代わって、造り手たちの興味を引いているのが、アンフォラ。セメントやステ ンレス製のタンクを使いたいとは思わない造り手たちが、土製の容器に関心を寄せている。目が細かく、 通気性が木製の樽よりも低いアンフォラは、空の状態でも清潔に保てるため、その年の収穫量に応じて、 先に木製樽からワインを満たし、必要があれば、アンフォラも使用することが可能となる。

 【レ・カイユ・ド・パラディ】でも、数年間満たすことのできない樽が増えて、使用不可能になった結 果、捨てなければいけない樽が幾つもあった。

 「ワイナリーを設立した時から、20 年以上も使い続けて来た樽がたくさんあったのに、捨てなければな らなかった。これからどのように気候が変動して行くかわからないし、また将来捨ててしまうかもしれない。バリックを新調するよりは、アンフォラを使うというのもいい考えかもしれない。」と、クロード・ クルトワは話す。

 

マセレーションによる発酵促進 ≪アルザス≫

 また、ピエール・フリックでは 2013 年から、複数の白品種でマセレーションをしている。ピエールによ ると、マセレーションをすれば、糖分をほとんど残さず短期間で、1 次発酵が終わる。

 逆にいえば、残糖のある状態で、マロラクティック醗酵や熟成をすることがなくなるそうだ。

 特に 2015 年や 2017 年などでは、果汁の PH が下がるので、マセレーションをすることで、すぐに醗酵 がはじまるという利点がある。

 

結語

 アンフォラでの醸造や、白ブドウのマセレーションをしたワインが増えている背景には、やはり気候問 題がある。流行りや、新しい味わいを求めるという動機もさることながら、気候変動に対応しようと、各 造り手が考えた結果なのだ。

 この数年、フランス北部の作り手が、南部のブドウを買うのも、売るためのワインを造るという目的の ためだけでなく、醸造設備の維持という側面があるのだ、とわかった。(了)

 

~プロフィール~

合田 玲英(ごうだ れい) 1986年生まれ。東京都出身。
2009 年~2012 年:ドメーヌ・レオン・バラル(フランス/ラングドック) で研修 
2012 年~2013 年:ドメーヌ・スクラヴォス(ギリシャ/ケファロニア島) で研修
2013 年~2016 年:イタリア/トリノ在住
2017 年~:日本在住


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